中枢神経
原色の服を着ていることが多い男だった。赤、青、黄。それでも全体的にくすんで見えた。灰色のベールを常に身にまとっているようだった。気になったのはそのせいかもしれない。目立とうとしながら、隠れたがっている。おかしな奴だと思った。
実際、庄司慎吾という男は、唐突で、無神経で、繊細で、傲慢で、優しくて、恐ろしい、リアリストだ。
「お前、俺のこと好きか」
だから、峠でたまたま隣り合った時に、こんなことを、億劫そうに言ってくる。唐突で、無神経なリアリスト。
「分かんねえな」
煙草を咥えながら中里が言うと、へえ、と気のない返事を慎吾はした。ちらりと横目でその退屈そうな顔を見てから、中里は付け足した。
「嫌いじゃねえよ」
「嫌いって言われた方がスッキリするけどな」
中里が慎吾を向いた時には、慎吾は既に三歩前にいた。そのまま先へと歩いていく。青いTシャツに包まれたその背が夜に溶け込んでいく。こういう日(どういう日かは説明しにくいが、ともかくこういう日だ)には、家の前で待ち伏せされることが多い。繊細で、傲慢で、優しくて、恐ろしい。胃がむかむかした。中里は煙草のフィルターを噛み締めていた。
この焦燥感を恋というなら、そうかもしれない。
(終)
2007/08/23
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