役得
弱いくせに酒を飲むのが好きな奴ほど手に負えないものはない。そして俺がわざわざ俺の家まで担いで俺のベッドの上に捨ててやったのは、そういう奴だ。散々管を巻いて、絡んで、負け犬みたいに吠えた末に、後のことなど知ったこっちゃねえって具合に眠っちまう。店に置いておくわけにもいかないし、十二月の夜、外に放り出しておくわけにもいかないので、大体事後処理は俺の担当になる。チームの中では俺と中里毅って奴は尻拭いをし合う関係だと見られているんだな。いちいちそれについてどうこう言うのも面倒なので(ガキくせえからかいが好きな奴の集まりだ)、俺は売られてく子牛みたいな従順さで毅を介抱する。勿論財布の中から札を二枚ほど抜くのは忘れない。ボランティア精神で何でもかんでもできるわけねえだろうってな。
といってもボランティア精神ばかりでもギブアンドテイク精神ばかりでもないってことは、俺しか知らないだろう。役得ってのを考えたことはあるかい。俺はあるね。例えばこの手に負えない奴の世話をする役割はチームの中じゃ俺と決まっている。なぜかというと扱いがうまいからだ。愚痴を零し出した中里様に同情でもしようものなら噛み付いてくるし、かといっていちいち反論をするとキレられる。普段は真面目を装っている奴ほど酔ったら本性出るっていうのはありゃホントだな。人の心をえぐるようなことは軽々しく口にするし、据わったおっそろしい目で誰彼構わず睨みつけるし、ただでさえ大きい声をやかましく張り上げやがる。これを抑えられるのは、俺しかいない。断言できる。他に誰かいたら、ぐでんぐでんになったこいつを毎回俺に押し付けるなんてことはしないだろう。
さて役得だ。俺のベッドに転がった中里毅。まさに俎上の鯉。さばかれるのを待つのみってなもんだな。まあ俺もそこまで見境なくはないから、胃薬と水の入ったコップを渡すだけだけど。男らしくないとか言われたくはない。分別があるんだ。いくら何でも酔ってるところに付け込むのも、別にいいんだけどな、後で忘れられても困る。アルコールは恐ろしいね。自分がどんなことを言ったのか、やったのかをキレイサッパリ忘れさせちまう。だからチームの飲み会の度に、一人二人と珍獣を観察する態度を身につけていくやつが増えていっていることに、本人は気付かない。可哀想な中里さんだ。裸の王様。ここで裸にしてやってもいいんだが、それじゃ趣がない。俺のベッドに腰掛けて、俺がいることも忘れてぼんやりと宙を見ている毅。これで俺は一回はいけるね。それが誰も知らない俺の役得。ホモの話題が出てきたらキモイと言うのは忘れないから、そのケがあると思う奴も希少価値が高いはずだ。まあでもこうして運んだこいつが俺のベッドで寝ている姿をただ見てるだけで、三回できたことがあるってのは我ながらキモイと思う。頭が中二だな。妄想のレベルの低さがすげえから。いかにも欲情しちゃいましたって目で俺を誘ってくる、自分から腰を擦り付けてくる、そういうのがたまんねえ。やっぱ人間素直が一番だよ。一番エロイ。チラリズムってのは分かんねえな、俺には。少しでも見たら、その先を見たくなる。だから俺は見ない。時機じゃねえから。
こいつと会ってから、ズリネタに困ったことはない。同じシチュエーションを何度想像したって勃ってくる。俺を求めてくるってところが肝だ。毎度毎度飽きもしねえで俺相手だと肩肘張るこいつが、俺を頼らずにはいられないって、これどうよ。最高だ。実現したら多分俺はやりまくるね。猿になる。それも本望だ。けど考えてやるのが楽しすぎて、なかなか実行に移す気が起きねえってのもある。時機じゃねえし。いつが時機なんだろうな? 多分俺がこいつに勝った時か。権力差がある状態じゃ、手綱握るにも握れねえ。まあ表向きはこうで裏では、ってのも背徳感が増してイイ感じだけどな。
