緩やかに
口から漏れ出す自分の声がひどくうそ臭く思えていた。そのくせ快感だけははっきりとしていて、太いそれで内側を擦られるたびに触られてもいないものがひどく脈打つ。相手の顔が見えない体勢は、自分の存在だけを追える利点があるはずなのに、肌に触れる掌のざらざらとした感触、首筋に当たる熱い息、耳を舐める低い声、どれもが侵入者の存在を知らしめて、惨めさに、胸が痛くなった。浅くなる息、高まる自分の声、満ちる屈辱、煽られる快感。先に達してくれないかと思ったが、一向にその気配はなく、しつこく中をえぐられる。名前を呼ぶと、故意に勘違いをされる。
「良さそうだな」
その熱い息と、冷静な口調が、頭を混乱させてくる。いつでも拒絶の言葉を吐いているのに、通用した試しがない。嫌いというよりも、憎かった。それでも触れられると体は熱くなり、中心は硬くなる。何が良いのか中里には分からない。なぜこうされるのかも分からない。話す機会も与えられない。理由を知りたかった。けれども、知りたがるということが、別の意味を持ちそうで、拒否をする他の選択はできなかった。体の内側から、粘膜が擦れる音が響いてくる。自分の声はもう聞こえない。シーツを掴んでいた手を、濡れそぼっている自分のものに誘導される。動きも止められない。肉体の歓喜とともに、また一つ、自分の中で、何かが奪われたように中里は感じた。
(終)
2006/10/02
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