昔の話
「よお、どうした若人。慎吾が変態かどうかってことなら、そりゃ変態だぜ」
「いや、それは見りゃ分かるんでいいんすけど」
「うっわー、お前その発言慎吾に八つ裂きされっぞー」
「え、でもあいつ普通に変態でしょ。俺隣乗った時、運転中あいつ、すんげえ変態な顔してましたよ」
「あー……俺もあいつの隣乗ったことあっけど、確かにあいつ走ってる時、すんげえ変態な顔してるよな」
「まーガムテープデスマッチとかシラフでやってられるってあたり、もう変態だよな」
「うんうん」
「だからそりゃいいんすけど。田代さん、佐野山さんが呼んでますよ」
「あー? 何だよあのハゲ」
「車のバランス悪いから見てくれって。見ねえと田代さんのヴィッツにベンツのエンブレムつけるっつってました」
「アホかあいつは。ったくよ、めんどくせー」
「でも行くんだな」
「ま、ヴィッツにベンツのエンブレムはきついだろ」
「しかし君もよくパシられんなあ。えーと、誰だっけ」
「柴山です。これで五回目なんですけど、それ言われんの」
「あーそうか。悪いね」
「気にすんなよ、こいつバカだから。三歩進みゃあ今さっきのことも忘れちまうんだよな」
「誰がバカだ誰が。お前の方こそ七の段言えねえじゃねえか」
「お前、今のハイテク時代は七の段言えねえでも生きてけんだよこの野郎」
「っつーかお前、パシらされた?」
「そうっすね。よくパシらされます。何なんですかね」
「わけーからだろ。若い奴はパシられる運命にあるんだよ。毅だって昔はパシらされてたし」
「毅さんですか? マジで?」
「あー、下のコンビニにプリンとエロ本とコンドーム合わせて買いに行かされてたことあったよな」
「何だその微妙な組み合わせ」
「でも、ありゃパシらされてたってか、可愛がられてた方じゃねえの? 何だかんだで面倒見られてたっつーか」
「まあ真面目一本槍だったもんなあ、あの頃から。危なっかしいところあったし」
「危なっかしいところ?」
「うん。真面目なのが取り柄だけど、諸刃の剣だとかも言われてたっけな。いきすぎるところがあるって。だから放っとけねえとか?」
「そんな感じだったな。まあそれでも今、あいつがチームじゃ一番なんだから、妥当だったのかね」
「そういや毅さんって、いつからここのリーダーなんすか?」
「いつだっけ?」
「三年前だろ。河乃さんの親父さんが死んだ時だから」
「あーそうか。そういや河乃さんって今何やってんだ?」
「この前あの人のところ行ってみたけど、鶏と格闘してたぜ。まあ平和にやってたな」
「誰ですか、その河乃さんって」
「前のリーダーだろ。中里の」
「そうそう。そういやあの人もクジで決まったっつってたな、リーダーに。割り箸だっけ?」
「そ、割り箸。見え張りすぎて余ったコンビニの割り箸な」
「え、ちょっと待ってください。あの人もって何すか。ここのリーダーってクジで決まるんですか?」
「河乃さんそう言ってたよな、確か。昔っから公平にクジだって」
「うん。毅もそうだよな。クジクジ。クジっつっても月九やる方じゃねえぞ、割り箸の端に適当な奴の名前書いてよ、その中から抜いた一本で決めるっつーの」
「そりゃ俺も初耳だな」
「まあ三年前の話だしな」
「そうだ、あん時ゃメンバー全部リーダーの可能性あったよなあ。河乃さんがどうせなんだから機会は平等にっつって」
「っつーかあの人自分が抜けるからって面白がってたろ。マジお前がリーダーなったらどうしようかと思ってたぜ、俺は」
「そしたらナイトキッズも一瞬で終わってたんでしょうね」
「だろうな」
「オイお前ら一瞬はねえだろ一瞬は、一ヶ月はもつぜ、俺なら」
「そのリアリティある感じもムナシイな、オイ」
「でも、それで毅サンが選ばれるって運良かったですね。今もチームもってますし。三年前から?」
「三年前から。いや、考えると当時はあいつも完全若かったよな、毅」
「あれよ、選ばれた時のあいつの驚き様、ウケたろ。無理無理言いまくっててよ」
「そうだそうだ、みんな笑ってたな。本人泡食ってんのが何かおかしい感じで、俺もツボはまっちまったわ」
「あれだからマジ無理じゃねえかと思ったけど、ま、人間ってのは分かんねえよ、ホント」
「もう俺らとちょっと違う次元いっちまってるしな」
「まあ、だから若人よ。お前も今はパシリの身でも、将来リーダーに選ばれるかもしれねえぞ。運があったら」
「いやー、俺に運あるなら、ならないと思いますね、むしろ」
「何だそりゃ」
「毅さんでも最初無理無理言ってたこと、俺には北海道と沖縄が入れ替わっても不可能ですよ。まず」
「お前現実見すぎじゃねえの?」
「俺らが現実見なさすぎなんじゃね?」
「それを言うなそれを。ってかえーと、誰だっけ」
「柴山です。六回目なんすけどねこれ」
「悪いね。君はあれかね、何かやることなかったのかね?」
「いや、今日は特には……あ、ちげえ、バイトだ。じゃ、失礼します」
「おう。達者でなー」
「わけーなオイ、どうするよ俺ら」
「どうもしねえだろ、別に」
「あー、そういや俺、思い出したんだけど」
「あ?」
「クジ引く時。毅選ばれた時な。割り箸、策原さん持ってたろ。手に」
「ああ。本数多すぎて片手じゃきつそうだったな」
「あれさ、河乃さんと打ち合わせてたってことねえのかな」
「……あー……」
「何、それって、中里がわざと選ばれたって?」
「まあ、一番有望だったの毅だし、真面目だったのも毅だし……けどどうだろうな、そりゃ。直接二人に聞いてみねえと、何とも」
「っつーかよ、そこまでいったら俺ら以外全員分かってたってことは?」
「……うわ、それ、すげえ何か、俺らバカじゃね?」
「バカだな」
「お前この、当事者じゃねえからってストレートに言いやがって」
「いや待て。仮にだ、そういう計画があって、他に分かってた奴がいたとしても、俺らと同じだった奴もいたはずだぜ」
「その自信はどっからくんだよ」
「だってあの頃、六の段以降言えねえ奴、一人いたもん」
「……そりゃまた、何つーか、こう…………何だこのチーム」
「妙義ナイトキッズだ。またの名を中里毅と愉快な仲間たち」
「あと変態とな」
「立派なチームだな」
「その通り」
(終)
2008/02/16
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