リカバリーショット



 床でもどこでも、寝る場所は問わない。だが、床よりはベッドの方が、寝るにしても、気持ちが良い。岩城のベッドに入ると、岩城も入ってくる。それはそうだ。ベッドは岩城のものだし、そもそもここの家主は岩城であって、中里は部外者に過ぎない。岩城は風呂上りで、素裸だ。だから、覆いかぶさられて触れるのは、岩城の肌となる。山から下りて入れた少ないアルコールは、岩城とのキスを、拒ませないくせに、何でなのかとは考えさせる。何でこんなこと、やってんだ。だが、峠道を走った時の死に近づいた興奮が消えない体は、唇が触れ合うだけで、すぐに熱が蘇る。アルコールは、鮮明な感覚を残している。股間には、既に猛っている岩城のものが当たっていて、それに残る興奮が煽られる。
「……はっ……」
 キスの合間に、肌着を脱がされて、全裸で触れる。皮膚と毛と汗が擦れ合う感触に、背中がぞくぞくとする。相手が岩城だとは分かっていても、肌が震えるのは抑えられない。
「ん……」
 離れる度、うっすら笑う岩城が見える。楽しそうに、顔を歪めている。何でお前は、と中里は思う。何でこんなこと。何も理解ができないまま、腹のあたりに、濡れた感触。岩城のもので、ひどいぬめりが、股間まで広げられる。
「んんっ……」
 押されて擦られると、電気的な快感が、腰を貫く。岩城のキスは執拗で、口腔で肉が触れていない部分はないほどだ。ぐちゃぐちゃと、音が鳴っている。体中が熱くなって、勃起する。射精への欲求をこらえきれず、膝を立て、自分から擦りつけてしまう。手は、岩城の手に捉えられて、抑えられているから、他にやりようがない。岩城の動きはキスのように執拗で、余すところなく触れていき、快感が次々引き出される。もう限界だった。吐息が漏れそうになって、だがすぐに、感触が消えた。摩擦を求めて揺れる腰を放り、見上げる岩城は笑っている。嫌らしく笑わせているのは、自分の浅ましさだと思うと、中里は死にたくなるが、それより一度達してしまいたかった。
「岩城……」
 名を呼んでも、岩城は笑ったまま、体を離したままだ。
「一人でイくなよ」
 刺激がなければ射精は迎えられない。背に腹は代えられず、とにかく頷く。最後までいけば、何も求めずに済むはずだ。
「分かったか?」
 頷くが、動きはない。
「聞いてんだろ。答えろよ」
 岩城は今にも舌打ちしそうだった。言葉にしないと認められないらしい。
「……分かった」
「俺より先にイッたら、ペナルティだぜ」
 とにかく中里は頷いた。岩城は笑って顔を寄せ、股間も寄せてくる。待ち望んだ刺激に、足がくねる。ペナルティが何かは分からない以上、我慢するしかない。射精を我慢するのは辛いが、岩城が射精してしまえば終わりだと思えば、先も見える。次第に岩城の動きは速まって、ぐりぐりと押されながら、それでもキスは変わらず続く。口の中は痺れているようで、舌に探られると、まだ腰まで快感が下りていく。堪えがたい。筋肉が突っ張っていく。息継ぎをしながら、中里は慌てて声を出す。
「待っ、て」
「いいな、たまんねえ」
「ん、くうっ……」
 唇を合わせたまま岩城が言う。岩城の張り詰めているペニスにこれ以上擦られると、我慢もしきれない。逃げようと腰を浮かすが、逃げ場はなかった。一層接触が深まって、尻が痙攣する。
「はっ、あ……あッ……」
 一際強く押しつけられて、体を抑制できなくなった。岩城の腰を挟むようにして、射精する。それでも岩城は動きを止めない。岩城が達したのは、中里が射精し終わってしばらくしてからだった。限界を超えた刺激をも悦ぶペニスと腹とで岩城の精液を感じ、腰の奥が震えた。
「……ふう……」
 一息吐いた岩城が、股間をくっつけたまま、顔を寄せてくる。舌を求めて、口が勝手に開いた。
「ペナルティだ」
 笑いながら岩城は言う。それが何か分からないまま、中里はとにかく頷いた。
(終)


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