味気



 動く度に上がる声と、ただの背中という情景は、何とも重なりにくく、快感を追いつつも慎吾は、形態が崩壊していく錯覚に襲われかけた。その体は、肉付きが良いわけではない。各所には硬い筋肉があるのみで、さわり心地は良くもない。デブの方がオモムキあるのか、という考えが、脳裏に走る。太ったその体を想像していると、動きが遅くなり、下にしている体が、不審そうに固まったので、慌てて行為に集中し直したが、思考は振り払われなかった。まあ良いんだけど、気持ち良さそうで何よりっつーか、でも味気ねえな、これ。陰茎は決して豊乳の代わりにはならない。無意識の媚びが含まれた声は、脳みそを焼くが、生身がここにあるのに、なぜ声だけで満足しなければならないだろうか。入れやすさも動きやすさも、しごきやすさも結局は、物理的な問題で、それを充足させるならば、道具で結構だ。映像も音声も刺激も、現代には溢れ返っている。それを使わず、こうして体力を消費しているのは、決してそれらでは得られない、相手の反応からくる、強烈な精神の高揚と、快楽があるからだ。あの男が、気を許し、無様に、懸命に、狂奔している。それをより深く感じるに、顔が見られないことは、一興でもあるが、障害だ。いたるところから、汁が滴っている。まだ持続はしそうだった。俺も高尚だな、と思い、ひときわ大きく動いてから、慎吾はその体をひっぺがした。



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