宛先勘定



 この俺が、手ェつないで歩きてえとか言ってみろよ。どのツラ下げてのたまっておられるんですかって感じだろ。まったくね、俺が俺に寒気を覚えるぜ。キモイっつーか、似合わねえ。性じゃねえ。俺みてえな頭の回る人間は、そんな弱くて甘ったるいことを口に出しちゃいけねえんだよ。っつーか思うことからありえねえんだけどな。マジドン引き。自分で自分を疑う日がくるとはね。お前と手ェつないで歩きてえとか思う自分を。
 世の中なんて大げさなコト起こさず生きてりゃあ、よくよく見逃される。小金くすねてもバレなきゃオーケー、罪悪感なんて知らねえモン勝ち、自己中万歳。いいじゃねえの、俺はそういう他人を食う奴ばっかの世の中愛してたぜ。俺がそういう人間だったからな。そう、過去形だ。俺はもう変わっちまってる。だってお前と手ェつないで歩きてえとか思ってんだもん。だもんって。馬鹿か俺は。馬鹿だな俺は。もう完全スルーが難しくなってきてんだよ。お前のことも、お前が気にすることも。何でお前みてえな微妙な常識人を俺が好きになってるんだろうな、意味分かんねえ。好きになってるって素で思える自分も意味が分かんねえ。
 まあ、ヤれるだけでいい方だよな。って、こういう妥協もまずありえねえんだけどよ、昔を考えたら。そう遠くない昔ってやつ、あの頃の俺はどこに行かれましたか。色々頭を回してできる限りの満足得ようと活動していた真面目でヤンチャな俺様は。尻尾くらい掴めてもいいはずが、影も形も見当たらねえ。おかげでしてえこと聞かれても、ただヤりてえとしか言えねえんだ。そんなヤりたくなくてもな。いやしてえけど。好きな相手に通用するって最高だよ。好きな相手が受け入れてくれるってのも。ああ、まったくね、だから寒気を覚えてドン引きだ。甘すぎる。弱すぎる。もっとちゃんと考えようぜ、庄司慎吾。君はやればできる子だ。野郎と手ェつないで歩くことも。問題ない。でも、やっぱどうしたいとか聞いてほしくはねえんだよな。聞かれた俺が真顔で答えて、それでお前に笑われたらとか、拒否られたらとか、もうホント、想像したくもねえ。ちゃんと考えられねえっての。言えねえや。言いたくても。辛いぜ、これ。分かるかな、お前。どうせ言わねえと分かんねえか。
 まあ、マジでヤれるだけいい方だよな。そこまで進んだだけ。何てったって、お前と俺だ。最終目標が手ェつなぐって関係も、悪かねえわな。そう思える俺もか。まだ疑っちまうけど。お前が信じるなら、俺も信じちまうんだろうよ。なあ、毅。
(終)


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