夢
『俺のもの』扱いってのは寒気が走る。永遠に消え去りゃしないと勘違いされるのもうんざりだ。他の奴らはそれでもいいだろう。所有されて満足してりゃいい。満足されていればいい。そこで終わりだ。一ミリも進みはしない。所詮俺らは人間だ。それにしても人間様が車に負けるってのは生きることの意義を問う事態だな。皮肉満載。けど事実、お前の一番は車でしかない。全身全霊ってやつを捧げて愛してやがる。滑稽なくらい。笑うしかねえ。笑ってやらねえと単なる狂人だ。でも俺は、そんな馬鹿で普通で頭がおかしいお前をサイコーだと思ってる。お前だからそれでいい。お前の一番は車でいい。そこを崩そうとする奴は死ねばいい。人間は時間が進めば勝手に大きくなってくもんでもない。借金とは違う。現状維持でも努力が必要だ。俺はそれを惜しまない。一度やると決めたことはこれでもやりきる方なんだ。やらなきゃいられねえ。なあ、お前は忘れるなよ。車を、山を、この土地を、空気匂い感触、死ぬほどの楽しさと死ぬほどの恐ろしさ。そして俺を。お前は俺のもんじゃなくていい。俺はお前のもんにはなりたくもない。俺たちはまだ若い。未来は選択肢に満ちている。それを一つずつ潰してやる。足でも尻でも舐めてやるし、糞漏らそうが付き合ってやる。いくらでも気持ちよくなってくれ。お前自身の望みで、お前自身の決断で、そうすりゃお前は忘れない。お前が俺に同情してようが何か負い目を感じていようが勘違いして好きになっていようが、そんなことはどうでもいい。関係ない。問題は、それが俺だけかってことだ。そのためなら俺は、いくらでもお前の尻を舐めてやる。だから走る時には俺を思い出せ。俺の夢を見るなら悪夢を見ろ。そして俺を忘れるな。永遠にだ。
どういう態度を取るべきなのか分からない。いまだにだ。悪態を吐くべきなのか無言で通すか、余裕を見せつけるべき普段と変わらぬようにするべきか。身の置き場がないみたいだ。何でそうなるんだ? いつも思う。思っているうちに時間が経って事は進む。誰かの手で変えられる自分を信じられるか? 俺は信じられない。自分の手で得たものは、それこそ手ごたえがあるし、実感もわく。誰かに与えられるものは、信じられない。慣れることがない。気持ちは慣れないが、体は慣れる。だから余計に分からない。俺はどうするべきなんだ? 逃げ出したくなることがよくある。そんなものが本当に要るのか? 峠で走ってるだけじゃ駄目なのか? 道理ってもんを考えれば考えるほど頭が痛くなってくる。そこを除きたくなってくる。けどそれはできない、今更だ、なら初めからやらなきゃ良かっただろ? おい、決めたのはお前だぜ。そう、俺だ。いいじゃねえか、なんて、真剣な顔で言われて、断る理由を思いつけるか? 代わりなんていやしねえ。無二の、仲間、いや、ただ、そいつ以外にはそいつはいない、大切な奴だ、逃がすのが惜しいほどに。何がいいんだ? それがいいのか? 気持ちはいい、そうだ。良すぎて、気が狂いそうになってくる。ものが見えなくなってくる。そういう怖さは、今まで感じたことがない。山の中ではいつも通りだ。だから、それ以外は、いつもじゃない。何も落ち着くもんがねえ。変わってばかりで、どうすりゃいいのか分からない。ただ、段々と、頭が占有されていく。体が占有されていく。信じられないものばかりが溜まっていく。なあ、もう、動けなくなっちまう。教えてくれ。俺は、どうすりゃいいんだ。お前は、何が良かったんだ?
(終)
2008/05/10
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