告白



「あのよ、慎吾」
「何だ」
「常々疑問だったんだが、何でこう、俺ら二人が残るとなると他の奴らはさっさと帰っちまうんだろうな」
「俺が知るか」
「いや、そりゃそうだけど……」
「まあ、大方俺ら二人が揃ってんのが嫌なんだろ。今まで色々あったからな。とばっちり食らいたくねえとかよ。ここまであからさまだといっそ清々しいと思うがね、俺は」
「色々ったって、最近は色々ねえだろ」
「最近はな。けど昔の話ってのは結構でかいぜ。俺も何が楽しかったのか、お前相手にいちいち突っかかってたし、お前も何が楽しかったのか俺にいちいち説教垂れてきやがってたし。そういうことだ」
「何も楽しくねえよ。あの頃はお前、お前が俺を嫌ってたんだろ」
「あ? お前が俺を厄介者だと思ってたんだろうが。そのツラが、俺は気に食わなかっただけだ」
「厄介者……いやまあ否定はしねえが、お前はよ、最初っから俺を馬鹿にしてたじゃねえか」
「……してたっけ?」
「してたぜ。『GT−Rなんてグレード振りかざしといて、ドライバーの技術も何もねえもんだよな』ってにやにやしながら言いやがったんだ。俺は覚えてる」
「お前、ストーカーになれるぜ、それ」
「何だと」
「っつーか俺覚えてねえし。気に食わねえ奴には何でも言うからよ、俺は」
「……改めて思ったが、お前性格悪いな」
「お褒めにあずかり光栄です、ってか。っつーかお前の方こそ俺がチーム入った時、呆れたような顔して、ため息吐いてただろうが」
「あ? ああ……あれな、俺は覚えてるぜ。呆れてたんじゃなくて、やっぱり来たな、って思ったんだよ。ちょっと嬉しかったんだ。お前の走りはなかなかだったからな、こいつがチームに入ればダウンヒルは敵なしじゃねえか、って考えたら、震えがきたよ」
「……何だそりゃ」
「何だもかんだもそうなんだよ」
「あれか? 要するに俺たちは、互いに勘違いしてたってわけか?」
「……しかし結果的に嫌い合ったんだから、勘違いとも言えねえような……」
「ま、そうか。俺は結局お前は気に食わなかったろうしな。俺リーダーとかよ、仕切り屋やってる奴嫌いなんだよ。いかにも善人面して表舞台に立って、理想をこね回すようなよ」
「俺もなあ、お前みたいにいちいち何でもかんでも難癖つけて、そのくせそれが真理突いてる奴ってのは、好きじゃねえな」
「結果的にゃあ同じだった、ってことかね」
「でも、今は俺はどっちかって言やあ、お前は好きだぜ」
「……気色悪いこと言うんじゃねえよ、ああ寒気がした」
「バカ、そういう意味じゃねえよ」
「バカって言うな。じゃあどういう意味だ」
「どういうって、お前みたいなタイプが嫌いなことには変わりないけどな、お前の良さ知っちまったからな。それ除外して考えられねえんだ。だからもう嫌いにはなれねえし、だったら好きってことだろ。別に惚れたはれたの方じゃねえよ、直結するな」
「だってお前、俺が好きだっつったらどうするよ」
「どうもこうも、ビビる」
「だろ? イキナリだぜイキナリ、嫌いだって話してる時によ。怪しいじゃねえか」
「けどまあ、俺は嬉しいと思うぜ」
「はあ? 嬉しい?」
「いや、嫌いだって言われるよりは、な。まあ、男より女に言われるに越したことはねえが――」
「よし、じゃあ言ってやろうじゃねえか」
「あ?」
「好きだ」
「……は?」
「何だ、喜ぶんじゃねえのかよ」
「いや、ムードねえし」
「ムードがありゃ喜ぶのか。変態だなお前」
「てめえが話を仕掛けてきたんじゃねえか」
「俺は男に好きって言われて喜ぶような趣味ねえし」
「よし、慎吾」
「あ?」
「好きだ」
「…………やべえ、俺お前殺したくなったわ」
「何で俺がお前のことを好きっつったら、お前が俺に殺意を抱くんだこの野郎」
「いや、何つーの、すっげえうぜえ?」
「疑問系にするな」
「普通少しは妙な雰囲気になりそうなもんだけどな。無理。お前相手だと百パー殺意しかねえ」
「妙な雰囲気か。どんな雰囲気だ」
「あー、何だ。キスくらいしてみっかっつー」
「なるのか?」
「相手の顔が女っぽかったら、俺は持ちかけてみるぜ。どうせだし」
「変態はてめえじゃねえか、おい」
「体に手ェ出さなきゃ女も男も顔だろ、顔。お前は無理だけどな」
「お前、さっきから俺のことバカにしまくってねえか?」
「今更気付いたのか、バカめ」
「てめえ、慎吾」
「それともお前、俺がキスさせてくれ、っつったら受けんのかよ」
「………………いや、まあ、どうしてもっつーなら……」
「うわ、きめえ」
「お前、そりゃ、つまりだな、仲間の延長線上だよ。どこまでお互い許し合うかじゃねえか」
「俺だぜ? マジで? お前脳味噌イカれてんじゃねえの?」
「クソ、じゃあお前はどうなんだよ、慎吾」
「俺は勿論、あれだ。えーと。何だ。まあ、お前が物凄い俺のことを愛して愛して、気が狂いそうで仕様がねえっつーなら、オナニーさせてからキスしてやる」
「…………何だそりゃ」
「いや、俺のこと好きっつーならオナニーくらいできんだろ? そりゃさせとかねえと、勿体ねえ」
「いや、俺にはお前のその勿体ねえっつー概念が理解できねえ」
「まあお前がどうしてもっつーなら突っ込んでもいいしな。ついでだついで」
「………………俺にはお前自体が理解できなくなってきた」
「っつーか前提がありえねえし。お前が俺のこと愛して愛してたまらねえってなあ? 世界が崩壊するぜ、おい」
「何だよ、もしかしたらあるかもしれねえじゃねえか、俺がお前のことマジで好きで、死にそうなくら好きってことも」
「へえ。お前俺とキスしてえの?」
「殴られてえか」
「俺、やっぱお前のそういう冗談が通じねえところが嫌いだな、毅」
「俺もお前のその道徳概念を無視した冗談を言うところが嫌いだぜ、慎吾」
「お互いさまだな」
「まったくだ」
「ま、何つーの。物事ってはけど、起こってみなけりゃ分からねえもんだ」
「あ? 何言って……………………」
「……」
「……」
「…………どうよ」
「…………………………何が」
「うわ、サムイ反応。折角人が舌まで入れてやったのに」
「……どうもこうも………………あれだな。百パーセントの殺意ってのも、この世にはあるもんだな」
「そうか。ま、お互いさまだな」
「だから一発殴らせろ、慎吾」
「嫌だね。……あ、こういうことがあるから、あいつら俺らを避けんじゃねえの?」
「こういうことって、全部お前がやってんじゃねえか!」
「いや、俺お前じゃなきゃやんねえし」
「……ッ、この……」
「じゃあな、俺明日早いからよ。お前はオナニー頑張っててくれ」
「慎吾ォ!」
「うっせえよ、バーカ」
「……あの野郎、クソ………………もう、殴れねえんだよなあ…………」
(終)

(2004/04/15)
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