質疑応答
なに? 俺と毅の出会い? 何でお前そんなこと聞きたがるんだ、気持ち悪い。
伝説のツートップってな。トップは俺単体、あいつは引き立て役に過ぎねえよ。それに伝説なんて過去形にするな。まだまだ現在進行形だ。失礼なことを言うヤツだな、まったく。
大体人の話を聞きたけりゃあ、聞かせてくださいお願いします、と誠意を示すのが常識だろう。誠意を。
……いや、土下座されても困るぜ。この状況でそれされちゃ、あいつがまた何やったんだ、だのなんだのうるせえからな。俺だってそうそう面倒起こすほどボケちゃいねえってのに、気の小さい男だよ。人いちいち目の敵にしやがって、ただ相手の欠点を指摘してあげているだけの状況でも、几ッ帳面に小言を言いに来てくださりますからね。
気にかけられてるねえ。どうも勘違いしてるな、お前。平和のためには危険分子にゃ常に注意払わなきゃいけないだろ? そういうことだよ。俺だからってわけじゃない、あいつは均等して目ェ配ってんだ。
寂しい。そりゃ的外れにも程があるぜ、俺らはそんな間柄じゃねえっての。何だよお前、『ああ、私ひとりに構ってくれないなんて毅さんひどいわッ』、とか俺がハンカチ噛み締めて嘆くことでも期待してんのか?
って、してんのかよ! 違うだろ、そりゃ人道上と精神衛生上よくねえぞ! 明らかに!
……いや、ちょっと興奮しちまったな……。ほら、これで俺はちょーっと大きな声を出しただけっていう、完全に真っ白で潔白な身の上にも関わらず、あいつにああやって疑いのまなこを向けてこられるわけだ。分かるか。だからあんま突飛なことは言うなよ。
気は、悪いよ。さっきも言ったが、気の知れた相手との軽いコミュニケーション程度で、俺だけ犯罪者みたく言い立てやがる。
まあ、そうだなあ。手が出るのはそういう時さ。マジでもうねえけどな。俺があいつの言いがかりの悪について丁寧に教えて差し上げると、口を閉じてしかめっ面でお帰り遊ばせられますから。前はそれでもあいつが下がらなかった時、俺も我慢ならねえから、拳が向かっちまうこともたまにあったけどよ。反射的に。相手をやり込めることが目的じゃなくて、抑圧された感情の発散が目的でな。
お、この言い方何かカッコいいな。さすが俺。そう、自画自賛だよ。自分を最大に誉められんのは、やっぱ自分だろ。ナルシストじゃねえよ、身の程は知ってるさ。
あいつは俺に対しちゃ説教するしか能のねえヤツだよ。誉められたことなんて……まあ、大っぴらにゃあねえよ。あれはな、絶対に回りくどーく言ってくるからな。けなしつつ評価する時があるからよ、プラマイゼロなわけだ。意味がねえっての。
お前、目ェ腐ってんなあ。あいつに誉められたって嬉くはない。他と同じだよ。今の俺が嬉しそうに見えるなら、眼科に行くべきだな。あとは頭調べてもらえ。回路がおかしくなってるに違いねえ。
一番派手なケンカ? お前、最初の質問はいいのかよ。後回し。臨機応変っつーか計画性がないっつーか……まあいいか。
ありゃ去年の、十一月の半ばだったかな。俺がチームに入って一ヶ月ちょいの頃で、その日は小雨がパラついてたんだ。で、シンヤいるだろ。あいつが雨の日は怖いって言うもんだから、けしかけてやったんだよ。そしたら単純なヤツだから、っつーかこの辺のヤツらみんな単純だけど、まあだからノッてきたわけだな。そこへ現れたるがあの偏屈なお方だよ。雨をナメるな、人を煽るな、命は大切に。ま、言ってることは正しいよ。雨でのスリップはアンダー出るより寿命が百倍は縮まる。でも言い方が気に食わなかった。正義の代弁者って感じでな、自分の考えで行動してるってよりも、一般論に行動を促されてるみてえでよ。分からねえか? 分からなくてもいいよ、俺がそれを気に食わなかったことさえ分かってりゃな。だから俺の怒りの発生源ってのはそこだったんだよ。あいつに対する言い返しも、注意の内容じゃなくて言い方、ひいてはあいつの性格にまでなってたな。日頃の鬱憤が出ちまった感もある。でもあいつは変わらず雨がどうの人命がどうの若さがどうのと言ってきてなあ、会話は成り立ってなかったよ。そのくせ互いに引かないもんだから始末がつかない。
