誤差
例えば数式で、最初に何か一つ計算を間違っちまうと、よほど運が良くない限り、正解は出てこない。当然だ。そういう一つのミスに俺が初めて気付いたのは、一ヶ月経ったくらいだったろうか。好きだと告げるのを忘れていた。それだけだ。俺はまあ、それでも態度で分かるだろ、とたかを括っていたが、勿論あの鈍感中の鈍感、キングオブ無神経のあいつがそんなことを分かるわけもなくて、伝える機会も掴めないまま、ズルズル流れてもう何ヶ月、になるかも面倒で覚えてない。通じ合っていると、青臭いガキみたいに簡単に誤解して、自惚れていた。俺があいつをからかい倒したいとか、独り占めしたいとか、ただ隣に立っていたいだとか、そう思っていることが前提なのだと、そこまで理解されていると信じていた。一つも言葉にしていなかったのにだ。前戯に時間をかけたり徹底的にほぐしてやったり先に何回でもイかせてやったりってのは、俺にとってはそういう前提の表れだったわけだが、あいつにとっては俺の趣味ということらしかった。完全に否定はできないが、好きでもない野郎ととことんヤれるほど俺の心は広くない。そんな俺の心の範囲も、アッサリ趣味で片付けられちまうと、今更反論するのも屈辱的だった。最初に過信しなけりゃ良かったのかとも思うが、けど、俺の手で初めて触られたのに感じてイッたあいつを見たら、そりゃまあ過信して当然だから、多分、もっと最初の段階で、俺は間違っていたんだろう。もう期待はない。希望もない。俺は俺のプライドの方が大事だし、俺に突っ込まれてヨがるあいつが確かにいる絶望ってのも、悪いもんじゃないからだ。
(終)
2006/10/03
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