測切
帰宅してすぐ充電器にセットしようとした携帯電話が突然鳴る。己の過失に苛立つ性分はそれに余計に神経を乱されるが、対応を流すことも許さない。番号は見知らぬものだ。通話しながら充電しても問題はないと判断し、先に着信に出ると、
「須藤か?」
聞き覚えのある掠れ気味の低い声。それを意識するより先に強張る指に瞬時に力を入れて、携帯電話の落下を防ぐ。
「ああ」、動揺を表さぬ声を出せば、
「突然すまん」、困惑の表れた声が返される。「ナイトキッズの中里だ」
その声が語った話によれば、今日こちらに来る予定だったのが、来られなくなった。チームのメンバーが、トラブルに巻き込まれたからだ。
「大したことでもねえんだが、勝手に始末させると状況が悪くなりそうでな」、それを清次に伝えたら、忙しいから自分で言えとこちらの番号を教えられたという。
「そういうわけだ。悪いな、約束したのはこっちなのに」、申し訳なさそうな声に、
「いや」、と短く返しながら、動かずにいる。充電しなければ電池はいずれ切れるだろう。すぐかもしれないし、まだかもしれない。
「良かったら、また付き合ってくれ。今度は何があっても絶対そっちに行くからよ」
その声には、笑いが含まれる。その顔が思い出される。距離の近い、空気の近い笑みの浮いた顔。いや、そんな記憶は存在しない。そんな親しい顔で笑いかけられたことはない。だがそれは脳裏に確かに存在する。そういう声の主が、閉じた目のすぐ先にいる。
「好きだ」
それに対して京一は言った。三秒後、電池は切れた。
(終)
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