センター前に弾き飛ばせ



「秋って何か寂しいよなー」
「えー、花粉ねえしエアコン要らねえしファッション決めれるし、フツーに過ごしやすくね?」
「お前の顔でファッションとか言うなよ、汚らわしい」
「何その愛のないツッコミ」
「はい閑話休題、わたくし小耳に挟んだんですがね」
「何ぞいヤッちゃん」
「昨日碓氷の嬢ちゃんら来てたんだろ、あのバカッ速いっていう」
「それはまさか、来る走り屋来る走り屋をバッタバッタと薙ぎ倒し後には死体の山しか残さないというあの!」
「しか?」
「っつーかあのギャル二人組っしょ?」
「お前らどっからそういう情報仕入れてっかなあ」
「そりゃ走り屋時代に培ったコネとかコネとかコネとかコネだよ」
「類友ってやつだな」
「で、何でそんなご本尊が拝めるシチュエーションで、この俺が呼ばれてないわけよ」
「あ、俺も呼ばれてませーん」
「俺も呼ばれてねえぞ。いたけど」
「いやさあ、君ら呼んだらどー考えてもあの子ら傷物になっちゃうでしょ」
「誰が真子ちゃんの処女を奪うって?」
「え、真子ちゃんって処女?」
「ありゃどう見ても処女だろ、膜張りまくりだろ。沙雪ちゃんは普通に両手いってんだろうけどな」
「でもあれで処女だったらたまんねえな、五万は出せる」
「五万出してアナル調教までやるってか」
「まあそりゃ五万の範囲内だし」
「いやー、せいぜい鞭か淫語か剃毛プレイじゃねえの、五万ったら」
「そういう会話を彼女たちに聞かせたくないから呼ばなかったって俺の繊細な心遣い、分かってくれますかねえ」
「アホか、俺だって本人前にしてこんな品性下劣な会話するほどセクハラじゃねえよ。轢かれたくねえし」
「まあ普通に轢いてくれそうだよな。笑顔で」
「轢くなら沙雪ちゃんかなー、ゴリッと」
「真子ちゃんは轢くっつーか跳ねそうだよな、ドーンと」
「っつーか何で来たの、彼女らは」
「車で」
「殴るぞ」
「殴ってから言うんじゃねえよ、クソいって」
「ほら、慎吾と毅がやり合ってんじゃん、タイムアタック。あれの何つーか、ギャラリー?」
「あー、あいつらな。飽きねえよな」
「飽きねえのは慎吾だろ。毅はぶっちゃけどーでもいいんじゃねえの?」
「いやあの性格でどーでもいいってこたねえべ、慎吾のことはどーでもいいだろうけど」
「なあ、お前らのその毅内慎吾低評価論はどっからくんの?」
「魂?」
「うっわすっげ格式高い感じがするー」
「超棒読みじゃねえか」
「まあ毅も庄司のことは気にしてんだろうけど、庄司の比じゃあねえやな」
「慎吾なー、あいつも毅に構いすぎなんだよ。引くとこ引いとかねえと、都合の良い男で終わっちまうぞ」
「まあそれも本望なんじゃね?」
「お、噂をすれば」
「おー、慎吾」
「何ぼさっと突っ立ってんだよお前、こっちゃ来いこっちゃ、お兄さんたちが優しく愛の手ほどきしてあげるから」
「…………」
「無言という愛の存在しないツッコミがここに今誕生したな」
「スルーされないだけマシだろ、っつーか慎吾、この変態はスルーしていいからな」
「って言われてもって感じだろーけどな」
「……あー、どうも」
「おお来たよ」
「しっかしお前ってさー、相ッ変わらず後ろから人刺しそうな気配してるよなー」
「……刺されてえなら刺してやるけど」
「うわあ、お巡りさん、ここに脅迫者が! 早く捕まえて! 留置場に入れて!」
「走り屋やってた奴がポリの助け呼んじゃあいけねえよなあ」
「いや、そこは越後屋と悪代官的に談合しとくべきじゃねえの」
「やっぱさー、長いものには巻かれとくのがグローバリズムっつーの?」
「で、慎吾、お前俺らに何か用か?」
「……用っつーか、ちょっと、聞きたいことが」
「あ、お前が仮性包茎だってみんなに言ったのは俺じゃねえぞ。でも日本の男の六割は仮性人だから安心しろ」
「刺すぞ」
「お巡りさーん!」
