モットー



「あれ、ノリって死んだんじゃねえの?」
「いや普通に生きてますけど何かご不満でも?」
「いや普通にどーでもいい」
「ですよねー」
「いやいやいや、何でキミら雁首揃えて人のこと死人扱いしてくれてんの?」
「そりゃ毎週来てた野郎が半年も姿見せねえんだから、蒸発したか死んだか思うべよ」
「まあ俺はぶっちゃけお前の存在自体忘れてたけどな」
「俺もー」
「いやそれでもお前らチームメイトかよ、人が山来なくなったってのに連絡全然寄越さねえし」
「だってナイトキッズのモットーってアレっしょ、来る者拒まず去る者追わず」
「自発性のない人間は崖から落ちて死んじまえ」
「女が欲しけりゃ街に出ろ」
「ゴミのポイ捨て及び青姦禁止」
「それモットーか?」
「だろ?」
「っつーかさ、何で毅さんが負けたとかいう重大情報すら回してこねえの? おかげでさっき俺思っきし毅さんの地雷踏んじまって折角お久しぶりに会えたのに変な空気で別れちまったじゃねえか!」
「自業自得だろーそれは」
「逆に何で毅さんが負けたことペラペラ言い触らさなきゃなんねえんだよ、慎吾じゃあるまいし」
「っていうか慎吾派連中あんだけペラペラ言ってたのにお前が聞いてなかったってのが謎なんだけど」
「いや俺あいつらと基本関わり持ってねえし。シャットアウトしてるし」
「まあ自業自得だな」
「だな」
「だからさあ、言い触らすとかじゃなくてさあ、何ていうかこう……」
「ま、仲間外れにされたからってそういじけるなよ。元々お前はうちの仲間じゃなかったんだよ」
「いやそれフォローする気が全然微塵も伝わってこないんですけど」
「半年もチームほっぽくような怠慢野郎なんてフォローの仕様がないでしょう」
「うわ、コーちゃん超レーテツ。どったの」
「そりゃ毅の地雷を踏むような野郎はコーちゃんの敵だろうがよ。良かったなノリ、お前は一生コーちゃんの宿敵として記憶に残るぞ」
「いやいやいや、っていうかキミ俺と初対面だよね? それで何でそんな怠慢野郎だなんて、殺生じゃございません?」
「田浦ー、腰引けてるぞー」
「日本語おかしいぞー」
「相手の状況を自分から聞こうとしなかったことは、怠慢以外の何物でもないと思いますが」
「うわー」
「グサッとくるねー」
「……あのね。俺だってあれよ、初心運転者の頃からチームにいるわけよ。でも働かざる者食うべからずなわけですよ。社会人ってのはそんなしょっちゅう山に入り浸れるような自由な身分じゃねえのですよ!」
「俺は就職してからの方が山に入り浸ってるけどね、深夜フリーだし」
「まあ俺はぶっちゃけノリの体力的にルーキーイヤーで死に体になってるだろうという完璧な予想を立ててたけどな、見なくなって一ヶ月くらいまでは」
「まあ一ヶ月が限度だよな、覚えてるのは」
「いやどんだけ記憶力衰えてんだよ」
「いやお前のために使うような記憶力がなかっただけだし」
「何お前喧嘩売ってんの? ただでさえ毅さんとの間に変な空気生み出しちゃってズタボロな俺の心をこれ以上打ちのめそうっての?」
「えー、喧嘩売ってきたのはそっちだと思うんだけどなあ」
「なー」
「しゃーねえべ、今のこいつの心はボロ雑巾並の劣化状態なんだよ。最後にゴミを包んで捨ててやるのが優しさってもんだ」
「いやいやいや」
「毅さんは気にされてましたけどね」
「ん?」
「最近見ないメンバーについて話してた時に、おたくのこと。というか毅さんなら気にするでしょ。何年もチームにいる奴が何でそんなことも分からないのか、俺にはそれが疑問です」
「おお、コーちゃんフォローできるんじゃん。良い人じゃん」
「ノリをフォローしてんのか毅をフォローしてんのかは微妙なところだけどな」
「っていうか明らかに毅さん一択じゃね?」
「……でも俺、地雷踏んじゃってるんですけど?」
「ついでに言うと、毅さんをそうやって見くびる野郎には俺は疑問以前に殺意を覚えますね」
「わー」
「ひー」
「ふー」
「……ついでの方が厳しいじゃねえか……っていうかいつの間にこんな毅さんマニアが現れてたんだよ……知らねえよ……」
「いつだっけ?」
「ゴールデンウィークじゃねえっけ?」
「やっべ俺その頃の記憶全然ねえわ」
「お前休みなかったもんなあ」
「ほら田浦君、君も社会人になったんなら、そんな女々しくしょげてないでもっと積極的なコミュニケーションを図っていきたまえよ。具体的に言うと、誠心誠意の土下座とか」
「いや土下座とか馬鹿にしてるって思われるでしょ、毅さんに。そんな風に思われたら俺もう生きていけない。生きてけない」
「そんな風に言われたらじゃあ死ねよって言いたくなるから言うなよなー」
「言ってっけどなー」
「クソ、死なねえよ。生きるよ。生きて毅さんと俺の空気をもっと何ていうかこう……………………行ってくる」
「行ってらっしゃーい」
「健闘祈ってるぜー」
「目標言えてねえあたり、悪化する可能性をひしひしと感じるけどな」
「賭けるか?」
「命?」
「そこはこの後のパフェくらいにしとこうや」
「んじゃ俺はフラれる方に賭ける」
「じゃ俺は遠回しにお断りを入れられる方に」
「何の話?」
「コーちゃんどうよ」
「毅さんはあのくらいの馬鹿なら受け入れるでしょうね。その他大勢と一緒に」
「ひー」
「通の意見だなあ」
「俺もそんくらいの眼力持ってみてえよ」
「毅分は要らねえけどな」
「だな」
「えー」
「えー?」
(終)


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