厚い照明
できるなら何もさせたくない。本当だ。気を遣われたくないし、気にかけられたくもない。気にしてほしくない。本当だ。嘘ではない。細く長く白い、だが関節部分に男らしい太さを持つ指が、体の一部分、表皮にわずかでも触れるだけで、意識がそこに集中する。考え事はできなくなり、自分が何者か知れなくなる。そうなりたくはないのだ。自分が自分であることを、意識できなくなっていくあの時間の恐ろしさ、それを拒めない恐ろしさから、逃げたいのだ。
首に、息を感じる。声を感じる。乾いた唇は肌に触れそうに触れず、声だけを残す。中里、と呼んでくる低く甘い声は、何かを求めているようなのに、何の返答も求めてはいない。跳ねのけたい。振り払いたい。逃げ出したい。もう一生近づくことがないように、遠く離れてしまいたい。本当だ。嘘ではない。嘘ではないのだ。離れたい以上に、触れたいことも、嘘ではないのだった。
(終)
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