それで、あいつが先にキレて、何だったかなありゃ。
「てめえが死んだってどうでもいいが、他のヤツらを巻き込むんじゃねえ」
みたいなことを言われて、俺もつい右手が出て、あいつの横っ面に直撃だ。そしたら殴り返されて、あとは一発ずつやってやられて、の繰り返しよ。我慢比べみえてなもんさ。どっちが最後まで立っていられるかってな。
勝者? いねえよ。もう飽きたし雨降ってるしってどいつもこいつも帰った頃、あいつが俺に蹴り入れてきて、まだ俺が立ってたところで、丁度目が合ったんだ。あいつはまぶた腫らして鼻からも口からも血ィ流しててな、ひでえツラでよ。体はびしょ濡れで、肩で息して今にも倒れそうな状態だ。落ち着いてそれ見たら、笑えてきてな。どうでもよくなっちまって、俺が笑い出したらあいつも笑い出して、テンションおかしくなってな。何でか分からねえが抱き合ってよ、まあ……終わりだ。
あれが一番どっちの体にもダメージが残ったケンカだな。俺は次の日頭痛いし首痛いしで起きれねえし、あいつは歯ァ一本折って、ろっ骨やったとかって話だった。それから『金のかかるケンカはやめるぞ』って協定結んで、暴力的行為からはおさらばしたさ。やっぱ男たるもの紳士的でなけりゃあいけない。
あん? ひでえこと。ハッ、そりゃあいつだって聖人君子じゃねえんだ。あまり偶像化するなよ。
でもま、ありゃ残念だが売り言葉に買い言葉だよ。後で『死んでもいいわけじゃねえ』って訂正されたからな。放っておけないとかも言われたか。律儀だよ。しかし、あんなことになるくらいなら放っておいて欲しいもんだぜ。
心配してくれる人ね。ありがた迷惑だろ、そういうの。心配するのは勝手だが、たッかが自己満足で人の主義主張に口を出してもらいたくはないね。そのくせ他人のためって奇麗事を振りかざすんだ。自分の意見で行動できねえなんて、弱すぎるだろ。
……まあ、あそこまで突き詰められりゃあ、それは一つ、評価できるかもしれねえけどな。確かに俺にはできねえことだ。羨んじゃいねえよ、羨ましくなんかねえ。あんな損な生き方したくはない。周りにあんなヤツがいて欲しくもない。とばっちり食っちまうからな。
だからあいつと会わなけりゃ俺の人生、もっとスムーズにこなせたはずなんだよ。ケンカだってよ、相手を屈服させるためにやるものだ。勝たなけりゃ意味がない。ケンカで勝たなくたっていいって言うヤツは、それこそナルシズムに酔ってるだけさ。
俺は無駄なことはしない主義だったんだ。勝てる戦いしかしない、いや、戦うなら絶対に勝てる条件を備えてやる。どんな手段を使おうがな。世の中には勝者と敗者しかいないんだ。だったらできる限り勝者でいるべきだろうよ。正々堂々なんて言葉は大勢に注目されている場でしか通らない。結果がすべてなんだよ。それが俺のモットーだった。
今? 今……も、変わっちゃいねえよ。多少計算外のことも起こるけどな。秋名のハチロクとかよ。ありゃ高橋涼介にも勝ちやがったし、最初から規格外だったんだろうが。
ただ、奇麗事に見えるようなことでも許せるようにはなったな。丸くなったってのかね。どうでもよくなったって方が正しいかもしれねえ。あいつみてえなヤツがどうしてもいるなら、気にしない方が健康的だろ。ストレスはカビと同様、根元から殺さなけりゃあな。
……お前もしつこいな。そんなに出会いが聞きたいか。感動的でもロマンティックでも爽やかでもない、地味な会い方だぜ。峠で会って、どうもどうもと挨拶交わして、それじゃあさよなら、って別れただけだ。そんなもんだろ。会ったそうそう白熱バトル、なんて漫画やアニメじゃあるまいし。現実はもっと平凡だよ。
もっと詳しく? 詳しくったって……もう一年くらいも前のことだぜ。忘れたっての。
げ。お前、あいつにも聞いたのかよ。抜け目がないっつーかストーカー気質っつーか。あ? じゃあさっきのケンカの話もか。
へえ、なるほど。お前、この庄司慎吾にカマかけましたか。度胸あるねえ。んー?
