インターセプト



 何でも頭で片付けたがる奴は、何にでも意味を与えて特別にしようとする。だが意味など与えられなくとも、特別になどならなくとも、物事は滞りなく進んでいくのだ。独自の方向に、独自のスピードで。
 中里を家に招いたことを、清次は特別にするつもりもなかった。気が向いた、それだけのことだ。寝床を貸してやろうという気が起きたのも、そういう精神状況だったからとしか言いようがない。そういう精神状況でなければ、峠で長々会話を続けもしなかっただろう。誰かと話すことを好む気分もある。好まない気分もある。その時は好む気分だった。そして偶然近場にいた相手が、中里だったというだけだ。中里がよその走り屋であることも、自分が中里に完全勝利を収めていることも、話を飽きさせない理由にはなったが、そもそもの選択には関係がなかった。
 特別なことなど何もなかった。すべては気分の問題だ。家に招いたのも、話をするうちにそういう気分になったからで、例えば招いた時点で追い出したい気分になったとしたら、清次は迷わず中里を追い出しただろう。だが、そうではなかったのだ。
「俺が間違ってた、こんなことはありえねえ。失礼するぜ」
 だから中里がそう言って、入って三分も経たないうちに家を辞そうとした時、清次は止めた。追い出したい気分になっていなかった以上、中里が帰る必要はどこにもなかった。
「待てよ。ここまで来て、何だってんだ」
「とにかく、金輪際、ここには来ねえ。じゃあな」
 身を翻した中里の上着の襟首を、清次は掴んでなお止めた。自分の気分を無視されて、勝手なことを言われっぱなしでは、不愉快だった。
「ふざけんじゃねえよ」
「離せ」
「何様だ、てめえ」
「居座ろうってんじゃねえんだ、迷惑はかけねえだろ」
 襟首を掴んでいる手を外そうとしながら、不服そうに中里は言った。迷惑がどうのという話ではなかった。迷惑かどうかを考えて家に招いたわけではない。気分の問題だ。こんなことはありえねえと中里は言った。その気分をありえないと言われたようなものだ。ケチをつけられたようなものだ。腹が立った。そのまま帰してやる気分ではなかった。帰らせてやりたくはなかった。だから口からそれが飛び出したのだ。
「お前、京一に惚れてるだろ」
 中里の身じろぎが止まった。強張った顔が向けられた。
「何言ってんだ」
「俺は別にどうでもいいんだぜ。お前の趣味なんざ、どうでもよ」
「馬鹿か、ふざけてんのは」
「けど、あいつはどうだろうな」
 その言葉は効果的だった。最初から意図していたわけではない。だが、ずっと頭にはあったことだ。それが中里の急所であると清次は勘付いていた。いざという時には使えるだろうという意識があった。いざという時がどういう時なのかは考えたことがなかった。使う気もなかったからだ。だが、今がいざという時だと自分は判断したようだった。
「お前」
 襟首から手を離しても、中里は足を進めなかった。強張った顔で見てくるだけだ。
「まあどう思うにしても、知る権利ってのはあるだろ」
「待て、俺は」
「マスかきに使われてんなら、よっぽどだしな」
 それは半ば当てずっぽうだった。違ったとしても害はないから口にした。だがそれこそが急所だったようで、中里の大振りの目は精神異常者のように泳いだ。いっそ哀れなほどだった。同情はしなかった。同情されるべきは、あずかり知らないところで同性に自慰の材料とされている京一だろう。あるいは京一はそれを分かっているかもしれない。中里は峠であからさまに京一を避けているが、視線だけは逸らしきれていない。そこに含まれる好意を隠しきれていない。清次ですら分かることだ。視線を向けられている京一が、その本質を分からないわけもない。ただ、言葉にしたことはない。する機会もなかった。知る権利。便利な言葉だ。そんなものはどうでもいい。京一は他人に干渉されることを嫌う。そんなことをするつもりは端からない。ケチをつけてきた奴に報復できればそれで良かった。それで清次の気は済むのだ。
「言うなよ」
 ひとしきり泳がせた目を床に固定して、中里は言った。清次は聞いた。
「何を」
「言うな。それは、言うな」
