風に乗って
髪の毛が、吹き飛ばされそうだった。強風が、顔に砂ぼこりや、排気ガスをぶつけてくる。それに背を向け、煙草を吸おうと、一本出して、咥えた。
途端、風向きが変わり、横殴りの風に、唇に挟んでいた煙草は、呆気なく飛ばされた。
「あ」
枯葉のように、やすやすと、宙を舞うそれを、軽いもんだな、思いながら見ていたら、追い風に乗って、走る男が視界に入ってきた。
アスファルトを足で蹴って、そのまま、飛んでいきそうな、煙草以上に、枯葉以上に、軽々とした身のこなしは、見惚れるしかなかった。
「すげえ風だな」
煙草は、戻ってきた。出した手ではなく、開けていた唇に、直接、差し込まれて、礼を言うのも、忘れた。
(終)
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