他人
その頭の回転の悪さや自惚れの強さ、プライドの高さと妙な従順さは清次によく似ていたが、決してこちらに懐くことはなかった。付き従えるなど、もっての他だと顔に書いてある。だが常に怯えているようだった。京一は一切それを斟酌しない。恐ろしければ逃げれば良い。嫌ならば跳ね除ければ良い。それができないと言うのであれば、本人の心に甘えがあるからだ。何者かの、あるいは規範による救いを待っている――他力本願な精神。なぜこの男は一つのチームの長となっているのか? 誰も気付かないのだろうか? この男が、これほど容易く貶められる脆弱な人間であると。見過ごしているのか、見逃しているのか。馴れ合い、庇い合い。すぐに目の裏に浮かぶようだ。弱味を知っている者同士の陰湿的な結託、同情的な粘着、正義的な譲歩。それを否定する気はないが、それがすべてに適応されると考えている人間は愚かだと言わざるを得ない。
ただ、一定の評価はある。実直さと真面目さと潔癖さ、均衡の取れている傲慢さと優しさ、計算し尽くされたような明確な人格。指を這わすだけで反応を示す体。良いだろう。真の馬鹿を囲うほどの寛容さも持ち合わせていない。少なくとも、存在を許せるほどの賢さを、この男は保っている。
「…………ッ」
いつものごとく声を抑え、苦痛な表情を崩さない。最初はそうだ。京一は焦らない。ゆっくりとなじませていく。既に十分に開いている足に手を添えて、寸前まで抜いて、深く入れ戻す。良い締まり具合だった。反射的な快楽が動きを速める。それを思考で操作する。
「……う、ん……んッ、ん」
やがて声が聞こえてくる。寄せられたきっちりとした眉、さまよう濡れた目、赤みの差した肌、噛まれた唇。泣きそうに、鳴くように歪む顔。そそり立つ陰茎。聴覚と視覚から刺激がもたらされる。知れば良いのだ。誰も彼もが知れば良い。真実を刮目し、判断するべきだ。この男に加担するのか、己を貫くのか、管理するのか。
何かを探るように宙に浮く手を取ってやる。律動的に抽送を行い、いよいよ没頭する。
「……やッ……」
言葉は聞かない。要求は聞き入れない。やがてはこの男も力尽きるだろう。その前に何がしかに助けられるか否かは、京一の知るところではない――それは、他人のことだ。
(終)
2006/10/27
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