幸福到来
偶然を装った行動が必然を表す瞬間、それこそが高橋涼介の本懐が遂げられる瞬間である。あらゆる経緯に理由がつき、逃げるにはあまりに重い事実が背を肩を押し潰そうとする瞬間、そしてその重圧に耐え切れないように歪む顔、だがそれでも耐えようと引き締められる表情、それを見ることで、高橋涼介は愉悦を深める。唇を横に広げもしなければ頬を上げることもせず目を細めることもなく、ただ冷静に、己がそれを達成したことに歓喜し、ただ冷静に、苦しみの淵に立つ男の動揺を目に焼き付けるのだ。慈悲はない。情欲はある。そして与える。動揺を深める目、馴れていく肌、広がる齟齬、止まらない人生。仮初めの偶然が永遠の必然へと変わる瞬間、それこそが高橋涼介の本懐が遂げられる瞬間であり、仮初めの幸福がきたる瞬間である。
トップへ