三ヶ月



 三日三週間三ヶ月三年、何かの切れ目ってのは大抵そんなもんだろう。だからワンパターンの前戯と体位、これぞマンネリってセックス続けて三ヶ月、そろそろ飽きてもいいんじゃねえかと思うんだが、毅は普通に反応するし俺も普通に勃っている。フェラもされねえってのにな。まあ多分、させようとすりゃあさせられる。こいつはきっとうまくなる。想像は簡単だ。そっちもマンネリ化の一途なのに、やっぱり飽きはきやしない。
「……ッ、う……」
 俺とのセックス中、毎回毅はこんな風に最後の最後まで声を抑えようとする。俺の頭ン中の毅はそうじゃない。俺が体に触るだけで鳥肌立ちそうな高い声出して触ってほしい場所を具体的に言ってくる。頼む、慎吾、ちゃんとしてくれ。そんなことを俺に言う毅なんざこの世のどこにもいるわけねえのに、俺はそれをリアルに想像して抜いている。それにも飽きがこねえってのが、どうしたもんかって話なわけだ。春の露出者逮捕祭りも始まってんだぜ、もう。

 何でこんなことになったのか、っつったら俺はキャベツのせいだと断言するね。キャベツ。カツの添え物おかわり自由の高原野菜。そのキャベツを毅が持ってきた。二つ。婆さんからの送りものだとかで、柴田と夏雄に分けてもまだ余ってるその黄緑ボールの最後の押しつけ相手に毅は俺を選んでくださったらしい。その時俺はパンツ一枚っつー冬の真っ最中には不適切な格好で出ていって、ファッションセンスが微妙な毅もそんな俺を見て寒くねえのかと聞いてきたが暖房利かせた部屋でオナニーした後ってのはすぐにもそんなに冷えないもんだ。いや別に、俺が答えると毅は俺の頭の中身を疑ってそうな顔をしやがりつつもまあそれ以上イヤミなんかを言ってくることもなく(俺からイヤミを言わなけりゃあいつの受け答えは大体単純だ)、ビニール袋に入ったキャベツ二つ廊下に置くと、じゃあそういうわけだ、またな、と帰ろうとした。それを俺は、引き止めていた。無言で。腕を掴んで。だからキャベツのせいだ。十個のキャベツが毅の家に届かなけりゃあ毅がその時俺の家に来ることもなかったわけで、そうすりゃ俺が想像の毅でオナニーした直後に現実の毅を見なくても済んだわけで、想像とは全然違うのに毅に違いはねえそれに混乱しなくて済んだわけで、そのままそんな毅を無言で押し倒すなんてことにもならなかったはずなんだから。そうだろ? まあそもそも、毅をズリネタに使ってんじゃねえよって話なのかもしれねえけど。

 沙雪の奴に勢いで惚れて見事にフラれた毅を見て、俺は初めて実感したというか、思い知らされたことがある。こいつにもいつか、女はできる。沙雪みてえな跳ねっかえりはモノにできなくてもそれなりのタマならいつかは見つけられるだろう。そう悪くもねえツラ(バランスは割と良い、濃いけど)に悪くもねえ性格(穴だらけだが犯罪者ってわけじゃない)に悪くもねえ稼ぎ(というかよく分からねえ金)を持ってて本人が女を欲しがってんだから、いつかはくっつくこともあるはずだ。付き合ってセックスして結婚して子供を作る。ご健全な家族計画。
 毅がフラれた一部始終、っつーか正確には箱根の島村栄吉って馬鹿なR32乗りにあいつがリベンジかました一部始終なんだが、それ真面目に思い出すと自分の立ち回りの三流っぷりにむかついてくるから置いといて、とにかくその一件を見る気もねえのに見届けてから部屋に帰って風呂済ませてチューハイ飲みながら変なテンションでそんな毅の今後の人生について考えていた俺の頭は、いつの間にかその中のセックスだけをクローズアップしてた。どっかの女に前戯して濡らして突っ込む毅。腰使ってる時でもうるさそうだよな。AVでもいるだろ、お前少しは黙っとけよってレベルの声出す男優が。お前の喘ぎ声でいくために見てんじゃねえんだよこの野郎ってタイプの、毅の奴もそうなんじゃねえかと、で、俺はそんな風に女とやって喘ぎまくってる毅を想像してたらむらむらしてきてどうしようもなくなったんで、抜いた。女とやってるあいつを想像して抜いていた。
