刹那を思う



 嫌いだとしか思えない。髪や眉やまつげを形作る、全身を覆う硬い毛も、無意味に巨大な光を持つ目も、ノミで彫り出したような鼻も、弾力を浮かばせる唇も、白さと黒さが不均一に交じり合っている肌も、まざまざと分かる骨組みも、柔らかさの欠片もない肉も、耳障りなかすれた声も、すべてが癪に障ってたまらない。嫌悪感は憎しみを呼び、憎しみは衝動を呼んだ。見る度、心も体もぼろぼろに傷つけてやりたくなる。元の形が分からなくなるまで、ぐちゃぐちゃに踏み潰したくなる。そこに一生消えない足跡を残し、存在を血で刻み付けるのだ。
 軽い揶揄を口にして、その眉間が狭まるのを、嫌な気分で笑いながら見る。頭の中では、顔を殴りつけ、腹を蹴りつけ、犯すことを想像している。そうしながら、顔には笑みを浮かべ続ける。胸糞は悪い。今すぐ抹殺してやりたい。けれどもそれでは想像もできないのだ。
 古臭い例えを交えて言葉が返される。慎吾は笑いながら反射的に皮肉る。平穏な会話。日常の会話。恒久的な温もり。中の言葉の刺々しさとは裏腹に、空気は和らいでいる。それすらも気に食わない。今すぐ壊してやりたい。けれどもそれでは想像もできないのだ。乾いた肛門に性器をねじ込む様も。初めての(おそらく)恐怖に震えるその顔も。できればとても清々するだろう。そして一度きりで終わるのだろう。それもまた嫌だった。だから油断しきっている姿を前にして、慎吾は想像するのみである。手の内にすべてを持っている錯覚を味わいながら、裏の虚空を胸に抱きながら。



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