 薄い頬の肉が震えていた。手で突けば、そのまま床に倒れそうな不安定な中里の有様だった。意味など与えていなかった。特別なことなど何もなかった。それでも物事は滞りなく進んでいる。独自の方向に、独自のスピードで。清次は中里に顔を寄せ、歯を剥いて笑った。
「そのご命令を聞いてやる理由は、俺にはねえな。どうぞ、お帰りになれよ。金輪際、ここには来るな」
 宣告し、体を軽く押す。よろめいた中里が、バランスを崩しかけ、しかし踏みとどまり、立ち尽くす。帰られたとしてももう構いはしなかった。報復は終え、気は済んだ。すべては気分の問題だった。
「待ってくれ」
 ただ、後ろから声をかけられて無視をするほど、冷えた気分でもなかった。夜食作りに取り掛かる前に、清次は振り向いた。中里は変わらず立ち尽くしている。
「俺は、どうすればいい」
 青白い顔でそう言われて、どうさせようかと考えないほど、冷えた気分でもなかったのだ。

 清次はその時中里を抱いたことを、特別にするつもりもない。すべては気分の問題だ。女の裸を見てうんざりすることもあれば、男の尻に突っ込みたくなることもある。他の人間はそうではないかもしれない。だが他の人間がどうなのかなど関係ない。自分はそういう気分だった。そうしたかったらそうしただけだ。そうできたから、そうしただけだ。
 今もそれを続けているのは、気分が持続しているからに過ぎない。いずれこの気分が消失すれば、中里を家に招くこともなくなるだろう。だが清次はまだその気分を保持している。だから中里を家に招くことはやめていないし、中里を抱くこともやめていない。
 始まりはキスで知らせる。いまだに緊張するくせに、京一に惚れているくせに、それを深めていくだけで、下着を濡らす中里の姿は浅ましく、清次はどうしようもなく笑えてくる。最初はこうはいかなかった。最初はキスもしなかった。咥えさせて、その場にあるもので間に合わせて、無理矢理やってそれで終わりだ。自分が射精できればそれで良く、中里がどう感じてようが気にはならなかった。だが、同じことをやるのはつまらない。次は咥えさせながら、見えるように自慰を命じた。尻は丁寧に扱って、射精もさせてやった。そういうことを繰り返していくうちに、中里はこうなった。清次が中里をこうまで浅ましくさせたのだ。それを示す中里の淫らな体は、清次の優越感を刺激して、良い気分を持続させる。
 ベッドに行くのも服を脱ぐのもいまだに躊躇する中里は、鬱陶しい。だが鬱陶しがっても苛立つだけだから、躊躇する中里へ行動を命じることを、清次は愉しむことにしている。中里は屈辱で顔を曇らせながら、自然を装った不自然な仕草で服を脱いでいき、かくかくとした動きでベッドの上にうつ伏せる。何もしていないうちに、その体は細かく震える。その、何もしていない状態で、既に何かされたようになっている、無残な中里を眺めると、清次はどうしようもなく笑えてくると同時に、どうしようもなく奮い立つのだ。
 ぬめらせた穴の周りを指でいじるだけで、上げさせた尻はへたばろうとする。それを音を鳴らすように掌で叩くと、悲鳴を漏らしながらも中里は腰を上げ直し、だが中に指を入れれば、またへたばろうとする。その尻を再び叩き、清次は笑いながら、声をかけてやった。
「しっかりしろよ。それともお前、そんなに叩かれてえのか」
「……ッ、う……」
 頭の横でシーツを握り締めた中里が、足は開いたまま、尻を高く上げる。震える太ももの間から見える中里のペニスは、重力に逆らい始めている。
「叩かれてえなら言ってこい。いくらでもしてやるぜ」
 叩いた肉を片手でそっと撫でながら、片手で尻の内側を掻き回す。反論はない。今まで反論される度に、立場の違いを分からせてきた。だからもう、中里は反論してこない。言葉を使うにしても、精々が懇願だ。だが無言の抵抗をすることはある。動きを止めたり、逃げようとしたりする。それは意識的にではなく、反射的にかもしれない。だがその度に清次はねちっこく、とことん焦らしてとことん責めて、許しを請わせて、抵抗できる余地など残っていないことを、中里に思い知らせる。中里の体は、既にそれだけ淫猥なのだ。
