器用



 一回だけなら偶然で済む。なら二回、三回と繰り返されたら、それは何だ。必然か。それとも偶然じゃないだけなのか。埃の垂れ下がっている天井を見ながらそんなことを考えていたら、いきなり強く突き上げられて、あぁ、とみっともない声が口から漏れた。
「余裕あるんだな」
 奥まで収めてきたものを、ゆっくり引きながら、啓介が言う。強引に擦られて敏感になったところに、そうやってじわじわ刺激を加えられると、尻をよじりたくなってしまう。それを堪える余裕も中里にはない。体は白状してしまっている。分かっているだろうに、
「別のこと、考えるくらい」
 ぎりぎりまで引いた状態で止まり、啓介は続ける。落ち着いた顔、落ち着いた声。そこには嫌味も何もない。それでも何か責められているようで、中里は落ち着かない。余裕? そんなもの、あるわけがない。あるならもっと、『別のこと』を考えている。
「考えてんのは、お前だろ」
 この余裕のなさを認めたくもないが、同じにされては迷惑だ。
「俺はそこまで器用じゃねえよ」
 落ち着いていた顔を、啓介は不機嫌そうに歪める。器用じゃない? 中里は自分の尻が先ほどの刺激を求めてひくつくのを感じながら、電気的な苛立ちに襲われた。なら俺は、そんな器用じゃない奴にやられて、初めからあんなことになったのか? こんなことになってるのか? 思うと、被さっているこの部屋の主を、突き放してやりたくなったが、そうする前に、また強く突かれて、求めていた快感を注がれた体は、しがみつくことしかしなかった。
「お前のことしか、考えてねえし」
 不機嫌そうに言った啓介が、見下ろしてくる視線と同じ速度で、動き始める。どうせ今しかそうではない、ならそれは、今はそうだということなのか、今がそうなら、どうだというのか。その考えは、続く衝撃に、すぐに消された。
(終)


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