……うわっ、何だお前、いきなり後ろから……。何でもねえよ、アホか、イジめてるんじゃねえっての。こいつが俺にくだらねえこと聞いてくるから、親切心から答えてあげているだけだ。なあ? そうそう、一種の交流さ。分かったら無駄なあがきをやっていろ。何だ、って走りに決まってんじゃねえか。精々頑張れや、砕けたら骨は海に撒いてやるからよ。ははは……。
さて、これで邪魔者はいなくなったな。いちいちしゃしゃり出てきやがって。人のこと気にしてる暇あったらてめえのことを気にかけろって。
……お前、いい加減その口塞いでやろうか。今のやり取りのどこから仲が良いという関係性を発見できる。お互い気にかけてる? 馬鹿馬鹿しい、何度言わせるんだ。気にかけてるんじゃない、気に障るんだよ。勘違いするな。
で、どこまで聞いたんだ。とぼけるなよ、あいつの方の出会いだ。言えない。それなら俺も言えねえな。等価交換は基本だろ。
俺に得な情報? 何だそりゃ。あいつが言ったことで。ふうん。得ねえ。内容は何だ。それも言えねえってか。
いいね。そういう駆け引き、好きだよ。俺にやってくるとはな。その無謀さに免じて教えてやるからちゃんと聞いておけよ。一度しか言わねえよ。
峠で会ったっつったけどな、その前に一回、俺はあいつを見たことがあるんだ。夜、街でよ。俺はダチと歩いてて、丁度カツアゲの場面に出くわしてな。サラリーマン風情が、タンクトップに腰パンで肩やら腕やらにタトゥー入れてる、俺らと同じくれえの歳のヤツら三人に絡まれてんだよ。
あれよ、そういや背中全面に刺青してたら銭湯とか温泉とか、お断りになることあるじゃねえか。多分ヤクザってことで、なんだろうが、なら腕とか肩とか腹とか足とかはどうなのかね。
……話、逸らしてるわけじゃねえよ。ただ疑問に思っただけだ。お前もいちいちうるせえヤツだな。
それで、俺らは見物してたんだ。助けるわけねえだろ、面倒くせえ。三対二じゃ分が悪い。降りかかってもこない火の粉を自分から浴びに行くなんてマゾじゃねえよ、俺は。
そのうち、定石通り金貸してくれ、なんて聞こえてきてよ。代わり映えしねえなあと思いながら見てたら、いきなり俺らの横を通って、そっちに向かって歩いて行った男がいた。そんで一番後ろにいたヤツの後頭部にな、気付かれる前に、蹴り入れたんだよ。何も言わねえで。あれ、トチ狂ってんのかと思ったぜ。ためらいがなかったからな。で、蹴られたヤツが頭抱えてる隙に、サラリーマン風情の手ェ取って、こっちに向かってよ、俺らの横をまた通り過ぎて、逃げてった。多分あれはあいつの知り合いだったんだろうな。で、あいつらがこっちに逃げてったってことは、残りの二人がこっちにやってくるってことでな、仕方ねえから二人の足引っ掛けて、俺らも逃げたんだよ。
顔は見た。目も合った。その時は、正直言って威圧感、あったな。鳥肌立ったよ。シビれたね。
俺は、あいつに会う前からここでは走ってたんだ。一番近かったからな。それでここらのヤツらとは元々知り合いだったし、あいつの話は聞いてた。べらぼうに速いGT-R。何で峠でGT-Rだよ、って感じだったけどよ。ありゃ峠で走るようなシロモノじゃねえだろ。湾岸辺り回ってりゃいいってのに。どこの世間知らずのボンボンが粋がってんだ、って、そう考えてたら、出てきたのがあいつだぜ。ビックリしたってもんじゃねえや。しかも近くで見ると、最初見た時と違って、これがまたマヌケなツラなんだよ。格好も伸びきったTシャツにジャージ、何でかその時サンダルだぜ。不審者だ。おかげで俺が挙動不審になっちまった。