 今まで経験した中で、それは最高に気持ちいいオナニーだった。そしてやった後最悪に死にたくなるオナニーだった。だっておい、毅だぜ。毅にやられてる女じゃねえ、女をやってる毅に俺はとんでもなく興奮したんだ。あいつが感じてる顔とか喘ぎ声とか振ってる腰とか想像してな。そりゃ死にたくもなるだろ。同じチームの走り屋でこいつにだけは絶対負けたくねえって相手、べたべたすんのは違うと思える、けどいくら癪に障るとこがあっても全部が全部ってわけでも全然ねえし同じ次元で話が通じる奴も他にいねえし車のことなら大体一緒に行動しちまってる、男だ。男。八十年代くらいの田舎の役場にいそうな奴。地元育ちの若手で真面目で熱くて野暮ったいお世話焼き。そうじゃねえけどそれっぽい、そいつのセックス想像しながらオナニーして、できたってのは、周りの奴らに耳にタコができるくらいマニアックだとか言われつつも(趣味と現実は違ェんだよ)ドノーマルで通してきた俺としてはそんなはずはねえって感じの一大悲劇で(趣味ですらなかった現実だ)あんまり気分が落ちすぎて、その後泣きそうになりながら走っちまったよ。外を。部屋着のまんま。裸足にスニーカーで。で悪酔いして植え込みに吐いた。吐きながら泣いていた。アホか。
 まあだから、そんな自分を自分で張り倒したくなるようなことやっちまうくらいには俺もショックで自己嫌悪が一週間は抜けなくて煙草代がやたらと飛んで、けど人間あれだ、性欲には勝てねえし死にてえような後悔もそれはそれでクセになるしで半分立ち直ってから何回もそれで抜いてるうちに、俺の頭ン中の女をやってる毅は女にやられてる毅になって、俺がやってる毅になった。これぞ妄想の賜物ってやつ。

 元々毅の奴は馬鹿なくせに変に真面目で自分から泥沼に入ろうとするマゾヒストだし(胸目当てにしても沙雪に惚れるってのがもうな)、やってるよりもやられてる方が似合うんだよ。それに気付いちまったら俺の頭ン中の毅はやってやろうって俺を張り倒そうとする鈍感強気なクソ野郎から淫乱M男にシフトして、それがまたよく似合いやがるから歯止めも利かなくなってったわけだ。
 例えば後ろについて内ももを撫でる。それだけで俺の想像の毅は感じまくる。壁に手をついてねえと腰が砕けて立ってられなくなっちまうくらいに。内ももを上下に撫でながら耳をカリッと噛んでやれば、慎吾、と甘えきった声で毅は呼んでくる。その時の毅の顔も俺は簡単に想像できる。俺にされたくてされたくてたまんねえってだらしない顔。そんな顔しながら毅は言うんだ、もっと奥をいじってくれ。奥?、俺は聞く。奥って何だよ。分かんねえな。俺の笑いに俺の(想像の)毅は弱い。俺の手はいやらしく毅の内ももを撫で回す。ぎりぎり股間には触れない範囲で。だから最後には毅も俺にすがってくる、いつもは妙にドス利かせてるけど怒ると高くなって小物感漂いまくる声を、もっと高く情けなく震わせながら、慎吾、頼む、ちんこ触ってくれ、いかせてくれ、って言ってくる。