ともかく今日は考えるだけだ。俺が見ていることも気付かないみてえに、毅は目を閉じてじっとしている。眠ったのかもしれない。ベッドに寝かせてやった方がいいだろうか。考えながら煙草を吸って、煙草を吸い終わったところで立ち上がった。
「おい、座ったまま寝んじゃねえよ」
声をかけるのは嫌がらせだ。黙って寝させてやるほど俺も優しくはない。つまんねえし。肩を掴んで揺すると、びくり、と毅は体を大きく震わせた。下りていた厚そうなまぶたが上がり、焦点が決まらねえって感じの目が、俺の横を素通りする。
「……あ?」
「風邪引かれても困るんだよな。移されたくねえしさ」
赤い顔、汗の浮いた肌、乾いた唇、怪しい目つき。これこそ役得だ。
「いや」
と毅は頭を振って、口元を押さえた。げ、と俺は言っていた。
「吐きそうか。ここで吐くなよ」
「いや。違う……何だかな、寒気が」
「だからさっさと寝ろって。ほら」
いくらこいつだとしても酔っ払いの戯言を聞くのは面倒なので、掴んだ肩を押して、ベッドに沈ませてやる。この時俺は乱暴に扱ったつもりはなかったが、
「うわっ」
と毅が妙な声を上げたので、妙な感じがした。押し倒している感じはまあ疑似体験として置いとくとして、こいつのかすれた高い声ってのは、滅多に聞くことがないから、違和感があった。何でそんな声が出てきたのか。
「あ?」
顔を覗き込むと、毅は目を泳がせて、何かを言おうとしているのか、ただ空気を存分に吸うためか、口を開けたままにした。
「何?」
俺は笑ってやった。気をほぐしてやろうという気遣いだ。素晴らしい。しかしこの中里さんは、いや、と口ごもるだけときたもんだ。俺は覆いかぶさっているような体勢のまま(というかまんま覆いかぶさっているんだが)、これはどうしたもんかと珍しく困った。笑っちまっている以上、いきなりキスってのも情緒に欠けるし、かといって何もなかったみてえに放り出すのも癪だ。と俺が考えていると、
「……おい、肩」
消え入りそうだが、少なくとも普通の声で毅は言った。俺の手はまだこいつの肩を掴んでいる。右手で俺はベッドに押さえつけている。それを離せってことだろう。しかし人に頼みごとをする時は、もう少し遠慮というものを示すべきだ。だから俺は左手で新たに毅の肩を掴んだ。つまり両肩を、ベッドに押しつけてやったわけだ。この時、毅が息を呑んだのは予想外だった。怯えている。いや、それにしては顔は恐怖に染まっていない。本当にビビッてる奴は、今すぐ自殺しちまいそうなくらいのやべえ顔をする。今の毅はそうじゃない。何かを堪えている。耐えている。眉間に力を入れて、まつげを震わせて、口を開けて、顎を上げて。
その何かを俺は思い出した。そして何がどうしてこうなったかということが、全部一気に完全に分かった。俺は薬ってものをほとんど持っていない。この薬はドラッグ系じゃなくて、病気や怪我を治す方だ。昔からそういう、自分の体によく分かんねえもんを入れるのが嫌いで、今もその感覚のおかげで、風邪を引いても気合で治す。非科学的、上等だ。人間理屈じゃ割り切れない。まあそういうわけで俺の部屋に薬と名のつくものといえば、消毒薬くらいなものだ。だというのに、俺はさっき毅に胃薬をやっていた。これはこいつが酔い潰れた時のために常備していたものなんかじゃない。そこまでは俺も気ィ遣わねえし。
じゃあそれは何だったのか? 前に俺の家に来た別口の仲間が、二日酔いで気持ち悪くて仕方がないってんで、俺をパシらせて買ってこさせた、その残りだ。といっても薬の残りはその仲間が全部持って行ったから(抜け目がねえ)、正確には箱の残りだった。かれこれ五ヶ月くらいそれは俺の部屋のテレビの上に居座っていたわけだが、三ヶ月くらい前のことだ、同僚が薬を手に入れたってんで、職場で自慢をしていた。この薬は病気や怪我を治す方じゃない。が、ドラッグってんでもない。多分それを分けてもらった奴で、漢字を書けるのは俺くらいなもんだろう。媚薬。昔、この字をノート一杯に書いたらエロくなるかと思ってやったことがあるから(結果は別にエロくも何ともなかったけど)、今でもそらで書ける。まあそういうわけで、俺は何だろうが薬ってものは好かねえから、薦められても断ったんだが、無理矢理押しつけられちまって、家に持ち帰ってからどうしたもんかと考えたら、テレビの上に居座っているあのお箱様が目に入ったと。そして今に至る。はしょりすぎか。でも分かりやすいよな。現物を見てりゃあ尚更だ。嘘は言っちゃいねえ、あのすきっ歯。全身性感帯。肩を掴んだだけで感じちまってる毅が俺の下にいる。
