バックスクリーン



 目の奥がチカチカとする。瞬きが多くなる。自分の意思ではない。体温が上昇する。血流が激しくなる。動悸がする。汗が出る。筋肉が緊張する。
 京一はソファに座っている。低めで硬めの自室のソファ。ここで横になることもある。慣れ親しんでいるソファ。そこに京一は浅く腰掛けている。
 足は大きく開いている。その足の間の床に男が座っている。知人程度の男。顔と名前くらいしか知らない。それと乗っている車、住んでいる県。他は知らない。ろくに話したこともない。その男が京一の足の間にいる。
 京一のジーンズの前は開いている。京一が自分でホックを外しファスナーを下ろし、下着からペニスを出した。そのペニスを足の間に跪いている男が咥えている。舌で舐められている。唇で覆われている。口腔粘膜に擦られている。
 蛍光灯の白さが目の奥にある。腰がじっとりと重い。動かしがたい。口が渇いてくる。毛穴からどんどん汗が染み出していくのに、口の中からは水分が失われていく。唾を飲むと、意外に大きい音がする。それ以上にペニスを吸われている音は大きい。粘的な音、かき回される水の音。
 車のガソリンを入れなければならないと思う。そろそろ台所の掃除もしなければならない。
 快感が深まるごとに関係のない事柄が頭に浮かんでくる。ペニスを咥えられることの快感。
 粘膜が温くぬるぬるとしたものに擦られている。亀頭がねぶられ幹がしごかれる。
 ボーナスが頼みの綱だ。結婚はできるだろうか? 車を諦めるつもりはない。まずは相手を探さねばならない。普通の女性でいい。結婚するには女性を探さなければならない。男にペニスを咥えられている場合ではない。知人程度の男にペニスを咥えさせている場合ではない。
 足がむずむずし出す。射精したい。今すぐぶちまけたい。こうしたかったのだろうか? 限界が近くなるほどに思考がこの場に戻ってくる。言葉は交わしていない。ろくに話をしたことがない。意思の確認はしていない。それでも京一は自分のペニスを空気に晒し、男はそれを咥えた。そして京一は勃起した。
 男の経験の有無は知らない。考えたくもない。射精を促されている。腰にまとわりつくじっとりとした重さ。それを晴らしたく、動きたくなってくる。
 京一は天井を見ている。蛍光灯の光が目の奥に刺さっている。男がどこを見ているかは分からない。咥えられてから目を合わせていない。意思を交換していない。だが京一の希望は叶えられつつある。もうすぐだ。もうすぐ終わる。
 終わった後に何を言うべきだろうか? 思考が動く。考えたくもない。腰が動く。今はただ、男の口の中に精液をぶちまけたいのだ。
(終)

2008/06/25
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