「それ呼んでもさ、むしろ痛風の流布でお前が捕まるんじゃねえの」
「それ風説な、良弘」
「え」
「痛風ってどうやって流布するんだ……?」
「油と卵を流行らせれば……!」
「オムレツ?」
「マヨネーズ?」
「だから」
「あ?」
「質問が、あるんだよ……中里のことで」
「あー、そうか、それな」
「そうかそうか、毅ならズル剥けだ、間違いない。証拠がある」
「え、ちょい待てヤッちゃん、まさかあれまだ持ってんの?」
「俺は物持ちが良いことで評判なんだよ、コウくん」
「へえ、ありゃ全部消えたもんだと思ってたけどな」
「っつーかそれ家宅捜索受けたらお縄なっちゃうんじゃね?」
「そん時ゃお前に濡れ衣着せてやるからダイジョーブ」
「いやいやいや」
「中里が」
「あ?」
「……中里が負けた、32乗り。知らねえか」
「はあ?」
「何それ」
「あー、あれだろ。あいつが32乗り換えた時、っつーか前の」
「うえ、何でんなことお前が聞くの」
「何でもいいだろ、知ってんのか知らねえのか」
「それが人にモノを尋ねる態度かねー」
「ねー」
「ねー」
「…………知りませんか」
「おお素直、かわいー」
「で、何が?」
「…………」
「やめとけお前ら、これ以上こいつ刺激したら、グシャッと轢き落とされるぞ」
「その効果音えぐいわー」
「あー、っていうかさー、32に負けた毅っつーと、俺の記憶じゃ寿司屋の顔しか出てこねえんだけどこれってどういうこと?」
「どういうことって、俺も割とそうだから何とも」
「負けた話、寿司屋がしたからだろ。あん時ゃびっくりしちまったな、毅の奴ならあと半年くらいは妙義じゃ負けねえと思ってたし」
「何で半年?」
「走り屋の第六感ってやつよ」
「全然アテにならんかったな」
「おう、ってコラ」
「そうそう、あれ言ってきた寿司屋の慌てっぷり、笑えたよなあ。そんな笑える話じゃなかったけど」
「そっか、だから俺、あんま話聞けてなかったんだ。笑うの我慢すんのに必死でさ」
「ま、寿司屋の奴は毅贔屓だったからな」
「超贔屓ってたよなー」
「何かもう毅超絶至上主義? 毅がいたら世界はオーライ?」
「それあながち歪めすぎとか言えねえ感じが寿司屋だよなー」
「……その、寿司屋ってのは?」
「寿司屋は寿司屋だろ」
「寿司屋だな」
「寿司屋だ」
「……あのな。その寿司屋の名前は何かって聞いてんだよ」
「寿司屋は寿司屋だっつってんじゃねえか!」
「どーどー」
「ホントのところは寿司屋の息子だけどな」
「でも今は寿司屋だろ、店継ぐのに抜けたんだし」
「いやまだ見習いじゃねえの? そう簡単に寿司職人にはなれねえよ、多分。うなぎ職人だって一生かかるんだぜ」
「職人なるにゃあ何だって一生モンだろ。生涯勉強なわけよ」
「ガッコ出てまで勉強したくねえけどな」
「あんたら、こんだけ雁首揃えてそいつ一人の名前も覚えてねえのかよ」
「だからあいつは入った時から寿司屋だったんだよ、何も知らねえ奴が粋がるなプリン頭」
「覚えてねえなら知ってねえのと同じだハゲ」
「誰の頭が日差しを反射するってんだ!」
「寿司屋の本名かー、ここまで出てるんだけどな」
「この辺?」
「いやもっと下」
「それ全然出てねえじゃん」
「あれさ、エジプトっぽい名前じゃなかったっけ?」
「あー、そうだ、何かエジプトっぽかった」
「……外人か?」
「いや日本人」
「何かこう……エジプトが……」
「エジプト……」
「…………」
「……あ! 吉村作治!」
「そうそうそれそれ!」
「正しくは吉竹弘二だけどな」
「ほらぴったり!」
「どこがだ」
「お前さあ、もっとツッコミには愛込めろよ。そんなんだから冷酷無慈悲とか極悪非道とか人間のクズとかチンカス未満とか、あることばっか言われちゃうんだぜ?」
「そこまで言ってんのって佐藤だけじゃね?」
「あいつは庄司への恨みが尋常じゃねえからな」
