暫定未定
「あれ、何ドカベンまた来てんの」
「何よドカベンって」
「イワキだろ? ドカベンじゃん」
「ドカベンは山田じゃねえか」
「でもイワキっつったらドカベンだろ」
「漢字違うんじゃね?」
「え、何、お前字ィまで知ってんの。あいつのマニア?」
「俺はあらゆるマニアなんだよ。あれは岩に城だ。ロックキャッスル」
「んな細けえことどうでもいいじゃん」
「イワキなら山でもいいよな」
「そりゃ岩に木だろ」
「だっからおめーはこまけーこと気にすんなっての」
「岩木山ってどこだっけ? 富山?」
「お前それ完全山つながりでしか言ってねえだろ。岩木山は、東北のどっかだよ」
「お前だってそんな六県アバウトじゃねえか、偉そうに言いやがって」
「っつーか字ィ違うんだからよ、ドカベンでいいじゃん。山って言いづらいし」
「そこかよ。じゃあいっそロックマウンテンってのは?」
「コーヒーみてえだな」
「ってか元なさすぎて呼んでも気付かんべ」
「っていうかさ、あれ何しとんの」
「毅待ってんじゃね?」
「でもさっきアゲさんと話してましたよ」
「うわ、お前いつの間にそこに」
「五分前からいました」
「計ってたのかよ」
「まあ。あの人、休んでんじゃねえっすか? 何回か走ったみてえだし」
「よく見てんな、おい。お前こそあいつのマニアだろ」
「そんなマニア嫌ですよ。ってかさっきあの人口笛吹いてましたよ」
「口笛?」
「あれ、何だっけ、ほら暴走族がよくパラリラやってるでしょ」
「はあ?」
「こう……こういうの」
「あー、ゴッドファーザーか」
「へえ、これがゴッドファーザーなんすか」
「タクちゃん、俺ジェネレーションギャップをひしひしと感じるよ」
「有名だろこれは」
「俺映画見ませんもん」
「俺も見ねえけど、ゴッドファーザーは分かる」
「じゃあこれは?」
「あー……聞いたことはあるな」
「同じく」
「同じく」
「何、名前知らんのかいお前ら」
「何だっけ。とりあえず雨が降ってくんだろ」
「頭にな」
「俺はこの曲が使われた映画の名前を聞いているんだけどな」
「曲なんて曲自体が曲なんだから、曲でいいじゃねえか」
「究極的な意見を言うな、話が止まる」
「あいつなら知ってんじゃね? ゴッドファーザー知ってんだから」
「ゴッドファーザーは誰でも知ってんだろ。であいつって誰だ。キャッスルか」
「そう呼んでみろよ。絶対振り向かねえから」
「おーい、岩城さーん」
「あ、普通に呼びやがったこいつ」
「とことんリスクを排除する奴だな、てめえは」
「当の前だ、馬鹿者ども。ローリスクハイリターンは人生の基本だぜ」
「男らしくないっすね」
「お前一回死ぬか?」
「嫌です」
「俺を呼んだか?」
「呼んだ?」
「呼びましたね」
「呼んだ呼んだ」
「何か用か」
「あのさエボさん、あんたこの曲知らねえ?」
「あー……あれか。明日に向って撃ての」
「ほら見ろ、常識じゃねえか」
「いや誰も常識とか言ってねえし」
「っていうかエボさんってとこツッコまねーんだ」
「ね、君って見かけによらず映画好き?」
「俺は別に好きでも嫌いでもねえよ、洋画は。ダチが好きで、見せてくれるっつーから見るだけだ。つまんなくはねえし。そんなに」
「あれ、見かけによらずでもツッコまねえ」
「突っ込んで欲しいのか、この野郎」
「いえいえ、そこは遠慮していただけて光栄です、はい」
「っつかさあんた、何一人でたそがれつつゴッドファーザーのテーマ口笛吹いたりしてたの」
「誰がたそがれてたって」
「哀愁バリバリ出てたぜ。ヨロシク!」
「たそがれちゃいねえよ。考え事してただけだ。それで口笛吹いてちゃいけねえのか」
「無視された……」
「お前は一生無視されとけ。ってかいけねえの?」
「いけなくはないでしょ」
「っつーかあんたでも考えることあんの」
「お前ら俺にイチャモンつけてえのかコラ」
「すいませんね、この人らバカなんですよ」
「おめーよー、一人だけイイ子ぶってんじゃねーよー、仮性のクセに」
「三股かけられてんの半年も気付かなかったクセに」
「初体験で三秒もたなかったクセに」
「あんたらどっからそんな情報掴んでんですか」
「まあそういうわけでキャッスルさん、中里待ってんの?」
「ああ」
「うわ、やっぱどこもツッコまねえ」
「意外に冷静っすね、岩城さん」
「さっきから余計なことつけやがるな、てめえらは」
「この世に余計なことなど一つもないんだぜお兄さん、はっはっは」
「それで、俺に何の用だ」
「いや、俺あんたのイメージ変わったわ。スルーうますぎ」
「だから何の用だ」
「何だっけ?」
「明日に向かうだか向かわないだか何だかって映画で使われた曲を知ってるかって質問でしょ」
「お前無駄にまとめスキル高いよな」
「じゃあもういいのか」
「冷たいこと言うなよ、お前どうせ俺らの中里待ってんだろ? なら一緒に待とうぜ、中里を愛する者同士」
「いや俺ら別に毅さん待ってねえだろ、そんなに」
「っつーか愛してはいねえだろ、そんなに」
「お前らあいつが好きなのか?」
「は?」
「中里」
「え、好きなの?」
「や、ラブっちゅーかライク?」
「ライクっつーかノーマル?」
「っていうか岩城さん、その質問はあなたのどういう頭から繰り出されたのでしょうか?」
