今日は何の日



 今日は何日だ、と慎吾は思った。近頃曜日の感覚も、時間の感覚も薄れている。大学は長期の休みに入った。バイトのシフトは今日の分しか覚えていない。暇な時は峠に行くくらいで、誰と遊ぶこともなくなった。誰といても冷静でいた。これに何の価値があるのか、今に何の意義があるのか、このくだらない奴らの横暴に耐える義務はあるのか。時間を作ってまで誰かと会った場合は特に、そんなことを考えた。くだらねえ。中学生じみた反抗心が芽生えている。無意味に何もかもにぶち当たって、物知り顔で批判して、慢心したかった。素直になりたかった。従順を嫌う感情のままに生きていた頃に戻れたならば、もっと物事は円滑に進んだはずだ。良くも悪くも。今は、良くも悪くもない。進みも下がりもしない。上がりも落ちもしない。毎日同じ距離を保ち続け、同じことを繰り返す。何かを変えたかった。何を変えたいのか、分かりたくはなかった。今日は何日だ。慎吾は枕の下に埋まりかけていた携帯電話を開いた。電池が切れていた。部屋にカレンダーはかけていない。新聞も取っていない。テーブルに置いたデジタル表示の腕時計を手にするまでの気力はなかった。少なくともバイトは夜からで、まだ昼だ。良くも悪くもない生活。しかし以前よりは良くなっているはずであり、そのくせ満足はできなかった。くだらねえ。慎吾は目を閉じた。脳味噌の中に蝉がいるようだった。轟音が鳴っている。目を開く。今度は耳鳴りがした。何もかもが億劫だった。ぶち当たりたい。当たってしまえばそれでいい。後先も考えず、全身を解放したい。けれど気力が足りなかった。もう、分別はついてしまっているのだ。年を取ればもっと意のままに生きられると思っていた。欲しいものを適切に入手して、遊び倒して、ゴミにならぬように捨てられると思っていた。楽しくはある。血が沸騰する瞬間は一日に一回、必ず訪れる。数を重ねるごとに慣れていく快楽を、追求することだ。それを一番にするべきだった。今日は何日だ、何曜日だ、今は何時だ。あとどれだけある。慎吾は再び目を閉じた。長い長い幕間だ。どうすればいいのか分からない。分からないまま、また理屈で動いてしまうのだろう。感情がその時どこへいっているのか、やはり慎吾には分からなかった。



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