必要性
「だからお前は駄目なんだよ、毅」
俺について言うこいつの、120%自信満々な態度は何なんだ、とよく思う。そこで俺が何を言ったところで、慎吾が自論を変えないことはこれまでの経験で分かっているから(必ず俺が間違っていることにされるのだ)、俺はもういちいち否定することもないが、お前が俺の全部なんざ、理解できてるわけがねえだろう、とは思わずにはいられない。
「もっと相手のことを想像しろって。何をしてほしいのかとか、何をされたくねえのかとかよ」
「してるぜ、それくらい」
「それが足りねえの。全然足りねえ、人の心が読めてねえ」
じゃあお前はどうなんだ。お前は俺のことを想像してるのか? 俺が何をしてほしがってるのか、何をされたくないと思ってるのか、まともに想像したことがあるってのか。あるわけねえ。あるならこいつが俺に、こんな口を利くはずがない。聞かなくても分かるそんなことを、わざわざ聞く必要も感じない。
「人の心なんて、そう簡単に読めてたまるかよ」
「はっ、諦め早いねえ。努力って言葉知ってるか?」
ならお前は俺の心が読めるのか。俺が言わずにいることを知ってるのか。俺が我慢していることを知ってるのか。知っていて、そんなに馬鹿にしやがるのか。思うが俺は、言いはしない。
「お前は遠慮って言葉を知らねえみてえだな、慎吾」
「知識と実践は別問題だぜ、中里サン」
「また詭弁を」
「世の中全部詭弁だよ。ま、そうじゃねえって錯覚しとくのが、良い大人ってもんだけどな」
小馬鹿にするように笑いながら、そんなことを慎吾は言う。
「勝手なことばっか言いやがって」
ならお前は良い大人だな、と思いながら、俺はそう言うだけにする。錯覚できている間は幸せだ。俺はこいつの幸せを壊したいとも壊したくないとも思わない。それを壊す必要も、感じはしないのだ。
(終)
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