しかもな、よりにもよって出てくる時、32から降りてこっちに歩いてくる時だよ。空気も張り詰めててな、こんな緊張感出せるヤツか、って俺もちょっと感心してたら、あいつ、途中でつまづいたんだよ。見事に。そしたら周りのヤツらもさっきの緊張感は何だってんだってくらいに、一気に笑い出して、あいつはさっきの堂々とした態度は何だってんだってくらいに、ムキになって反論してやがってよ。その時点で俺は、こいつには勝てるって確信したね。で、顔見たらあいつで、マヌケだろ。確信は深まった。
それで、最近よく来てるらしいですね、そうですよ一つよろしくお願いします、こちらこそどうも、それじゃあ頑張って、そちらこそ、さようなら、で、出会いは終わりだ。言葉遣いはこれより少しだけ悪かったけどな。少しだけ。
……疑い深いヤツだな。まあ、別れ際にいきなり、
「真ん中分けだとハゲるんじゃねえか」
とは言われたよ。俺は「髪上げてる方がハゲると思うぜ」って返しといたけどよ。実際会った当初より、あいつの額は後退してるから、そのうち絶対前髪全部下ろしてくるな。そうなったら触れないでおいてやれ。髪の毛の問題はキツイぞ。
ああ、あいつは俺を知らなかったよ。がっかりも何も、俺は後ろからでもしばらく見てたけど、あいつが俺を真ん前から見たのはほんの一瞬だ。それで覚えてるって方がおかしいぜ。
どっちのだ? 二度目の印象か。ダサイヤツ、だな。そうじゃねえってか。あー、思ったよりもキッチリしてるっつーか、抜けてそうっつーか、しつこそうっつーか。あんま関わりたい感じはしなかったよな。どんなヤツか気にはなったけど、ヘタに関わると、飛んで火に入る夏の虫を体言しそうだったからよ。なーんかあいつ、トラブルくさいっていうかな。俺もアクシデントは嫌いじゃねえよ、素敵な刺激じゃねえか。ただ、感動物語は嫌いなんだ。被害者が救われて加害者も救われて、丸くおさめてハッピーエンドっつーの? 予定調和的な都合の良い話がよ。そんで、現実よく見ねえでそういう行動取ろうとするヤツもな。あいつからはそういう、口じゃ他人がどうなろうが知ったこっちゃねえとか言うけど、においがしてくるんだよ。貧乏くじ引いちまうヤツ特有の、貧乏臭。なら貧乏神かありゃ、はは。まあ金ねえもんな。いくらローンあるんだあれ。
……だから、話逸らしてんじゃねえっての。しつこい男は嫌われるぜ。
お前、それ、結婚式でのスピーチじゃあるまいし、そういうところに惹かれたってな。『慎吾さんはそんな貧乏くさい毅さんに惹かれ、結婚を決意しました』。何て同情的な結婚だ。そうだな、風情が――あるわけねえだろ、どこにあるんだそんなもん!
……ああくそ、頭に血がのぼる……。やっぱお前の口、閉じさせてもらっていいか。俺の精神に良くない。
……まあな。嫌いじゃねえよ。あいつのああいうところはな。俺がひっくり返ったってあいつみたいにはなれねえからさ。なれてもならねえけどな。だから極論言っちまえば、惹かれてるんだろ。同じような考え方するヤツってのは、どうしたって自分と比べちまうからなあ。理解できねえ、いや違う部分がある方が楽なだけだけどよ。ああ、そういうことでいいよ。だからそういうことで……あ? 違うだろ、そこに好き嫌いを挟んでくるな。嫌いじゃねえけど好きでもねえよ。いても何とか許せる程度だ。いないに越したこたァねえ。
…………………………は? あいつが?
