死なばもろとも
肌を寄せるだけでは、傍にいることを信じられない。キス。抱擁。愛撫。手段に過ぎない。セックス。中に入り込む手段。目的ではない。縋られるためにするのではない。
――人間不信か?
誰かを信じるということは、そいつを信じる自分を信じるということだ。本当に人間不信なら、とっくの昔に自殺してる。
――口が達者だな。
言葉はできる限り利用するべきだ。自分の意思を伝えるために。自分の思う通りに事を進めるために。馬鹿な奴ほど道具をうまく扱えないことを純粋さでごまかそうとする。そういう奴は好きじゃない。
――俺のこと言ってんのか。
分かりきった質問をする奴も好きじゃない。
触れられると、息継ぎがうまくできなくなる。体温が皮膚を通って血管を越えて、心臓を焼くからだ。触れる方が安心できる。入り込めば注ぎ込める。自分の存在を刻み込める。
――お前が好きになる奴は、想像できないぜ。
返事が欲しいのか欲しくないのか、前段階で明らかにしてくれ。じゃないと殺したくなる。
――できた人間なんだろうな。
人間ごときができたも何もおこがましい。
一方的でしかいられない。目的は明白。手段は一つ。完結している。だから絶対的で、否定の仕様はない。それで十分。死なばもろともだ。
(終)
2007/08/27
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