いつの日も



 時間には敵わねえ。最近俺はつくづくそう思う。隣近所に住んでて小学中学高校一緒で(よほど地元でくすぶりたかったらしい)、その後も六年以上付き合い続くって長すぎだろ。しかも趣味が同じときたもんだ。そんだけ一緒にいらっしゃったらまあもう他人には入り込めないような関係が築かれてるでしょうよ。非の打ち所がないとはまさにこのことだな。チームの中でべったりくっつかねえでも、どうでもいい時にあいつの中心引っ掴んでるようなこともぼそりと仰るし。そういう自然さを発するにはどうしたらいいんですかって聞きたくなるほどだよ。聞かねえけど。
「お前は何でそんなにあいつが嫌いなんだ」
 人気のねえことを確認したかと思ったら、毅は俺に向かって真面目にそういう質問をしてきた。中里サン、あんたにゃムードを作るって発想はないのかね。ねえんだな。そりゃお前だもんな。静かな峠で二人きり(感覚的にな)、ここで他人の話を差し込んでくるかよ普通って思うけど、お前じゃ仕方ねえや。で何だっけ? 俺が何であのお方を嫌いかって? んなこと知るか。
「それ考えるのも嫌いなほど、嫌いなんだよ」
 答えると毅は目を丸くする。悪いね、君の旧友をこうまで言って。けど生理的に合わねえ奴ってのは世の中いるもんだろ。まあお前と親しいって条件が俺のあいつへの嫌悪感を五倍増しにしたことを否定はしねえが、例えあいつがお前とそこまで親しくなくても俺はあいつを嫌いになったね。一歩引いたとこから何でも見てて、正論しか吐かねえんだ。てめえは機械かってな。つまんねえだよ要するに人間が。って言うと話がややこしくなるから言わない。
「んな悪い奴でもねえだろうが」
 また正論。お前もいい加減つまんねえな人間が。って言うと話がこじれるので言わない。
「俺は良い悪いで人は判断しねえことにしてんだよ。人間性が合うかどうかだ。あいつと俺はどうやったって合わねえ、それだけだ」
 端的で具体的、実に素晴らしい回答だ。どうせこいつはロクすっぽ理解しねえんだろうけど。大体あいつを嫌ってるったって、俺はそれでこいつに迷惑かけた覚えはねえ。他の奴らが茶化せる程度に軽い感じにしてるし(実際ネタだと思ってる奴がほとんどだ)、言い合いなんざ一つもしたことねえし、かといって会話をしないわけじゃない。天気の移り変わりから車の調子まで普通に話せる。ただ嫌いなもんは嫌いなわけだ。一緒にいるとムカムカするね。死ねとまでは思わねえけど、死んでから地獄に落ちろとは思う。しかし毅は案の定納得いかない顔をしてやがる。まあこいつにはどうやっても分からねえことなんだよな。俺があいつよりはこいつの方が嫌いじゃねえってことも信じねえくらいだし。
「あんまピリピリすんなよ。チームの雰囲気が悪くなるからな」
 本題は結局それらしい。チームの雰囲気ねえ。ナイトキッズはチームが殺伐としてこそ、って言ってる古参もいるけどな。ま、現リーダーもどきがそこまで言うならそうしましょう。って言うと絶対変な反論をしてこられるのでやっぱ言わない。
「分かったよ」
 の一言で終わらせる。賢い俺。でも物分りが良いとは思われねえのな。何だかね。

 本人にとっちゃあダチの一人ってくらいなもんだろう。俺にも約一名隣近所に住んでて古くから知ってる相手はいるが、まあ腐れ縁だな。昔の弱味を握り握られ、放棄する気もお互い更々ないからもうどうしようもねえ。友情も愛情も絆もない。あるのはつまり、過ぎた時間への未練だ。永遠に続く。離せない。腐れきってる。でもお前の場合は違うだろ、毅。だからお前には俺の気持ちは分からねえよ。分かってほしいとも思わねえけど。ただもう少し俺のことは見てくれてもいいんじゃねえかって思うぜ。走りについては認めて下さってるらしいが、俺個人は見られてねえな。俺もどんだけお前を見てるかって聞かれりゃ難しいところなんだけどよ。だってしょうがねえだろ、んな見てたらストーカーだ。だから大手を振って見られるあいつが羨ましいんだ。まあこの位置も悪かねえが、時間には敵わねえ。やってらんねえな、マジで。
(終)

2007/09/06
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