本気
二人きりの時に、何も言わずにいきなりキスしてやったりすると、キョドりながら中里が怒ってくるのは多分、まだ俺が、信用されてないからだろう。俺の気持ちが信用されていないからだろう。一緒にいたくて話がしたくて、キスがしたくて突っ込みたい。そういう俺の気持ちを、中里は信用していない。
初めて秋名山で会った時、こいつは俺のFDを見事にけなしてくれて、俺のことはあっさりブラコンと断定してくれたけど、そういう敵対的態度で接した相手が、好意を持つなんて、まあ考えにくいのかもしれない。それに俺は、こいつのホームでバトルをして、勝った後に、こいつにこっぴどいアドバイスをくれてやっている。好きな相手にするには、気遣いなんて欠片もないアドバイス。だから中里は、いまだに俺を信用していないんだろう。俺がこいつを好きだということを、信じていないんだろう。
俺としては、初めて会った時にはむかついたけど、嫌いにはならなかったし、交流戦のバトルで俺を震わせてくれたことには、むしろ好感を持って、その時点で俺は中里と、もっと話をしてみたかったくらいだ。昔の俺と同じくらい、キレた走りをGT−Rでしてみせるドライバー。そいつと俺は、一度くらい、腹を割って話をしてみたかった。ただ俺たちは、お互いのチームを代表する走り屋だった。勝った俺が優しさかけても、負けた中里の面子を、中里のいるチームの面子を、完璧に潰す手伝いにしかならないんだ。だから、俺が中里に優しくできたのは、バトルからは離れたところ。普通の走り屋として会った時。冬になる前、妙義山。まだ中里と、話をしてみたいと思っていた俺は、中里と会って、話をして、優しくした。場の空気を呼んだ話を振って、意見はなるべく遮らないようにして、フレンドリーに、でもなれなれしくはならない、微妙な距離で立つようにした。ズタボロ状態から、普通の状態に戻っていた中里は、俺の優しさを、最初は疑ってたみたいだけど、すぐに素直に受け入れてくれた。そこで俺は、ああ俺はこいつが結構好きなんだなと思って、素直な中里に笑いかけられたりしたらもう、かなり好きなんだと確信した。瞬間で、手ェ握って、キスして、抱いちまいたくなるなんて、好き以外には、ありえないだろう。
で、俺としてはこの気持ちが消えるのも、百二十パーセントありえないことなんだけど、まあ中里は俺じゃねえし、俺の気がいつ変わるのかとか、色々不安なのかもしれない。不安なら、付き合うのを認めてくれりゃあ、しっかり俺も守るのにな。抱くのは許すくせして、その辺、俺に全部預けてくることがないのが、中里という、頑固な野郎だ。でも素直。怒られるのもお構いなしに、キスを続けてやってると、がっちりホールドした顔が、段々うっとりしてくるんだ。目を閉じてる中里には、自分の顔が俺の目に、どんな風に映ってるかなんて、分かりゃしねえんだろう。太い眉毛と厚いまぶたと濃いまつげをピクピクさせて、肌を赤くしてく中里は、たまに上がる鼻にかかった声も含めて、すげえエロイ。百二十パーセントエロイ。俺の舌、何気に追いかけてくるのもたまんねえ。まあ、素直だよな。それでいて頑固。一回キスやめちまうと、すぐにそっぽを向いて、俺を突き放そうとする。なかったことにしようとする。俺が、まだ、頼んでいないからだ。やらせてくれと言っていないからだ。
けじめってやつなのかね。それとも、それがスイッチになってるのかな。俺の頼みを渋々聞くという形で、中里はベッドに俺を招いてくる。最初の頃は、俺が全部服脱がせてたけど、そのうち中里は、自分から裸になるようになった。その方が、セックスしてる雰囲気がなくて、いいのかもしれない。セックスすることに変わりはないのに、ケナゲな努力だ。
けど俺は、服の上から触ってやるのも嫌いじゃあない。微妙な感じでもぞもぞする中里を見るのは楽しいし、峠帰りの中里は、ガスとかほこりとか汗とかで汚れたままの、生の匂いがして、それを近くで嗅ぐと、何だかすごく興奮するしで、中里が服を脱ごうとする前に、俺はこいつをちゃんとベッドに押し倒して、首舐めながら、シャツの上から乳首を指で、綿パンの上から股間を膝で押してやった。圧迫されるの好きなんだよな、こいつ。すぐにイキそうな声を出す。これまでの俺のケナゲな努力の甲斐もあって、服の上からでも、触れば反応するようになった。ここまで続けてる俺の、理由をだけどこいつは、信用しようとはしない。だから、こういう時くらい、抱きついてきてほしい。俺が欲しくてたまらねえって感じで、すがってきてほしい。そうしてほしくて、俺は、焦らしてしまうのかもしれない。まあ、単に我慢するこいつがエロイってのもあるんだけど。
頭痛くなるだろってくらい思いきり目ェ閉じて、口閉じて、声かみ殺してる中里は、どうにもエロイし、ずっと服の上から触ってるだけで、限界迎えたみたいに、俺の名前を、啓介、ってちゃんと呼んできてくれた時には、まあもう、何もされてないのに、俺がイキそうになっちまう。突っ込んでもいないのに出したらもったいないから、そこで中里の服を脱がしてやって、俺も服を脱ぐ。冷却期間。中里は目を閉じたまま、されるがまま。脱がせたこいつのパンツを俺が観察しても、文句を言われることはない。見事な洗濯機直行品。これならそのままイカせてやっても、被害は似たようなものだったかもしれない。汚れの質が違うのか。でも、限界ギリギリの中里を、尻に入れた指で追い込んでやると、閉じられなくなった目で、助けがほしそうに俺を見て、閉じられなくなった口からは、ヤバイ声を出しやがるから、イカせない方が正解だ。抱きついてもらえるまであと少し。俺の名前を呼んでくる中里の、広がった穴から指を抜いて、我慢しきりの俺の息子をかわりに入れてやれば、手がこっちに伸ばされて、逃がさないって感じで、俺の肉を、骨からしっかり掴む。逃げねえよ、俺は。何回そう言ってやっても、限界な中里は、アザがつきそうなくらい強く、俺にすがりついてくる。実際、アザが残ることもある。これは、最近の話だ。
フェラなんてしてもらえそうにないし、今のままじゃあ騎乗位も無理だろうけど、最初の頃は、痛がって苦しんでばっかだったこいつが、感じまくって、気にせず俺を痛めてくれるようになっているのは、俺とのセックスとか、俺との関係とか、色々の前進と見ていいだろう。ただ、信用はやっぱりまだ、されていないと思う。素直で頑固な中里は、もしかしたら、俺がまだ、一度も本気を出していないことを、分かっているのかもしれない。もちろんセックスは真剣にやっている。好きでやっている。好きだから、本気は出していない。本気を出したら、今みたく、優しくはできない。このくらいの甘さでも、俺は満足できるんだけど、ただ、中里がずっと俺の気持ちを信用しないというんなら、そのうち俺は、本気を出してしまうかもしれない。ゆっくり突っ込みながら、静かにキスしてやるとかじゃなく、もう全部、表も裏も、肉も骨も内臓も、かみ砕いちまうようなセックス。それとも中里は、そっちの方が、よかったりするんだろうか。まあ今は、そうじゃねえってことで、俺は中里に、とことん優しくしてやった。
(終)
トップへ