 俺もそこまで言わせたら毅の望み通りにしてやらないこともない。あいつが部屋着にしてるジャージの上から硬くなりまくってるちんこを揉んでこれでいいかと聞いてやる。それだけで毅は感じた声出しながら直接触るように求めてくる。もっとちゃんと触ってくれ、ちんこ触ってくれ、頼む慎吾。仕方がないから俺はあいつのジャージとパンツ下ろしてちんこを直に触ってしごいてやって、それを想像しながら自分のちんこをしごいてる。あいつを焦らすように自分を焦らして、あいつを追い詰めるように自分を追い詰める。これが最高に気持ち良い。クライマックスはあいつが俺の股間に生尻をぐりぐり擦りつけてくるあたり。中に欲しそうに俺のちんこを外からケツで擦りながら、あいつは泣きそうな声で言う。もうだめ慎吾、いっちゃう、出ちゃう、慎吾、いく、慎吾。淫乱女みてえにそうやって喘ぎまくりながら俺の想像の毅は俺の手の中に精液出して、現実の俺も俺の手の中に出している。拭き取らなきゃいけない精液。最悪な死にたさも慣れてくると薄まるもんだ。消えはしねえけど。
 そういう想像ってのは見まくったAVを思い出すみてえなリアルさで(映像も音声もばっちり揃ってる)、本当に俺はそれ毅にやってて毅もそうやったんじゃないかって錯覚しそうになる。まあ実際毅とセックスしちまえばそんなのはやっぱり俺の妄想の産物に過ぎねえんだと分かるんだが。でも想像は衰えねえから、マジでどうなってんだって話なわけで。

 すぐに押し倒したわけじゃない。キャベツの時だ。目の前に毅がいた。現実の。それで俺は混乱した、んじゃねえかと思う。自分の秘密がバレちまったような感じ。そんなわけはねえのにな。ただまあ、一人でやってたことが他人にどう見られるかって現実を考えさせられたっつーか。ほぼ考える前に頭はフリーズったけど。それで俺は毅を引き止めていた。毅に逃げられないようにした。逃げられたくなかったからだ。俺がやってることを知った毅に逃げられたくはなかったからだ。だから知られてねえってのに、でも多分、その時の俺にとっては目の前の毅が全部の毅で、それをどこにもやりたくなかったんだ。そいつがなくなったら、俺の頭ン中のあいつもいなくなっちまうような気がして。悲観的すぎんだろ、ってのは俺がよく分かってる。被害妄想強すぎだろってのも。でも混乱したら本性とか抑える余裕もなくなるだろ。それだよ。
 で、その時の混乱しまくった俺はとりあえず毅を壁に押しつけて、見詰め合った。何かを言おうとした気がする。けど結局言葉が見つからなかった。ありきたりな話。だからキスをした。毅の奴は当然普通に抵抗する。想像とは違うんだ。あいつは俺を突き飛ばそうとして、でも、結局そうはしなかった。あいつは俺を見て、俺はあいつを見ていた。二人とも動きを止めてそのまま見合った。
 自分がどんなツラしてたんだか俺には分からない。鏡もないし見れてないからだ。ただまあ切羽詰まってたんだとは思う。何とかうまいこと切り抜けねえとって状況なのに何も考えられねえし、けど毅の奴を逃がしたくねえしでもだからっていきなり毅相手にキスかました自分は意味不明で気持ち悪ィし、それでこれからどうすんのかもやっぱり考えられねえし、って具合にテンパってる俺を見るとあいつは大抵どうしたいいのか分からなそうな顔をするんだが、その時あいつはそういう顔をしてたから俺は切羽詰まった顔してたんだろうって予想ができるわけで。
 毅はそんな俺を見て、抵抗するのをやめた。いや、やめたんじゃない。できなくなったんだ。あいつはいつでもそうだった。俺のことなんざ眼中にねえみてえに峠で威張りくさっておいていざ俺がどうしようもなくなったら、俺の傍から離れようともしねえんだ。いやつまり、あいつはそうできなくなっちまう。俺があいつのことを何かある度にあいつならどうするかとか考えるのをやめられねえみたいに、あいつは参った俺のことをほっとけない。って考えねえと、もっかいキスして舌突っ込んでぐちゃぐちゃやりながら体抱いて布団まで歩いて押し倒した、その間もそっから先も、毅が抵抗しなかった(止めたそうにはしたけど止めなかった)理由も説明つかなくなる。
