ループ



「温泉です毅さん!」
「温泉がどうした」
「行きましょう! 温泉! 別府とか!」
「……何で別府だ?」
「何となくです!」
「なら草津にしようぜ、一度はおいでって言われてっし」
「近場になるほど行きたくなくなるのが人間じゃね?」
「いややっぱ遠くの彼女より近くのセフレだよ」
「何の話だ」
「恋?」
「温泉というものにどこまでのこだわりを持つかという話だな。泉質の違いを味わうのか温泉街の雰囲気を味わうのか旅館としてのサービスを味わうのか。俺的には近場は全部制覇してるので遠方がいいです」
「お前の好みとか聞いてねえし」
「日本人は温泉っすよねえ、毅さん」
「……ああ、まあな……温泉かあ……全然行ってねえなあ……」
「どうせ行くなら彼女としっぽりしたいっすよねー」
「彼女いない奴ほどそういう夢物語を見るんですよねー」
「この野郎」
「お前はどうよ慎吾」
「俺温泉とか興味ねえし」
「日本人じゃねえなお前」
「えー、何で? 温泉いいじゃん、最高じゃん」
「合わねえんだよ俺は。五分も入っていられねえ。そんな元が取れねえことを誰がやるか」
「はー、もったいねえ奴だなお前」
「うんうん」
「俺の存在自体がもったいねえような言い方してくれてありがとよ」
「なら慎吾は温泉旅行不参加ってことで」
「いつの間に旅行になってやがる」
「お、いいねえ温泉旅行、やっぱそうなると遠出してえよなー、旅情的に」
「そんでたまたま知り合った女の子グループとしっぽり混浴だよ!」
「まあ知り合わないでしょうね」
「この野郎!」
「どーどー」
「飲み会なら融通利くが、旅行となると厳しいかもな。みんな休みが合わねえだろ」
「まあそうっすねえ。遠出の泊まりはきついでしょうね」
「じゃあ海行きましょう、海! 日帰りで! 日本海とか!」
「アバウトすぎじゃね?」
「俺瀬戸内海がいいなー」
「俺は玄界灘がいいなー」
「それ日帰りは無理だろ」
「夜行って朝帰れる場所ならどこでもいいんじゃねえの」
「夜の海を野郎揃って見に行くとか、どんな罰ゲームだよ」
「昼の海で水着ギャルウォッチして捕まるよりはいいだろ!」
「……捕まる奴が出ると困るな……」
「いやそんなリアルな心配しないでください毅さん」
「リアルな心配するくらいが丁度いいだろ、こいつは」
「まあ海とか行ってる暇あったら走れってことですかね」
「何お前勝手にまとめてんだよ、縛るぞコラ」
「あ、俺亀甲縛りやってみたいっす」
「俺は毅さんを縛ってみたいです!」
「こいつボンネットに縛りつけようか?」
「それでダウンヒルやったら楽しいだろうなー」
「額に小型カメラつけてやろうぜ」
「はい! すんませんでした!」
「分かればよろしい」
「まあ海も悪かねえが、俺は結局山に来ちまうだろうな」
「っすねー」
「山男だからなあ」
「意味違わね?」
「見事なまとめでした」
「じゃあ温泉行きましょう! 別府とか!」
「ループじゃねえか」
(終)


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