…………いや……そりゃ、広義でだろ、多分。人間を、多く分類したとしてな、その分類されるタイプが、いやタイプでの好き嫌いにおいて、で、そのタイプの中に俺が入ってるって、そういう、それだけの話だ。あお、慌ててねえよ。何で俺がそれで動揺する。誤解を解いてやろうってんじゃねえか、な、正確に。広義だ広義、ひろーい意味においてだ。狭義なわけあるか。
あ、まさかお前、それが俺に得な話だ、とか言うんじゃねえだろうな。なら容赦しねえぞ。
違う? だったら何なんだよ。これで言わないなんて詐欺なことを…………………………はい?
……なん、何ですって? はあ、はい。へえ。はあ、なるほど。えー、何ですか。あいつが女だったら俺と結婚してもいい、と。
――お前、それのどこに俺にとっての得があるんだよ! ゼンッゼンまったくカンペキカンッゼンに得じゃねえ、むしろ損だ! そんなことで太鼓判押されたって嬉しくねえよ! 大体あいつが女でも俺は結婚する気にゃならねえ!
冷静に、冷静にな。おう。俺は冷静だ、十分冷静だ。少なくともお前よりかは冷静だ。
なるほどね。そういう理屈でいうと、つまり俺たちは両思いになる……あの、すいません。その言葉は使いどころが間違ってると思いますよ。そもそも俺たちは意志の疎通もロクに図れてません。そんな状態で思いが通い合うことは未来永劫ありえません、ハイ。いや、もう根本否定することに疲れちまった。勝手にしろ。話は終わりだ。
……あのね、だから何でそこでだったら好きなんですね、ってなるんだよ。おいコラ。勝手にしろとは言ったがな、そういう誤解的な勝手を取るんじゃねえよ、俺の評判に関わるじゃねえか。マジでその口塞ぐぞ。じゃあ嫌いなんですね、にもならねえんだよだから好きでも嫌いでもねえっつってんだろうが、何度言ったら分かるんだ。てめえは俺をそんなに怒らせたいのか。三途の川見せてやろうか。
だからそこであいつの発言持ち出すなよ。あれは博愛主義だ、そういうことにしとけ。広義の愛を振りまいているだけだ。俺だけを取り上げるなよ。
分かった、仮にあいつが俺を好きだったとしてもだね、俺はあいつを好きでも嫌いでもないんだ。これはイコールにはならねえだろ。いい加減にしてくれ。お前、俺に恨みでもあんのかよ。……まあ恨み受ける覚えはいくらでもあるからな。仕方ねえ。
ああそう。いいよ、恨んでくれて構わねえさ。今更一人二人増えたところでどうってこたねえ。だから話を戻すな。このまま放れ、終わらせろ、俺を解放しろ。
気付いてた? 何を。あいつが。……俺に? ああ、最初の。へえ、そりゃ知らなかった。それがどうした。ファーストインプレッションが、そのまんま。ああ? 何言ってんだお前。いや第一印象だろ、それは分かるよ。……悪くなかった。悪くないったってな、だってお前、さっきも言ったろ。ありゃ一瞬なんだぜ。あいつが俺の顔を見たのなんて横を通り過ぎるほんの一瞬なんだよ。それで良いも悪いも判断するのは、信用ならないと思うぜ。
ああそうか、一目ぼれならそれは、
…………………………………………………何だって?
いや、すまん、二度は言わなくていい。言わなくていいっつってんだろ! 言うな! しかも笑って言うな!
何て表現をしやがるんだあいつは……前からセンスも単語の選び方もおかしいと思ってたが、そこでそうくるかよ。何者だありゃ。ダメだ、違う意味で敵う気がしてこねえ……。
てめえは口を出すな。もうやめてくれ、俺の頭を引っ掻き回すな。なあ、てめえは一体何がしたいってんだよ。仲介役でも気取るつもりか。冗談じゃねえ、俺らは別に……。
あ? ……そうか、なるほど。そうだな。つまり今までの話を総合すると、お前、俺らが愛し合ってれば、念願叶うってか?
いやいや、いいぜ、そんな全力で首を振って否定しなくたっていいさ。遠慮はするな、俺は見た通り寛大なんだ。可愛い後輩の願い無下にするなんてとんでもない。ご希望通り、愛を通わせて、毎日毎日峠に来てはくっつき合って愛の言葉をささやき合って、ペアルックでもキスでも痴話喧嘩でも何でもしてやるよ。
その前に、お前を三途の川に送り届けてからな。
(終)
(2004/08/21)
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