「…………はっ……」
 スプリングがよく利いたベッドは、軽く体重を動かすだけでよく弾んだ。それがぎしりと鳴るたび、あぐらをかいた涼介の足にまたがるその体も音を立てる。鼓膜までの通路をざらりと撫でるような刺激が背骨に伝わってくる音だ。機械でも楽器でも女でも奏でられない、上質な音楽。
「あ……、あ……ッ」
 肩は強く掴まれ、皮膚には短い爪が刺さり、骨は絞られているようだ。その痛みは、だがその体の快感の証左であり、勃起の障害にはならなかった。むしろ、持続する。
「中里」
 名を呼ぶと、泣きそうな顔がこちらを見下ろしてくる。何かを懇願するように、期待するように。腹まで勃ち上がっているその男のものの、根元はこちらが戒めている。そこまでもが濡れ、またその全身も汗にまみれていた。腰を上げてやると、少量滴り落ちてくる。余計に握られる肩が、ちりちりと熱を出す。
「や、め」
 そう言いながら、離れようとはしないのだ。陶酔感が胸に溜まり、顔にまで染み出していくのが分かる。聞き惚れていると、音楽は途絶える。動かなければ続きはない。片手でそこを封じたまま、片手を腰に添え、一際強く突き上げると、高い音を鳴らし、男は背中を反らせた。肩からは、痛みが消えた。両手を男の背に回し、つなげたまま、ゆっくりと体をベッドへ倒してやる。大して動かしてもいないのに、その体は震え、中心からは白濁の液が漏れる。男の足が、こちらの腰を締め付けてくる。
「やッ……あ、あ」
 極上の音色、最上の情景。これを得るために費やしたものなど、今では思い出せもしない。肉欲に溶けている顔は、剛直さに覆われた姿の名残をわずかに持ち、その裸身をより淫猥にする。それを見ることよりも、そうさせていると自覚する方が、余程時間を短縮させる。人を威嚇するに相応しい大ぶりの目が快感に濡れ、人を誘う色を持つ、それをこの男でなしたことに、それを引き出したことに、いまだ恍惚せずにはいられない。
「りょ、う」
 名を呼ばれることも、懇願だ。そう導き、結論を与え、支配した。容易ではなかった。だが、辛くもなかった。取るに足らないことばかりだったのだ。
「ほら」
 半ば浮かしてまた押し込むと、規則的に音が鳴る。良い調子だった。これが、欲しいんだろう。そのはずだ。そう仕向けて、達成した。
 部屋に満ちていく、産毛までを撫でていくようなその音は、正解を示しているに違いなかった。それが途絶えるまで、終わりはないようだった。


2007/01/26
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