「っつーかお前佐藤に何やったの? ケツでも奪ったの?」
「知るか、俺は何もしてねえよ。それよりその、吉竹って奴の寿司屋、は、どこにあるんだ」
「自分で探せ。電話帳で」
「……」
「おいおい待て待て、正論言った俺が何でこんな冷たい目で見られなくちゃなんねえのよ」
「気持ちは分からないでもないよなー」
「正論ほど愛のないもんもないよなー」
「いやお前電話帳で一軒しかねえんだぞ、こんなの場所のヒント過ぎるだろ、ゲームだったら成り立ってねえし」
「え、一軒しかねえの?」
「っていうか電話帳載ってんの?」
「それは自分の目で確かめたまえ。俺は確かめてるから」
「ってことらしいけど、これで満足か?」
「…………どうも」
「え、もう帰っちゃうのかよ、もっとお兄さんたちと話してこうよ、愛についてとか。ほらほら」
「聞いてねえべありゃ」
「背中が断固拒否してるしな」
「用が済んだらポイ捨てなんて、男の風上にも置けねえ野郎だなあ」
「ポイ捨てした相手に刺されかかった君が言うことじゃないと思うよ」
「刺されかかったんじゃねえよ、切られかかったんだよ。ノコギリで」
「そのままDIYされちゃえば良かったのにねー」
「ねー」
「誰がツーバイ材だって?」
「っつーかみんな寿司屋行っとったんだな。何か俺だけハブられてる?」
「いや俺は行ってねえよ、金ねえし」
「俺この前行ったんだよ、うちのかみさんとさ」
「ブルジョワー」
「コロンボのくせに!」
「へえ、弘二どうなってた」
「いやあいつ、マッキンパがフツーにウニになっててさ、見てびっくりよ」
「だろ、ありゃ見た奴にしか分からねえ驚きだよ」
「マジで、金髪やめたわけ?」
「まあ渡世人やるには厳しいご時勢だし、真面目に寿司屋で頑張ろうってことなんじゃねえの」
「親父さんも一安心だな。あいつの歪み方ってちょっとアレだったし」
「一見歪んでなさそうなのがまたアレだったよな」
「いやでも実は全然歪んでなかったって可能性は?」
「いやそれは何とも」
「でもあの親父さんもさー、あれで俺らにもサービスしてくれりゃあいいんだけどさー、なーんかあそこんチって毅贔屓なんだよなー」
「まあ毅はああいう親父にウケがいいから。何でか知らんけど」
「顔?」
「最初にそこいくのは何か違うと思う」
「それ慎吾に言ってやりゃあ良かったじゃん、絶対もっとピリピリしてたぜ」
「分かってねえな、コウくん。情報ってのは小出しにするからいいんだよ」
「それも割と鬼畜の所業だよな、慎吾のツラ的に」
「あのツラは切なさ漂ってたよなー、秋っぽく」
「大方碓氷の子たちの差し金だろうけど、結局あいつも毅の奴のこと、真面目に構いすぎなんだよ。結婚してから後悔しても遅いってのに」
「実感こもってますな、木下さん」
「っつーかあれさ、佐藤って何であんなに慎吾憎んでんの? マジでケツ奪われちゃったの?」
「いや、あれも毅贔屓だからな。ベクトル違うと目につくんだって、嫌なとこが」
「寿司屋はその辺うまくやってたけどなー」
「ところで皆の衆、わたくし一つ疑問を抱いたのですがね」
「何だねヤッちゃん」
「うちの後輩どもには毅贔屓しかいないのか、っていう」
「え、今更?」
「半笑いで言うんじゃねえよ、殴るぞ」
「だーから殴ってから言うんじゃねえって、あーいて」
「庄司贔屓もいるだろ、どっかに。表に出てこないだけで」
「まあリーダーっぽい奴支持してる方が正統派っぽいし、正義っぽいし?」
「でもどの道俺らもうよく知んねえじゃん、チーム事情」
「あー、俺もあと二年くらい引退しないで慎吾からかい倒してやれば良かったかなー」
「そしたら一週間でグシャッとされとったろうなー」
「だからその効果音えぐいって」
(終)


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