不可避
かっこうの鳴き声で目が覚める。
いつの間にか鳴いている。最初は寝起きのような声で、徐々に張りを持ち始める。かっこう、かっこう、かっこう。同じリズムで繰り返される弱々しくも途切れない音は、眠気を誘うどころか引き離す。
どこにいるのだろうかと思う。近くの林だろうか。こんな朝っぱらから鳴いて、何がしたいのだろうか。
下肢はだるく、とりわけ背側に重さが残っている。このまま動かず寝ていたい。だがそうもいかない。自宅でかっこうの鳴き声を聞くことはない。その自宅に戻る必要がある。朝のうちにだ。
時計を見ずとも時間は分かる。午前四時頃だ。かっこうの声が張りを持ち始める時間帯。鳴き声がやめば四時半頃になっているだろう。
毎週聞いている。毎週のようにではない。毎週だ。毎週ここへ来て、夜を過ごし、朝を迎え、かっこうの鳴き声を聞く。
目が覚めた時には、体は横になっている。その背中にいつも、他人の肉の重みを感じる。他人の肉の温度を感じる。硬く、柔らかい肉だ。時には腹に厚い手を感じ、首に温い息を感じる。濃い匂いを感じ、静かな気配を感じる。
感触に慣れさせられ、存在に慣れさせられ、抜け出せなくなっていく。動きたくはない、だが動かなければならない、その義務を果たす力を、自分を、奪われていく。
奪われているのか、それとも、自ら差し出しているのか。答えは知れない。
かっこうは死んだように鳴かなくなる。背中を抱いてくる男はまだ目覚めない。目覚めさせずにここから抜け出すことは容易い。そしてそれは、既に不可能だ。
(終)
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