 あいつは俺をほっとけなかった。俺はその弱みに付け込んだ、って流れになるんだろう。抵抗できなくなってる毅をそのままやっちまったんだから。弱みに付け込んだセックスだ。青春小説でも昼メロでもねえだろって陳腐さの、その時の毅は想像とは大違いにとにかく苦しそうで萎えまくってて俺は途中で興醒めしてるのがしかるべきってなもんだった、なのに全然萎えなくて、苦しみまくってる毅のきっつい尻を普通に突いてそれで感じていっていた。多分俺の根本的な問題は、そこにある。

 俺が毅の家に行くってのはもう、青天の霹靂だの驚天動地だの宇宙人襲来って騒ぎ立てるほどのことじゃあない。大山鳴動して鼠一匹。いや鼠一匹も出やしない。俺が出さない。まあつまり、昔(っつーか一年くらい前)と違って今の俺は毅の家に時々峠帰りに寄ってみたり暇な時に寄ってみたりもする。それをうちのチームの連中が毅さんに色目使ってんじゃねえよとか隙あらばイチャつこうとしてんじゃねえよとか毅さんと同棲するのは千年早いだとかいまだに色々言ってくるのは馬鹿じゃねえかと思うんだが、実際奴らは銀河系の馬鹿だから仕方ないっちゃあ仕方ない。俺が毅の家に行くだけじゃなく毅がうちに来るってこともあるのに俺にだけそういうことを言ってくるのもまあ、毅の奴がそれ聞いたらあいつは絶対変なリアクションするからいいとして、しっかし男同士で色目だイチャつくだ同棲だって発想はやっぱ馬鹿だろ。普通ねえよ。色目に限って言えばあるけどあいつらの前じゃ使ってねえし。ありゃ毅の家に行って毅の奴を黙って見る時だけだ。それで毅は俺がやろうとしてることを理解する。週一ペースで。
 それも知らずに毅さんが毅さんがっつってくる馬鹿どもにいちいち構ってやるのも面倒なんで、俺は適当にあしらってる。あいつらキレてみせたら面白がって付け上がりやがるしそのくせ急に冷めてどっか行きやがるし。まあ毅のことを尊敬してそんな風に言ってくる奴もいるんだろうが、それも角度がおかしいってのが可哀想なとこだよな。毅の奴が。そんなんだから現実的に考えてる奴もいないはずだ。今俺が毅とどうなってるか、毅が俺とどうなってるかを。俺だって、現実的に考えるってことはない。現実的にどうするかって、俺があいつについて考えようとしても、妄想まっしぐらのワンパターンになるからだ。こんなことまで反射的にできるようにならなくていいと思うんだけどよ、ドライビングじゃねえんだからさ。

 例えば俺が命令すれば毅は最初から尻に玩具を仕込んで待っている(らしさ出すために張り形とでも言っとくか?)。自分でそれ入れてパンツとデニムで抑えた毅は俺が来る頃にはもうちんこをがっちがちにして待ち構えているわけだ。俺にやられるのを。布団に座りながら。そんな毅の顔は眉毛の端も口の端っこも垂れ下がって真っ赤になった頭いっちまってそうなエロいやつで、俺はそれを想像するだけで勃っている。  でも想像の俺はまだ勃ってない。俺が毅の部屋に行って中まで入ると毅は俺の足にすがりついて俺のカーゴパンツのベルトを外して前を開ける。おい急ぎすぎだろ。俺が言っても毅は止まらないで俺のちんこを咥えてくる。俺の頭ン中のあいつはホントうまそうにフェラをする。あいつにとって精液なんてデザートみたいなものなのかもしれない。甘くてうまいそれが欲しくて毅は立ったままの俺に口だけで刺激がくるフェラをしてきて、そこで想像の俺は勃起する。そりゃするだろ。普通の女よりすげえテクでされるんだぜ。しかもうまそうに。俺のちんこじゃないと満足できねえって感じに一生懸命、でも激しい音立てて下品にしゃぶるんだ、あいつが。毅が。勃起するに決まってる。