「この頭だ」
「何かこういう切り返しって新鮮だな」
「毅ですら普通にツッコむもんな」
「慎吾なんて虐殺的だぜ、虐殺。あらゆるボケを殺しやがる」
「俺、慎吾の頭カチ割って脳味噌見てみたいと思うことありますよ、よく」
「よくかよ、こえーなおい」
「っていうかお前の場合見てみたいってよりカチ割るところが主目的だろ」
「あいつは毅のこと愛してんじゃねえの?」
「いや、俺らには負けるだろ」
「っつーか俺別に愛してはねえよ毅さんのこと、そんなに」
「だからおめーは究極的な意見を述べるな、話が止まる」
「そういやF1のテーマって誰の曲か知ってる奴いね?」
「何だお前その究極的な角度からの話の振り方は」
「F1のテーマ?」
「ほら、こういうの」
「あー、フジのな」
「何つー曲だよ」
「トゥルースだろ」
「そーなの?」
「へー、岩城さん意外に物知りー」
「あんた意外ってつけんのそんなに好きか」
「いや普通に聞かれっと反応困るんですけど」
「人のこと意外意外言うくらいなら困れってんだ」
「慎吾並の屁理屈だなあ」
「豆知識多いっすね。好きですか、雑学」
「ダチが色々知ってんだよ。そいつと話してると、勝手に頭に入ってくる。入った分、何か出てくけどな」
「へー、変なダチ持ってんだ」
「変とは何だ変とは」
「うわ、そこはツッコむの。分かんねー」
「で、そのトゥルース? って誰の曲?」
「……あー……思い出せねえな。聞いた気はするんだけどよ」
「出てったんじゃねえの?」
「かもな。悪いな」
「いや、いいよ。ロッキーで大丈夫だから」
「そうか」
「何が大丈夫かは聞かねえんだ……」
「でもまあ何となく分かる気がする、俺も」
「毅さんおせーな」
「そういやお前約束してんのか」
「いや。時間余ったから来ただけだ」
「あんたそんなに中里のこと好き?」
「俺は別に好きでも嫌いでもねえ」
「慎吾もそんなこと言ってたな」
「昔は嫌いだ嫌いだ言ってたのになあ、あいつも」
「ほら、あいつはキモイから」
「あ、俺、この前毅さんと話してる時こっそりニヤッとしてる慎吾見たぜ」
「うわーキモ」
「末期だな」
「その慎吾ってのは誰なんだ」
「あれ、あんた知らねえっけ?」
「ああ」
「ホンダ乗ってる奴だよ。シビック。赤いEG−6。柄悪い」
「……そんな奴、いたか?」
「いたっけ?」
「いたかな」
「いやいたでしょ。いるでしょむしろ。慎吾なんて忘れたら何されるか分かりませんよ、マジで」
「そんなに悪い奴か」
「悪いっつーか、まあ悪いよな」
「そしてキモイよな」
「こんなこと話してるなんて知られたら崖から突き落とされますよ、証拠残されないで」
「ああ、あいつか。人のこと変な目で見てきやがる」
「知ってんじゃん」
「ていうかそこで思い出されるってどんな存在だよ慎吾」
「あいつのせいで俺らが毅さんに愛を伝えられねーんじゃん?」
「お前も大概キモイぜ、タクちゃん」
「あいつは俺を嫌ってんのか?」
「慎吾?」
「話しかけてこねえ割に、よく見てくる」
「まあうちで、っつーかここで毅とタメはってんの、あいつしかいねえからさ。あんた来ると、その立場が微妙になってくるってのがあるんじゃねえかな。ああ見えて繊細だし」
「繊細か」
「あー、ダウンヒルしかねえしな、あいつの場合」
「まあそれでも俺らよか速いですもんね」
「俺らって括るんじゃねえよお前は。その通りだけど」
「俺がお前らのチームに入ったら、恨まれそうだな、俺は」
「恨むまではいかねえんじゃねえか」
「いやいくでしょ。慎吾っすよ。潰されますよ」
「え、ってかあんた入んの?」
「入るわけねえだろ。何で俺が入るんだ」
「中里いるから?」
「俺はチームは移らねえよ、一生」
「エンペラーだっけ? そんなに好き?」
「まあな」
「何だこの真面目な空気」
「ま、庄司クン的にはその方が安心っつー感じ?」
「勝手に決めると刺されますよ、ケツにバール」
「ありえそうだからこえーんだよなあ、あいつ」
「あんたもさエボさん、中里愛してるからチーム移る気ねえのにここまで来るのは分かるけど、慎吾には気をつけな。あいつはなりふり構わないからさ」
「ああ」
「やっぱツッコまねえんだ、どこも」
「車に戻っていいか、俺」
「あ、いーすよ、どうぞどうぞ」
「じゃあな」
「おー、行った」
「行ったな」
「っていうかあいつも毅さん愛してんの?」
「あいつってどいつ」
「キャッスルさん」
「いやー、あれはないだろ。キモさがねえ」
「飛び抜けてんのは慎吾だよな」
「マジでなんか何でもアリな気がするからなあ、あいつの場合。こえーよ」
「お、俺、何か悪寒がし始めた」
「気のせいだろ」
「あー、キャッスルさん、うち来てくんねーかな」
「え、お前何だそれ」
「そしたらよ、慎吾の恨み一人で全部買ってくれそうじゃねーか」
「おお!」
「いくら何でもそりゃ、アリだな」
「ついに、ついに我々に待望した平和が訪れる時が!」
「でもあの人俺らのステッカー切りましたよね」
「それを言っちゃあおしめえよ、おめー」
「おしめえっすか」
「おしまいだな」
「おしまいだ」
おしまい。
2007/12/24
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