釣った魚は餌をやって飼うんじゃなくて、痛くないようにさっさとさばいて食っちまうのが一番だろう。返すなんてもっての他だな。釣り針を一回刺したら、責任取って殺してやるんだ。だから俺も責任を取るべきだろう。今がその時機だ。間違いない。情緒なんて考えてる場合でもねえや。というわけで、まずはキス。唇をつけると同時に舌を失礼させる。ゆっくりと舌を絡ませてから、一旦離して、もう一回。今度は色々な粘膜を擦ってやる。腕を掴まれてるが気にしない。ここで突っ込まれてるみてえに感じさせねえと、俺のプライドが許さねえ。まあ突っ込まれたこともないんだろうけどな。けどほら、最初は逃げようとしてた顔が、段々受け入れやすいように動きを変えてる。舌だって俺の方に伸びてきている。性欲に勝てる奴はいねえな。こいつでもこの通りだ。俺がいきなりキスしても、拒むどころか離そうとしない。マジ最高。こういうことでもない限り俺がこいつに薬を盛るなんざありえねえし(考えもしねえ)、この偶然の恩恵にはあずかっておくべきだろう。鼻にかかった声とかな。たまんねえ。
キスをやめるまで五分くらい経ってたかもしれない。口を離すと毅は凄まじく息を荒くしていた。水から上がったくらいに苦しそうに。うつろな目と濡れた唇。気持ち良すぎて死にそうだろ。分かるぜ、俺もそうだ。
「な、何……」
泣きそうな声で、何か信じられねえ感じに毅が言う。何が何なんだか分かんねえから、俺は喉に顔を下ろした。唇を擦りつけて、息を吹きつけて、皮膚を吸い上げる。声と唇に当たる動きが連携している。掴まれている腕がすげえ痛いが、まあ動かせないわけでもないし、まだ放っておく。掴んできているなら逃げもしないだろう。
喉だけ責めても仕方ないから、肩を押しつけてやっていた手で、セーターの裾をまくり上げていく。中のシャツも引きずり出して、腹を直接触る。上へと撫でてくと、体全体がびくびく跳ねた。おもしれえ。指先だけでくすぐるように触りながら、じわじわのぼっていく。そうしながら、首の動脈あたりを舌で舐めてやる。息の音がやたらとうるせえ。声出しゃいいのに、今更堪え始めたらしい。歯を食いしばって、その間から呼吸をしてるんだろうな。うるせえことこの上ない。そう思っていたんだが、上がらせた手が突起を引っかけたら、すぐに声が聞こえてきた。オーケーオーケー、さすが乳首。こういう時ばかりは男にもついててありがとうって感じだ。いじり甲斐がある。周りをなぞったりそっと触ったり、つまんだりこねたり引っかいたり、それだけでイッちまいそうなくらいに毅は声を上げて、体をくねらせていた。俺の腕を掴んでいた手もあっさり落ちた。それでも、や、だの、やめ、だのと言っているので、俺は腹に手を下ろしてやってから、一旦体を起こした。毅の顔はよく見えた。尋常じゃねえほど顔が赤くなっている。何か本当にイッちまいそうだけど、今更止められねえってな。想像通りのシチュエーションだぜ。こっちを見上げてくる毅の面。涙を浮かべて、泣きそうに俺を見てきてる。やめてくれって目じゃない。薬のせいか酒のせいか、それはそれだ。事実は一つ。毅は俺を誘っている。勘違いだと言う奴は見る目がねえ。何も犬にまで突っ込む奴だけが性欲に支配されたと言うんじゃない。誰だって準備万端になってたら最終的には出したいもんだ。そして自分でするより他人にされる方が、結構な確率で、イイ。