 尻が緩むまで時間はそうかからなくなっているし、快感で曇った声が上がるまでも、そう時間はかからない。清次が自分の奮い立っているペニスを握らせれば、何も言わずとも、中里はそれを擦り始める。中里の足の間で揺れる、膨れきったペニスの代わりのように、それでいて緩んだ尻に入れてほしがっているように、擦っていく。その熱心で未練がましい動きに、清次は衝動をかき立てられ、手を離させた。
「どうだ、はめてほしいか?」
「っ、はっ、あ」
 指を抜いたところに自分のペニスを当てながら、清次は中里の背に被さって、耳に聞く。それだけでぶるりと震えた中里が、体を小さく引きざま、尻をペニスに押しつけてくる。だが角度が合わず、尻の間を滑るだけに終わる。
「はめてほしいか、って聞いてんだ。ちゃんと答えろよ、言葉でな」
 そこに何度も滑らせながら、清次は重ねて尋ねる。何も言わず、何も言わせず思うがままに入れてしまうこともある。最初から堪えに堪えてすべての過程を言わせることもある。それも気分だ。今日は、これだけ言わせたい気分だった。中里は、跳ねる肩で清次の首を喉を軽く打ちながら、シーツに埋めていた顔を上げ、隙間から、消え入るような声を出した。
「……ほしい……」
「聞こえねえよ」
 聞こえないこともなかったが、聞こえたうちに入るものでもなかったから、自分でもうるさく思えるだけの声で、言い切ってやる。震える中里が動かした尻は、間に沿わせるようにしている清次のペニスを求めるように擦った。
「もう一回だ。ちゃんと言え」
 答えを引き出すように、今度は優しくささやいた。震える中里の動きは同じだが、出てきた声は先ほどと違った。
「はめて、ほしい」
 叫ぶように中里は言った。その耳元で、清次は高揚からせせら笑った。また震えた中里から一旦体を離して、かき立てられた衝動のまま、素早く後ろから挿入した。
 最初に比べたら、それもスムーズにいくようになった。つきまとう締めつけは快感を助長するだけで、拒むことにはならない。清次はじっくり責めていく。中里の尻の穴に、自分のペニスが入り込んでいく様を眺めるのは好きだった。勃起したペニスがぴっちり包まれた穴の中へと引き込まれて、戻される、その光景はグロテスクなのに妙に卑猥で、興奮を呼ぶ。背後から入れる時には、まずじっくり責めて、それを眺めて、昂る自分を感じることが、清次は好きなのだ。
 それにひとまず満足してから、本格的に責めていく。大して技巧もこらさず突くだけでも、中里はしきりに喘ぎ、腰を揺らす。背中を舐めれば背を揺らし、肩に舐めれば肩を揺らす。耳を舐めれば頭を揺らし、小さい悲鳴を上げる。
「おい、良いだろ」
「ひ、う」
「気持ち良いだろ。こんだけ動いてよ。たまんねえよな」
「う、あっ……」
 上がる声は肯定的で、すり寄せられる尻も肯定しているが、まだこのくらいの言葉に、言葉を返してくる段階ではない。中里はすぐには理性を手放さない。何回抱いてもそれは変わらない。だがすぐには手放さないだけで、相応の時間と手間をかければ必ず手放す。その過程で清次が退屈することはない。がつがつと突くだけでも、中里はよがるからだ。少し丁寧に、感じるところを責めてやれば、息絶えそうなほどになって面白い。動きに合わせて揺れる尻は、的確な快感をもたらして、清次は最後まで飽きることなく中里を貫いていられる。
 射精のために激しく動いている時に、大抵中里は激しく達する。その際の収縮と弛緩を繰り返す肉の影響を受けて、清次は大抵射精する。中で出した後は頭が冷えて、もういいかとすら思えるのに、自分の下で、赤い肌に汗を滴らせて、ぴくぴく震えながら、喉のあたりだけで呼吸している、どうしようもない中里を見ると、清次はやはりどうしようもなく笑えてきて、どうしようもなく奮い立つのだ。
 精液を出しきったペニスを抜き、両腕を掴んで体を起こさせた中里を、自分の足の間に座らせて、背後から前をまさぐる。指を濡らす中里のペニスはまだ硬い。射精した様子はない。射精せずに中里が達したことは知れている。知れていても、見逃す理由にはならない。
「何だ、いってねえのかよ。あれだけ感じといて」
