好きかって? そりゃ好きさ。好きじゃなけりゃ野郎のケツをわざわざいじりたいとも思わない。突っ込んでよがらせたいとも思わない。そういうもんだろ。好きだからしたくなる。逆を言えば、したくなるから好きってことだ。イコールでつながってりゃ、どっちが先でも後でも同じじゃねえか。
 数学? 積分は好きだったな。微分はそうでもない。積んでく方が好きだった。何となく。確率は苦手だった。あんなもんコンピューターにやらせときゃいいんだよ。
 そういうことじゃねえって? それはよく言われる。俺を馬鹿だと言う奴は口を揃えてそれを言う。そういうことじゃない、そういうことなんだけどそういうことじゃない、とかな。肝心なことを俺は分かってないらしい。そうなんだろ? 分かってるさ。俺は確かに馬鹿なんだろう。成績は悪くなかったぜ。特に美術。疑うか。まあ疑うだろうな。手先は生まれつき器用なんだ。見たまんまを形にするのは。独創性がないとか言いやがったけどな、あの教師は。見たもの描けって言ったくせして。だったら見えねえもんを描けって言えよ。それなら俺はいくらでも独創性を出してやったさ。俺の頭の中なんて誰にも見えねえだろうし。
 何の話だ。俺が馬鹿って話か。いいよ、自分のことは自分が一番よく分かる。俺はどっかが抜けてんだ。それでも不便はない。誰でもどっかは抜けてるもんじゃねえか。俺の場合はそれが馬鹿って言われやすい部分ってだけなんだ、多分。お前もそう思ってるだろ。俺が馬鹿だって。慣れると分かるもんだぜ。人が自分をどう見てるのか。別にもうどうでもいいけどな。他の奴が何思ったって、俺がそれを思うわけじゃねえから。
 そういう顔すんなよ。どういうって、何だ。そう、卑屈っぽい感じだ。似合わねえ。そういう顔も好きだぜ。けどお前には似合わねえな。
 怒るなよ。怒ってねえって、怒ってるだろ。見りゃ分かる。好きだからな。どこがって? さあな。おい、そんなに自分をこき下ろすなよ。そりゃお前は見た目綺麗なもんでもねえし、体は硬いし、いちいち塞ぎこみやがるし、かと思えばどうでもいいようなことですぐ怒るし、怒ってるのに怒ってねえとか言うし、そのくせ手は出してこねえし、まあそういうところじゃねえのかな。そういうのがあって、笑ってくれると嬉しくなる。好きだと思う。かもしれねえ。よく分からん。
 大体好きだの嫌いだのって、理屈こねくり回す奴のことが俺は理解ができねえんだ。こういうことだからこれは好きで、こういうことだからこれは嫌いとか、説明するには考えなけりゃならないだろ。考えて何かを好きになったりするか。嫌いになったりするか。思った瞬間からそれは好きで、嫌いなんだ。だからどこを好きだとか何が好きだとか聞かれても、俺はまともには答えらんねえよ。多分何を言っても嘘になる。
 したいほどには好きだし、好きだからしたくなる。そんくらいのもんだ。お前はどうだ? そういうことじゃねえってか。お前の肝心なことは何なんだろうな。俺にはよく分からない。別にどうでもいいことだ。そうやって誘ってくるのがヤケクソだからだろうが何かから逃げるためだろうが、お前が俺を誘ってるってことに変わりはねえし。
 何を小難しくご大層に考えようが、結局思ったことしかできねえだろう。そういうもんじゃねえか。そういうことじゃない。そうかもな。俺にはよく分からない。俺が分かるのは、俺はお前のことが好きで、抱きたくなるってことだけだ。まあ、考えたいならいくらでも考えてくれ。けど、今は別だ。俺に集中しろよ。気持ちよくなろうぜ、お互いにな。
(終)


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