こいつがいつも峠や飲み会に履いてくる、かなり色が落ちてるジーンズ。その股間に腹から手を移してやると、がちがちに盛り上がってるのが分かった。俺を見上げていた毅が、顔を背ける。ああ、考えちゃいなかったけど、案外こういうのもいいな。俺は見かけによらず身の程を知っているから、無理矢理なんてしたことがない。女に泣かれたり悪い噂を広められたり訴えられたりいつまでも恨まれたりされることを考えると、うざすぎてぶっ殺しちまいたくなってくると分かってる。さすがに殺人犯としてテレビに出たくはないので、女の子には優しくして差し上げているつもりだ。優しくしてりゃあ向こうも調子に乗るから馬鹿にしてられる。だから拒まれても濡れてなくても強引に突っ込むとかってシチュエーションは、俺の頭の中にはなかった。けど今、こいつがどうにもなんねえ感じで逃げたがってるのを見ると、うぜえだの何だのなんて考えもしない。もっと感じさせて、もっと嫌がらせたくなってくる。後は後、今は今だ。そう割り切れるのは、俺がマジでこいつを好きだからかもしれない。うわキモイ。でも好きだな。酔った上に薬におぼれて、俺相手にこんなに勃たせているこいつが。
「すげえ好き」
ベルトを外してボタンも外してファスナーを下ろして、でパンツに染みを作ってるもんを引っ張り出していたら、それを口に出していたのに、「何」、と割かしまともな声で毅が言ってくるまで気付かなかった。けど俺の手にはまあ立派にご成長された中里さんの一物があるから、言葉はいくらでも封じてやれる。卑怯な言葉だ。好きだからこんなことしてるって? 思われたくもねえな。何て計画性だよ。俺は自分で自分が褒めたくなるぜ。そんなことを考えながら扱いていたら、相変わらずやだとか何だとか言いながら、そして俺の名前を呼びながら毅はすぐにイッた。随分我慢していたようで、見事に飛ばしていた。服につかなかったのが奇跡的なくらいだ。というか俺の技術が奇跡だな。さすが俺。褒めても褒めても仕様がねえや。
ところで大体感じやすいのは粘膜が出てるところだろう。口の中、チンコにマンコ。ケツの穴もしかり。乳首はどうなんだろうな。まあ感じるか。で全身性感帯という言葉を信じるなら、ここはそれこそ全身舐め尽くしてやるべきだろうが、それはさすがの俺でもきついから(こんなことになるならシラフを通せば良かったな)、とりあえず最後まではやっておこう、と今決めた。そのためにはまず余計な服は取っ払わなけりゃならない。俺がジーンズに手をかけると、心ここにあらずという感じの毅は、それでも腰を上げて、自分から服を取っ払おうとした。いいねいいね。楽しくなってくる。このままオナニーしてえくらい。まあしねえけど、きつくて仕方がねえから、とりあえず自分のもボタン外してファスナーだけは下ろした。
で、毅の方だ。パンツもジーンズも、ついでに靴下も脱がせてから、うつ伏せにしてやる。抵抗しない。ただ苦しそうに息をしている。俺はその足の上にまたがりながら、背中に口をつけた。背骨に沿うように途中まで舐め上げて、半面をゆっくり舐め下ろしていく。自然に上がってきている尻まできたら、一度離れて、股の間から手を入れて、金玉通り越して、また勃ってきてるやつに触れてやる。毅は声を上げて、腰を引いた。だから尻はますます上がって、俺にケツを突き出す体勢になっていて、まあ俺の目の前にはそれがあって、その穴まではっきり見えていると。ここまでを良い眺めって言うには俺も場数が足りねえな。毛がなあ。普通に考えりゃあ何ついてんだか分かんねえし。けど考えながら、俺はそこを舐めていた。唾を塗り込めるみたいに舌を動かす。逃げようとする腰を、アレの根元を掴んで引き寄せる。表面を撫でたり、ねじ込んだりしているうちに、段々広がってくるような感じがするのは、俺のテクニックがどうとかいう問題じゃねえんだろうな。もう一回イキそうになってんのもか。でも俺がやってることをこいつは分かってる。俺の名前を呼びながらイッちまってんだから。今まであんな声で呼ばれたことはないな。マジで直接下半身にくる声だった。峠であれ出されたら俺は前かがみになると断言できる。人間も所詮動物なわけだよ。化学反応の塊か? だからこんな短時間で二回もイケるんだな。やだとか言ってるくせに。言うってことは理性がまだあるのか。もっととか言わせるにはどこまですりゃいいんだよ。