 その想像だけで俺はいきそうになるからちんこをしごく手を加減する。ゆっくりじわじわ最低限の快感のラインキープしてその時に備える。セックスもそうじゃねえと微妙だがオナニーだって一番盛り上がった時にいくのが気持ちいいんだ。
 想像の俺は勃ったら股間から毅を剥がして(あいつは残念そうにする、俺の精液が飲みたいから)、後ろ向かせてデニムを脱がせる。パンツも下ろすとあいつの尻から出てる張り型が見える。シリコン製の黒いのがいい。尻に黒ってグロいだろ。それをあいつが仕込んでるんだ。俺の命令通りに俺にやられるのを待ちながら、ちんこ勃たせてどろどろに濡らしてる。そこまでほしがられたら俺にも俺じゃなくてもいいのかよって玉までついてそれ動かしていかせるくらいの意地悪してやるサービス精神も出てくるし最初は違うだ何だ言っててもそれで感じまくって射精するあいつは最高に猥褻で、精液出してる間に張り形抜いた尻に俺のちんこを入れてやって俺の方がいいだろって聞いたらいいと素直に答えるあいつもエロいから、そこで現実の俺はちんこをしごく手から加減を取る。
 頭ン中でならバックからやってる時でも毅の顔をフカン的に想像できる。完璧気持ち良すぎて頭のネジが緩みまくってるひでえ顔。ヤクでもかましてんじゃねえかってくらいの他の奴らが見たらドン引きするような顔を、バックから俺にやられながらあいつはする。俺の毅はそっちの方が感じるんだ。後ろから強引に腰入れられるのが好きで好きでしょうがない。だから俺はあいつの好きなようにやってやる。そうすりゃあいつは俺がいいと泣き叫ぶ。俺の名前を呼びながら俺が一番いいと言う。慎吾、いい、お前がいい、一番いい。あいつの甘ったれた泣き声なんて俺は現実に一度も聞いたことがない、でもちゃんとリアルに想像できる。想像の俺はそういう声を毅に上げさせながら、毅の尻に出している。現実の俺はそのタイミングでいけるようになっている。何を身につけるんでも大切なのは反復だと思い知らされるね。同じ想像何度もしてりゃあ想像でいく時に現実でいけるようになるんだから。そんなテクニックは要らねえけどよ、別に。

 俺の頭ン中の毅はそれだけじゃなくて、俺に見られて罵倒されながらオナニーしたがるし(俺が冷たい顔でお前マジでキモイんだよ頭おかしいんじゃねえのとか言うと泣きそうな顔して感じまくる)、俺に踏まれるのも大好きだし(頭でも背中でも尻でも足でも腹でも、でもちんこを踏んでやると一番嬉しそうな顔して勃起する)、俺に抱かれないのを三日も我慢できないし(ケータイにかけてきて俺にオナニーの許可を求めてくるから俺はあいつに実況するように言う)、両手両足テープで巻きつけて放置してやるだけでも勃起する(口にも巻いたら口でねだる代わりに俺を熱い目でじっと見てくる、それで目も塞いだらちょっと亀頭擦っただけでいっちまう)。もう意味分かんねえな。どこが毅なのかって話じゃねえか。妙義最速をやかましく主張してくるRキチ、ブルーカラーのくせに普通に金持ってやがる謎な奴(変なバイトでもしてんじゃねえか?)、先輩風吹かして俺に説教したがる空気の読めない馬鹿野郎。それを誰かに馬鹿にされてもそいつらが困った時には下手な押しつけがましさ発揮して助けるようなお人好し、なのに自分がどうしようもなくなった時には誰にも頼ろうとしないマゾヒストだ。
 いやそうじゃない。そうじゃねえってのは分かってる。あいつは誰にも頼らずやってける。どんだけ辛くて苦しいことでも自分一人で解決できる、だから誰にも頼ろうとしないだけだ。だから俺は、頭ン中であいつを俺に頼らせる。俺なしじゃいられないようにする。セックス使って。根本的な問題の。

