合ってねえよ



 見られていた。探るような目つき。いや、何かを確かめるような目つきだ。
「何だ?」
 そちらを見ずに、京一は尋ねた。声は鮮明に、聞き逃されぬ大きさをとった。
「あ?」
 間抜けな声を、中里は上げた。京一はそこで、中里を見た。面まで間抜けだった。だがそれは、すぐにまともになった。
「ああ……いや、あんたに『分からない』って言葉は、似合わねえと思ってな」
 話が分からず、京一は眉を寄せた。
「『分からない』?」
「何でも分かってそうだからよ」
「そんなことはねえよ。俺が哲学を語れるとでも思うのか?」
「やろうとすりゃあできそうな、そんな雰囲気だ」
 真面目たらしく中里は言う。誤解も甚だしい。京一は鼻から息を吐いた。
「何だって、そんな風に思う」
「さあな。あんたを見てると……」
 言葉が切れた。中里は、戸惑った顔であたりを見ている。京一もつられて見る。平坦な駐車場。車の立てる音と、生み出す光に覆われている土地。いつもと変わりのない場所。
「ここを見てたらよ」
 中里が、言葉を続けた。京一は中里を見た。かすかな笑みが、そこに浮いていた。
「あんたは何でもできるような、そういう奴に見えてくるんだ」
 その顔のまま、中里は京一を見てきた。京一は目を閉じ、ゆっくりと首を横に振っていた。
 いくら見られても、この男にできることなど、何もない。
(終)

2008/06/25
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