我侭



 俺はいつでも振るわれた刃が与える影響を想像せずにはいられない。他人の皮膚が、心が抉り取られる様を思わずにはいられない。流れる血の量を僅かでも減らそうと足掻かずにはいられない。だから我侭にはなりきれないのだと思っていた。例えば他の鮮烈な返り血を浴びながら、己が傷口の奇怪さを笑い飛ばしてしまう彼らのようには。だが、どうだろう。俺はお前のことを想像する。俺の言葉が、俺の動きが、俺の指が、お前に与える影響を。その想像は俺を先へと、知れきった未来へと駆り立てるけど、俺は何も知らないように、何にも縛られていないように、とても身軽に、無意味に、純粋に、笑えるんだ。なあ、そんな俺は我侭で、良い男だと思わないか?
(終)


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