「……ん、くッ……」
 毅が抑えようとする声ってのは俺で反応してる声で、これは反復の賜物だ。最初は拷問かけられてるようなやられ方だった毅が感じるようになったのは、早かった。俺が最初の時よりも少しは冷静で丁寧にやったってのもあるんだろう(そういう気遣いは得意な方だ、普通なら)、二回目で、毅は勃った。三回目でやってる間に射精した。俺がさせた。後は代わり映えもしない。俺がやりすぎない程度に前戯すりゃあ毅は勃つし、俺も勃つし、尻に入れればどっちも最後には射精する。ワンパターン。それでも俺は飽きずに毅を抱いている。想像はマンネリ化してるっても現実の毅の唇とか舌とか口とか肌とか肉とか尻ン中とかの感触のおかげでグレードアップしてるから、実際よりも過激っつーか刺激的なはずなのに、俺は毅を抱くのをやめられない。勃つくらいには感じても声を抑えようとして俺に頼ってこようとはしない、想像の淫乱毅に比べりゃつまんねえ反応する生身の毅、でもその毅の方が確かに毅で、俺はそれが、ほしいんだ。それは毅なんだから。俺の知ってる毅、俺と走り屋やってる毅、俺がいなくてもやってける毅。
 そいつに飽きたら俺は、このマンネリ化してるセックスにも想像にも、やっと飽きるのかもしれない。でもきっとその時俺は、走りにも飽きなきゃならなくなるだろう。走りにも車にも飽きてEG‐6か乗り換えてたら別の車手放して、燃費の良い軽とかオートマのコンパクトカーとか補助金でるエコカーとか乗るようになる。いつだそりゃ。老後か。まあそういう俺なら毅のこともどうでもよくなっちまうってわけだ。走りにも車にも適当に見切りをつけて、手軽な人生送ろうとする俺なら毅の奴をやらなくたって、何ともない。に違いねえ。けど今の俺はそうできない。今の俺は俺の好きなもんに見切りなんてつけられねえし、そんな俺に見切りもつけられない、そういう俺が毅の奴をほしがってるのが多分、根本的な問題なんだ。
「……ふっ、ふぅ……んッ、う……」
 毅の呼吸が速くなる。顔はどんどん歪んでって尻はびくびく締まり出してるから、俺が腰振りながら手でしごいてやってるこいつのちんこがすぐに精液出すってのがもう分かるし、俺はそれに合わせていけるように調節できる。そのくらい余裕のある俺は、ついつい余計なことを思ってる。
 なあ毅。今のお前は何考えてんだ。お前はどうして俺にさせるんだ。どうして俺で反応するんだ。本当のお前って、そんな奴じゃないはずだろ。俺がそう思ってただけなのか。お前はそういう奴なのか。それとも俺だからか。俺だから、お前は、やってるのか。俺みたいに。なあ毅。毅、毅、毅。教えてくれ、お前は俺を、どう、思ってるんだ。
 そんなことを思い始めたら俺は、とりあえず毅にキスをする。じゃねえと何か言っちまう。本当のこいつがどう思ってるのか聞いちまって、こいつは何かは答えてくる、言葉でも表情でも体でも、そうすりゃ何かは終わらせられんのに(無言のセックス、妄想でのオナニー、そうさせる気持ち)、それが怖くて俺は毅にキスをして自分の口をきっちり塞いで、こいつをいかせて俺もいく。
 だから結局現実的な話としては、この臆病者をどうしたもんかってことなんだろう。毅じゃなくて、この俺を。それはいつか(近いうちのいつかだ)考えなけりゃいけないことで、ただまだ何にも飽きてねえ俺には毅以外をどうするかなんて、くだらねえと思えんだよ。俺も含めてな。
(終)


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