動画



 いかにも素人撮影の画質だった。どこかの部屋のようだった。アパートの一室のような古臭さが、映っているベッドの端から窺えた。手製感が漂っている。パイプベッドの上に、裸の男が仰向けに寝転がっている。目隠しがしてあり、両手はまとめてベッドの柵にくくられている。一分ほどその体がただ流れる。撮影者がそれから動く。カメラの前にボトルが提示される。ローションであることは見る者が見れば分かる。それが男の胸から股間にかけて惜しまれずに落とされる。シーツの下に敷かれているバスタオルにまで被害が及ぶ。男は起きない。撮影者が男の顔と上半身をカメラにおさめながら、その胸に触れる。皮膚に液体をなじませるように広げていき、突起を指で擦る。男の顔が横に動く。だが起きない。撮影者は向かって右側をゆっくりいじり、左側は軽く済ませた。それから腹に掌を滑らせる。陰毛の下、動きかけているものに液体をすり込むように手が動く。そこで明確な男の声が入る。言葉にはなっていない。体がよじれ、元の位置に戻る。撮影者は握ったものから手を離し、向かって右側の男の足をまず斜め上へ折り曲げ、今度は陰嚢に触れた。少し柔らかく揉むと、その下の窄まりへ移る。十分に濡れているらしい人差し指が男の中へするりと入っていく。男がうめく。だが起きない。ここで男が深い眠りにあることが想像できる。指は抜き差しを繰り返す。男は起きない。中指が加わる。苦しそうな男の声がする。カメラには男の全体像が映っている。男の口は間の抜けた風に開いている。そこから地を這うような声が間欠的に漏れている。撮影者は指を増やす。合計三本の指が男の直腸につながる道を拡張している。そこで男はようやく目覚める。間の抜けた口から間の抜けた声を上げ、上半身を起こそうとし、手の戒めに気付く。その間も撮影者は手を止めない。やがて男が撮影者の動きに対応するように首を振る。何だ、という疑問の声が上がる。答える者はいない。撮影者はカメラを動かさぬまま、そして指を抜き、すぐに画面にシンプルな形のバイブレーターを提示した。何だ、と男はまだ言っている。誰だ、何だ。これによって男が拉致されていることが想像できる。撮影者は男の疑問に答えぬままが、蛍光色のバイブレーターを男の拡張した部位にためらわずに差し入れた。再び男の間の抜けた声が上がる。指が入ったように滑らかには入らない。じりじりと、肉ごと押し込むように姿が短くなっていく。男の震えた声の後ろに飛行機の音が入る。バイブレーターのスイッチが入る。飛行機の音がすべてに重なる。男が震える声を上げながら、伸ばされていた片方の足を広げていく。撮影者がそれを往復させる度に、リズム良く男の声が出る。飛行機は去った。震動音と濡れた音と男の声と呼吸が画面いっぱいに広がっているようだった。男は勃起している。男の声が高まったところで、撮影者はバイブレーターのスイッチを切り、ずるりと引き抜く。男が悲鳴に似た声を上げる。そうした男の目を塞がれている顔を映したのち、カメラは撮影者の腹と勃起した陰茎を捉える。それが男の開いた窄まりに押し付けられ、侵入していく。歯を噛むような男の声がする。撮影者はそれを入れたのち、男の顔までをカメラにおさめ、そして動き出す。男は懇願する。やめろ、やめてくれ。撮影者は聞き入れない。ぐるりと中をかき回すように腰を動かし、速い抽送を持続的に行う。男は凄むような声と嬌声を繰り返す。しかしやがては言葉は途切れる。撮影者の動きに合わせて画面も揺れる。撮影者は速度を緩めぬまま男の勃起したものに手をかける。すぐに男は射精する。その直後男から抜いた撮影者が、男の顔に向かって抜く。男は抵抗せず、そのシチュエーションによってビデオは完結する。いかにも素人撮影の画質だった。手ブレも多く、外部の騒音も混じっていた。一切の説明はない。送り主は不明だった。ただ映っていた男のことを涼介は知っている。自分がそれを見て自慰をすることを信じている人間がいることも知っている。それがその映像の撮影者であることは一つの可能性である。そして彼の勃起は放置される。
(終)

2006/12
トップへ