良い事尽くめ
「……ん…………ふッ……」
指でこね回した胸の突起を唇で食むだけで、呼気が忙しなくなっている。舌で弄れば、鼻にかかった声が聞こえてきた。片方はぐりぐりと指の腹で押し、片方は周囲だけを舐める。
「もう、いい……慎吾ッ……」
泣きそうな声でもあった。一旦胸から顔を上げてみるが、交差した両腕に隠された顔は見えない。ただ、指を動かし続けても、大きく息が漏れている口が、閉じられることはなく、慎吾は歯を剥いて笑っていた。
「何がいいって? まさか、やめろなんて言うんじゃねえよな、やってもいいっつったのはお前だろ」
「いい、から、早く……やれ」
「あー、命令されるとやりたくなくなんだよな、俺」
「この……んッ、あ――」
怒りの言葉は、勃ち上がったものの先端を乳首にするように弄ってやるだけで、喘ぎとなって消えていった。中里は歯を食いしばろうとしているらしいが、一向に努力は報われていなかった。胸と股間に触れたまま、慎吾は器用にその耳元で囁いた。
「やってもらいたけりゃあ、もっとこっちの気持ちを乗せるようなこと、言うもんじゃねえ?」
「あ、あ……な、何……」
「やれ、とかすっげえ偉そうじゃん。俺はお前のお道具かって。まあ別に俺はできりゃ何でもいいんだけどよ、どうせならお前だって、気持ち良い方がイイだろ?」
「そん……ッ、な、こと……」
言いながら、中里は体をびくびくと震わせ、耐えがたいように、顔を覆っていた腕で、慎吾の肩にすがってきた。先走りで濡れたものが、今にも弾けそうになっている。だが慎吾は、それから離した手を、再び胸へと這わせた。耳に中里の熱い息と声が触れてくる。無言のまま、乳輪をなぞり、ぴんと立っている突起を軽く擦り、時には強く押し、また端だけを撫でていく。中里は開いた足をこちらの足に絡め、首に巻いてきている腕に力をこめ、切羽詰った声を出した。
「やめ、やめて……くれ、早く……ッ」
「だからやめろってのはねえだろ、なあ」
その肌の感触、直に鼓膜に触れる声は、慎吾の陰茎を十分使い物にしていたが、粘り強くいたぶっていく。威厳も糞もなくなっていく中里の姿を手中に感じると、たまらないほど面白く、ぞくぞくとして、それだけで射精できそうなほどだった。やめる気にはならなかった。ただ、キスをする気もなかった。それはこの行為には、そぐわぬように感じられた。
「い、いい……いいから、頼む、入れ……入れてくれ、早く、やって」
おそらく本人は、早く行為を終わらせてほしいがために言っているのであろうが、言葉だけを抜き出せば、よほど淫らだった。喉の奥で笑って、淫乱、と囁いてやると、びくり、と身が震え、違う、という言葉が返ってくる。右の突起だけを解放した右手を、だらだらと涎を垂らしているものの奥、途中までほぐして放っておいた場所へ這わせていきながら、囁きを続ける。
「こんだけなってて違うってのも、説得力ねえと思うぜ、俺は」
「違う、そういう、そんな……う、あ、あ……」
緊張が抜けている窄まりに一気に指を差し入れて、中をえぐっていく。左手は胸に残したまま、幾度もの交接で知った、確実に翻弄できる、内壁のあるポイントを刺激していった。
「い、あッ、ああ……」
「反論あるか?」
「あ、ある、に、決まっ……んんッ」
「おー、そうか、じゃあ聞いてやるよ。ほら、言ってみろ」
時折敢えてそこを外し、左手も休め、思考する機会を与えてやって、言葉が出てきたところで、再び両手で一気に責め立てる。簡単に快楽に囚われて、卑猥な声を漏らし、そしてまだこちらが入れてもいないのに、腹に精液を吐き出した中里を見下ろして、慎吾は冷笑した。
「お前、毅、一人でやってんじゃねえんだからさ」
「あ……わ、悪い」
咄嗟に素直に謝って、ふと己の過失の有無について気付いたように、お前が、と中里は赤く染まった顔を歪ませたが、慎吾はそこで何の前兆もやらずに指を抜き、首に回された腕を離して、一旦その体を解放してやってから、挿入の準備をした。
「まあ、反論は後でゆっくり聞いてやるよ。早くやって欲しいんだもんな?」
言いながら、元々開いていた両足を更に開かせ、焦らすことなく一気に貫くと、中里はかみ締めた歯の奥で悲鳴を上げていた。締め付けてくる肉の動きに、しばらくそのまま浸る。金も払わず、後腐れもなく、責任も負わされず、これだけの快感を味わえるなど、随分な僥倖だ。そして、なおかつこの男の弱味を握れるということは、たまらなく楽しかった。慎吾は徐々に脳みそが体液に溶解していくような感覚を受けながら、中里の両手を掴み、最奥まで腰を押し進めた。
(終)
2006/10/09
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