誰も彼もに
眩しい、と思う。
土の上を歩きながら、青空を見上げて、太陽を捉えようとして、直視できなくて、眩しいと思う。
「冬って、日差しが強えな」
似たように巡る季節、それでも一年ぶりに感じる気候の変動は、新鮮味があり、実感をこめて出した言葉だったのだが、返されたのは含み笑いだった。小馬鹿にされているように思え、むっとする。
「何だよ、その笑いは」
「お前は、当たり前な奴だな」
笑いながら、ゆったりとした笑みを浮かべながら、慈愛が感じられる表情でそんなことを言われては、怒りも持続はしなかった。ただ、従順になるのも癪で、中里は、つい僻んだ。
「悪かったな、そりゃ。意外性のない人間でよ」
「誰も悪いだなんて言ってないだろう。拗ねるなよ」
僻んだところで、しかしこの男には通用しない。通用しないからこそ、偏屈ぶってしまうのかもしれない。通用しないと分かっているからこそ、安心して、長続きさせることもできない、歪んだ態度を取ることができるのかもしれない。いくら睨みつけても、一切輝きを失わない、その男は、青空の中の太陽のようで、見続けてはいられなかった。
「拗ねてねえよ。別に」
「当たり前なことっていうのはな」、聞こえた声にちらと目をやると、少し顔が上げられていた。「特別なんだよ」
「何?」
「当たり前のことを当たり前にできる奴なんて、滅多にいないんだ」
「そうか?」
当たり前のことを当たり前にするのは、当たり前ではないのか。何か腑に落ちず、隣の男を窺う。
「そうさ」、強い声が、返ってきた。「お前は特別だよ」
自信のある声。腹の底から出した言葉。眩しそうに、目を細めていた。眉間に小さくしわを寄せ、強い日差しを睨んでいた。白い光が、その顔を、美しく照らしている。
「よく分かんねえが」、それを眩しく見ながら、中里は呟いた。「お前が言うなら、そうなのかもな」
「おい」、途端、男が不快そうな声を上げる。「そんな簡単に落ちるなよ。心配だな」
「何が」
「悪い奴に引っかかりそうだ」
しかめられている顔。口元に、笑みはわずかに乗っているようだったが、定かではなかった。真面目ぶって、馬鹿にしているのだと、思った。心外だった。
「余計な心配だぜ、それは」
「余計か」
「そう簡単に、誰も彼もに落ちてたまるか」
少し歩いて、顔を見てから続きを言おうとしたのに、隣にいなかった。振り向けば、少し後ろで、なぜか歩みを止めていた。そこには、こちらを見ているのに、まだ眩しそうに顔をしかめたままの、男が佇んでいた。何か、タイムスリップでもしてきたかのような、所在なさげな雰囲気があって、それがどうにも面白くて、つい、噴き出してしまった。つられたように、男は苦笑した。そこに困惑がにじんでいて、さらにそれがおかしくて、笑ったまま、中里は言っていた。
「だから何だ、その笑いは」
「お前は、意外な奴だよ」
目が、しっかりとこちらを見据えていた。笑みが、しっかりと、こちらへ向けられていた。だから、もう、さっき続けて言おうとしたことなど、忘れてしまっていた。お前だからだと、言えたのは、夜を迎えてからだった。
(終)
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