熱
ねっとりとした、熱い空気が体の周りにまとわりついていた。じっとしていても汗が染み出ていく。夏も盛り、太陽は世界を焼き尽くそうとしているように輝いている。築年数が古いアパートで、日陰に位置し風通しが良いといっても、全体の気温が高く、風がないのだから仕様がなかった。挙句に扇風機は壊れている。業火にあぶられているようだった。
そんな部屋に人を呼び出した挙句、お前の顔は暑苦しいから傍に寄るな、と慎吾は言ったものだ。てめえが呼んだんじゃねえか、と中里は言い返したが、下着一枚で布団に寝転がっている慎吾は、それ以上うんともすんとも言わなかった。バテているようだった。だから中里も、狭い部屋でなるべく傍に寄らないよう、隅に座って熱さと湿気でふやけている車雑誌を読んでいた。わざわざ来た以上、すぐに帰るのも何か勿体ない気がしたのだ。
背中に空気とは違う熱と重みを感じたのは、それからさして時間も経たぬうちだった。後ろで動く気配はしていたから、とんでもなく驚きはしなかったが、やはり突然背中から抱きつかれると、驚かずにはいられなかった。更に何の言葉もなく首の横を舐められ、また驚き、中里は肘で慎吾の胸を押して、距離を取ってから振り向いた。
「お前、何してんだよ」
「ヤろうぜ」
問いの答えにはならぬ簡潔な言葉が返されるとともに、取った距離はすぐ縮まり、近づかれる分だけ身を引いていた中里は、ついに畳に背をつけていた。体の上に、慎吾はためらわずまたがってくる。おい、と中里は焦った。
「暑苦しいんだろ、俺は」
「ああ」
「じゃあ、ひっついたらもっと熱くなるじゃねえか」
「いいんだよ、してえんだから」
慎吾は耳に唇を寄せてきて、また舐めた。舌のざらりとした感触と、それが通っていった肌がすうっと冷えていく感覚に、身震いする。べっとりとした慎吾の手が、Tシャツの裾をまくり、腹から胸へと這い上がってくる。途端に体が熱くなり、中里は呼吸を浅くした。
「あちい」
顔を正面に置いてきた慎吾は、意味深長に笑った。何笑ってんだ、と言おうとしたが、開いた口は慎吾の口に封じられた。入り込んできた舌が、こちらの舌を誘い出す。キスではこの男に、とても敵わなかった。いつもそれだけで翻弄される。だが、他のことで敵いそうもない。胸の突起をこねる指も、股の間を摩っていく手も、どちらか一つでも頭をしびれさせるものだった。この行為に関しては、常に中里は主導権を慎吾に取られるのだ。
「……ん……、んんッ……」
深く口付けられていくうちに、思わず鼻から声が漏れた。ジーンズの上から軽く擦られているものは、既に硬く張り詰めている。その形をなぞるような慎吾の指の動きに、羞恥心が煽られ、尚更体が熱くなった。苦しいほどだ。
「マジ、あっちい……」
唇を離した慎吾が虚ろに呟き、身を起こしてこちらの胸からも股からも引いた手を、ジーンズにかけてきた。中里は前が開かれる間に、肌に張り付いて仕方がないシャツを脱いだ。空気に素肌が触れると一瞬冷たく感じられ、だが次にはもう熱に覆われる。下着ごとジーンズを脱がされても同じだった。熱かった。まだ下着をつけている慎吾の、下腹部の盛り上がりを目にすると、また一際体の内部が煮え立つようだった。
「こんだけ濡れてりゃ、良さそうなもんだけどな」
呟いた慎吾が、そこらに転がっているローションを手に取る。畳の上に寝たまま、あ?、と中里が首を傾げると、汗じゃすぐ乾くか、と独り言のように言った。実際それは、独り言だったのかもしれない。ぬめる液体を取った指で、後ろの窄まりを広げていく慎吾の動きに、躊躇はなかったからだ。
「……ふ、……う、んッ……」
開かされた足の間、その奥を容赦なくかき回され、中里は声をかみ殺しかねた。粘膜への刺激が背筋をたわませる。血が益々、腹の下に集まっていくようだった。
「すげ、お前ン中も……あっちいな」
「はッ……あ……、な、何……」
「入れたら焼けそ……あ、入れるぜ、そろそろ」
思い出したように慎吾は一気に指を抜き、中里は呻き、そして慎吾は迅速に下着を脱いで、焦らすことなく一気に挿入してきたので、また中里は呻いた。痛くて、熱い。
「扇風機、買わねえとな……これじゃお前も、暑すぎだろ」
緩やかに動きながら、慎吾は言う。硬いそのもので内壁を擦られ、痛みと快感、双方が背骨を貫いてく。問いかけに、答えられそうもなかった。一度も放出していない自分のものは、限界に近かった。
「あ、あ……」
「それとも、暑い方が好きか。まあ、俺は好きじゃねえから、買い換えるけど」
慎吾は淡々と言って、けれども淡々とは動かなかった。腰を掴んできて、深く突き刺し、寸前まで抜いて、また入れることを、素早く繰り返していく。畳に擦れる背中と尻、入れられている部分からじんわりと広がる痛みと、強く与えられる内側からの刺激が、体を深い快楽へと落としていく。
「や……、あ、あッ、……し、んご、待ッ……」
「あ? 何?」
その体にすがろうとしても、遠かった。まったく慎吾は動きを止めず、その上また意味深長な薄笑いを浮かべ出し、挿入角度を変えてきた。
「イきそう?」
「ひッ、あ、あ……や、もう……」
「早いよな、お前……ま、イかねえよかいいけどよ」
「――んん……ッ」
ぐっと押し上げられて、限界を超えた性感を加えられ、中里は全身を震わせながら達した。どっと汗が染み出てくる。喘ぐうちに、更に体が熱くなる。
「……しかし、マジあっちいな、今日は……」
うんざりしたように言った慎吾は、それでもやはり動き続ける。生ずる熱さと快感の違いを、抱き合う形になるまで中里は見失った。
2007/05/18
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