 耳に言いながら、乾いていない亀頭を指で擦ると、中里は腰を引き、清次の股間に尻を押しつけてきた。
「ッ、い……」
「ああ、そうか、お前はケツの方が良いんだよな」
「ん、ん……」
 今度は避けるように、腰を浮かせ気味にした中里のペニスが、清次の手の中を動き、止まる。そのまま中里は動かなくなった。息まで止めて、じっとしている。嘲弄への無言の抵抗だ。こういう中里の諦めの悪さは、清次の嗜虐心を大いにそそり、飽きさせない。何度でも諦めさせてやりたくなる。
 すぐにでも精液を噴き出しそうに、中里のペニスは脈打っているが、それにはもう刺激は与えない。そこから離した手は、胸へとかける。多少ついている肉を、両手で中央に集めるように押し上げると、中里はびくりと肩を揺らし、細く息を吐き出した。掌の下で潰れている乳首は硬い。それを捏ねるように手を動かせば、中里は呼吸を浅く再開させて、そこに小さな声を混じらせる。
「けど、ここも好きだろ。チンポ触られるより良いんじゃねえの」
「……ふ、う、う……」
 聞きがてら、赤くなっている耳たぶを、吸いつく音を立てながら口に含む。中里の体は小刻みに揺れる。掌で捏ねた乳首を、指でそっとさすってやると、噛み殺されない、すすり泣くような声が漏れる。肩から覗いた下では、ペニスが勃起したままだ。
 以前、入れたままこうしていじり尽くしてやったことがある。戒めとしてだ。その時の中里は、挿入中に体を撫でただけで、闇雲に逃げようとした。清次はぎりぎりそれを捕まえた。正当性を考えれば、そこで突き放して、関係を終わらせるべきだったのかもしれない。そのくらいの中里の横暴だった。だが清次は中座する気にはならなかったし、正当性など気にもならなかった。だからペナルティを科すことにしたのだ。挿入したまま、自分で自分を慰められないように中里の腕を縛り、座った上にまたがせて、後ろからひたすら乳首をもてあそび、逃げようとしたのが悪いのだと教え込んだ。自分が萎えないように、清次は幾度か突き上げた。それ以外尻には何もしないまま、中里は勝手に射精して、その後もたまに突き上げながら更に乳首を責めていくと、ようやく許しを請うてきた。
 だが、必死に許してくれと言われると、簡単に許してやるのもつまらないように思えてくる。そして清次は淫語を使って謝らせた。後で思い返せば笑えないほど馬鹿馬鹿しい、下品で低能な言葉ばかりだったが、そういう言葉ほど、性交中は刺激的に聞こえる。何度も何度もそうして、卑猥な言葉を使って自分の非を口にする中里からは、理性が飛んだらしく、その後は何をやっても逃げようとはしなかった。そんな中里にあらゆることを試した末に、清次はいつぶりかも思い出せないほど久しぶりに、体力を使い果たした。とことんやるのも疲れるものだ。あれほどの責め方は、それ以来していない。
 ともかく以来中里は、乳首に少し触れるだけで、大きく感じるようになった。強く刺激して言葉も加えれば、簡単に勃起する。今も勃起は続いている。簡単にはそれを、認めようとはしない。よがらせるまで労が要らなくなっても、労を費やしたくなるのは、中里があからさまに快感を示しながら、無駄な抵抗をしようとする意地を、欠片くらいは残しているからだ。その欠片を、清次はとことん潰してやりたくなる。
「いきてえか?」
 乳首をさすったまま、耳元で聞く。中里は、自分で自分に触れようとはしない。まだ自慰の真似をする段階ではない。
「いきてえ……」
 だが、言葉を出す段階には入っている。進んでいる。さすっていた乳首をつまみ、その衝撃で前かがみになりかけた中里の耳を追い、そこに声を吹き込んだ。
「そうか。でも、自分だけってのは勝手だよな」
 手を腹へと下ろし、腰に回す。それを掴みながら、清次は足を伸ばして仰向けになり、中里の尻を顔の前まで引き起こした。
「なあ?」
 まだらに赤くなっている尻たぶに言うと、筋肉が締まるが、足の付け根を持って開かせてると、穴までよく見えた。それは卑しくひくついている。中に何かを引き込みたがっているその動きを、清次はただ、嘲りとともに眺める。その望みを叶えてやるものは、自動的には生まれてこないのだ。