ちょっと途方に暮れつつ、手で受けた汁で指を濡らして、舌で慣らした尻の穴にそのまま入れた。入った。いやマジで感動的なくらいにすうっと入った。ですんげえ締めつけられた。痛い痛い痛い。俺の中指が折れる、マジ折れる。しかし俺の指は強かった。緩まるまで待ってても折れてなかったな。だからそのまま中をいじってやれた。色々探っていくと、良さそうな場所が分かる。泣きそうな声が漏れてるし、離したくないみたいに締めつけてくる。しばらくしてから人差し指も追加した。これもそのまま入ったね。薬指まで入る頃には毅の腰は小さく動いていた。俺の指を呑み込んでいく。良さそうなところを重点的に刺激してやると、やだ、とばかり言ってくる。ガキみてえに。そこまで嫌だと言われると、やらずにはいられない。人の嫌がることをやってこその嫌がらせだ。でも本当に嫌がってるかどうかは、この尻の動きから見ると疑問だな。試しに別の手でまたご起立されてるものをちょっとしごいただけでイッちまった。これは完全アウトだろう。理性は白旗を上げるべきだ。いや、こいつにもう理性はなくて、単なる感情が嫌だ嫌だと叫ばせているのか。イくのが嫌なのか、感じるのが嫌なのか。自分の意思じゃねえところが嫌なのか。どれもかな。考えながら、俺も下半身にまとわりついてる服は取っ払って、まだ高く上がったままの尻の前に、足の内側に俺の足を入れつつ構える。準備万端。ゴムをつけるべきだとは思ったが、何だかもうそれどころじゃなかった。後は後、今は今だ。手を添えて、入れていく。さすがにここでするっと入ることはない。けど全然入らないってこともない。苦しそうな声には、心の中で、俺にも一回くらいイかせろよ、と言い返した。どうせ気持ち良くなるだろう。これは忘れられてもいい。この毅の姿だけで、中の感触だけで、一年はいける。節約したら三年もつな。
完全に入れてから、毅の片足を持ち上げて、ひっくり返し、仰向けに戻す。泣いている。ぐしゃぐしゃの顔に、髪が張りついている。胸まで出ているのに、腕と首は服に隠れているのが、アンバランスだった。ああ、これがチラリズムなら分かる。まあチラリじゃねえから違うだろうけど。そんな風に改めて全体を見下ろしたら、たまらず加減せずに突いていた。犬が鳴くみたいに毅が鳴く。動物だ。人間か? 今、俺を動かしているのは、立派な尊厳でも愛情でも理屈でもない。快楽だ。まあ動物でもいっつも盛っちゃいねえだろうし、ってことは動物以下の人間だな。こいつも変わりねえ。もう意味も何もない喘ぎ声の中から俺を呼んでくる。俺のことを分かっている。呼ばれるたび、抱きしめてやりたくなると同時に、このまま永遠ヤッてたくなる。呼ばれても応えないことの贅沢さ。求められても無視することの完璧さ。想像じゃない。現実だ。マジたまんねえ。
なあ、どうせ俺が終わったら終わりだぜ。そしたらどうする。続けたけりゃあ俺をどうにかしないとな。お前にできるか。今のお前ならできそうだな。けどやりたけりゃあ忘れなきゃならないってことだ。自分からしたこと覚えていたら、お前は絶対生きてらんないぜ、毅。ああ、もうそろそろ終わっちまう。時間がくる。今が終わる。後がきて、今になる。やばいくらい絶望的で、最高だ。
2006/11/23
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