 頭を逆にして被さるようになった中里の息遣いが、じきに股間に触れた。望まれているものが手に持たれ、咥えられたのが感触で分かった。温かい肉と唾液がペニスを包み、しごいていく。ぐちゅぐちゅと濡れた音が立ち始め、清次はその音が表す実際の快感に浸る。中里は口から出すと、玉から亀頭までまんべんなく舐め、また口に含み、手と舌と喉を自由に使い、全体と局所を、緩急をつけながら刺激する。最初に時に比べれば、段違いのうまさだ。あのお粗末な動きは、未経験だからと黙認するには危険すぎたもので、ぼろ糞に言っても改善されなかったら、縁を切っていただろう。だが改善はされた。それもそう時間はかからなかった。だからもう危険は感じないし、安心して任せていられる。
 清次のペニスが膨れるにつれて、中里は口内よりも手や唇や舌を使うようになる。咥え続けて、精液を飲みたいわけではないのだ。目の前で弛緩を繰り返している尻に、清次はそこで一気に二本指を入れて、内側をぐるりと擦った。握ったペニスに悲鳴をぶつけた中里が、腰を揺らす。その動きを、指を抜いて足の付け根を抑えることで封じる。許可してやれば、中里はすぐにでも自慰の真似を始めるだろう。許可はしない。だから中里は自分では触らない。触れない。そういう風に仕込んである。達せられない苦しみで泣きそうな声を漏らす中里は、再びペニスを咥え、歯以外の口内のものと手を使い、自棄になったように、ひたすら粘膜を擦っていく。その貪欲なほどの加減のなさは、清次の快感を根こそぎ引き出そうとする。思わず腰を突き出しかけて、それを意識的に抑え、清次は後方に思いきり身をずらし、中里の下から抜け出して、起き上がった。口に出すために咥えさせたわけではない。無駄な抵抗をやめた、その褒美をやるためだ。
「これが欲しかったんだよな。いきてえんだろ、出せよほら」
 腰を上げたままシーツに這った中里の体を横にして、足だけ前で開かせ、尻にペニスをあてがいながら言い、挿入した。
「あっ、あぁ、あ……」
 ちぎれそうな声を上げた中里は、それだけで射精した。ペニスから精液を垂らしながら、体のあちこちを大きく震わせて、喉を反らし、苦しげに喘ぐ。尻は清次のペニスを嬉しそうに引き込んで、戻し、また引き込み、快感を分けてくる。
「派手だなあ、おい」
 笑いながら、口に出すことを我慢した自分への褒美をやるためにも、清次は腰を振った。中里の体が揺れ、シーツに沈む。反動で横に戻ろうとするのを、完全に表にして、じっくり責めていく。
「あ、あ、あ」
 突くごとに、リズム良く中里は声を上げる。その顔は締まりかけて、緩みきる。
「そんなに良いか、俺にやられんのは。この変態が」
 嘲弄を落としても、抵抗はない。反応はある。ペニスを受け入れる動きと、それに合った喘ぎ声が返ってくる。その無抵抗ながら抵抗力を有し、受け身でありながら受動的ではない中里の姿は、清次に強い陶酔と、唇の飢えを感じさせる。突っ込んだまま被さって、始まりを知らせるのと同じ、深いキスを仕掛けさせる。それよりよほど濃厚で複雑で、やわらかいキスは、清次の思考力を束の間奪う。舌が絡まり、唾液が行き交い、唇が痺れ、束の間が終わる。離れて、清次は笑っている。意味はない。ただ、笑いたい気分になっている。
「岩城……」
「あ?」
 急に呼んできた中里は、人の名を呼んだことを意識もしていないような、呆けた顔だ。理性を手放している顔だ。ここまでくれば、何をしても拒まれることはない。中里はもう、この関係を結んでいる元々の理由も後からの理由も何も、頭に留めていない。恥じらいも何も忘れている。画像を撮ろうが動画を撮ろうが、抵抗することはない。だが今は、そういうことをする気は起きない。
 ここに特別なことは何もない。これは特別でも何でもない。こんなことに意味はない。すべては気分の問題だ。そういう気分というだけだ。そういう気分だったので、清次は中里を抱き締めながら、もう一度深いキスをしてやった。その気分こそが特別であることは、今の清次の埒外だ。
(終)


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