嵐は呼ばない



「何やってんの君ら」
「コース空くの待ってんだよ。俺ら下っ端だし? 遠慮を求められる立場だしィ?」
「ざーとらしく言うんじゃねっての。どうせ喋ってる間に他の奴らがさっさと走りに出ちまってんだろ」
「そんなことはない。意外な話題が発生して驚きおののいている時に限ってコースが空くというだけの話だ」
「バカだろてめえら」
「殺すぞてめえ」
「まあ今日はキャッスルさん来てるしなあ」
「あ? 外人来てんの? どこどこ」
「いやエボ4だろ。栃木の。日光東照宮の」
「見ざる言わざる聞かざるか。サル! サルー!」
「お前は信長か」
「ってかいろは坂な」
「あーそうか、岩城来てんのか。何、あいつは暇人なワケ?」
「暇人じゃねーでしょ。あの人来るのって月に三回くらいだし」
「お前よく知ってるよなあ。ロックキャッスルファンクラブ作っちまえば?」
「嫌です」
「即答かよ」
「かわいそーにエボさん」
「作られる方がかわいそーでしょ、それ」
「しっかし月三で来て毅と走って、何が楽しいのかね、あれは」
「何か楽しいんだろ。コースとかよ」
「あいつってホモ?」
「違うだろ。毅のこと好きじゃねえとか言ってたし」
「あれは普通に好きでも嫌いでもねえって感じだったな」
「そういやよ、慎吾はどうなんだ」
「あ? 何?」
「慎吾が何だ。どうかしたのか」
「あいつはいつでもどうかしてるだろ」
「ならいいよな」
「いや、つまりだね君たち、あいつの百パーセント片想いがどうなってるかということだよ」
「え、あいつ好きな子いんの。誰誰」
「お前は修学旅行中の中学生か」
「毅だろ。あいつの好きな奴ったら」
「げ、あいつがホモかよ」
「お前はホモという概念をとりあえず捨てろ。抹消しろ。じゃねえと話が進まねえ」
「百パーセント片想い、か」
「お前もフリつきで言うなよそれ」
「まあホモじゃねえと思うけどさ。だってあいつ俺がジョーダンで抱きついたら、マジでEG−6の前に転がしてくれたもん」
「完全な轢殺態勢っすね」
「ホモじゃねえけど毅が好きで片思いか? 分っかんねー」
「っつーかあいつって毅さん好きなのかよ。何かいっつもバカバカ言ってっけど」
「そりゃお前、イヤよイヤよも好きのうち、っつってなあ」
「しかしこれほどキモい話題もねえな。慎吾が毅好きって」
「ぞくぞくするな、嫌な意味で」
「そういや慎吾がどうしたんだ?」
「いや、エボ4来てっから微妙なんじゃねえかと」
「あー?」
「何だそりゃ」
「あ、そうか。ズゴッグかザク2かってことっすよね」
「は?」
「まあそんなもんか」
「何の話だよ」
「ほら、水陸両用と陸戦型っすよ」
「でもGT−Rとランエボがズゴッグってのもなあ」
「シビックがザク2なんだからバランス取れるじゃねーすか」
「シビックをザクにすんのも何だろ。それにやっぱズゴッグよりはグフだグフ、ランバ・ラルもノリスも乗ってんだぜ」
「それ言ったらザクもズゴッグもシャア専用機ありますよ」
「何の話?」
「まあオタクどもは放っとくにしても、毅もエボ4も上り下りどっちもいけるというところが共通するわけだが、慎吾は下りだけだから混じれない、そこがロンリーチャップリンなんだよ」
「へー」
「そういや前もそんなこと言ってたっけ?」
「混じれねえって、別に混じりたくもねーんじゃねーの、あいつ天邪鬼だし」
「いやーお前案外微妙だぞ。よく見とけ、見所は毅とエボ4が一緒に楽しそーに喋ってる時、一人でいる慎吾だ。すっげ何か微妙な空気出してるから」
「何だその微妙な空気って」
「微妙な空気は微妙な空気だよ」
「けど上り下りできるっつったらお前もそうだろ、一応」
「あ? バッカおめー、俺の大事なセリカちゃんをRとなんて競争させられっかよ、おっかねー」
「こういう奴らばっかだと、そりゃ毅さんも同じレベルの奴と仲良くしたくもなるってもんだな」
「何? 俺らが不甲斐ないせいだっつーの?」
「まあ俺らが不甲斐ないのが事実だとしても、それが何だって話だろ」
「いや勝手に事実にしてんじゃねえよそこ」
「こんなことばっかくっちゃべってっから、毅さんもあのエボ4に心を開くんじゃねっすかね」
「あー、つまりあれかい、心構えの問題かい」
「けどエボ4もあれ、月三でもわざわざ栃木からこっちまで来てただ毅と走るって、よくやるよな。俺だったら月一でもいろは坂行きたくねえよ。酔うし」
「あ、俺修学旅行で行ったけどよ、マジ酔った。っつーか吐瀉の嵐だったぜ、バスの中。連鎖連鎖」
「こえーないろは坂」
「だからあいつこっち来んじゃねえの?」
「いやあれは地元なんだから慣れてんだろ、いくら何でも」
「じゃあやっぱちょっとはこっちが好きなのか」
「ホモか!」
「お前は何でそうどいつもこいつもホモにしてえんだよ」
「いやほら、毅さん女にモテねえ分、野郎にモテさせてあげたら少しは楽しいかなと」
「それどう考えても楽しくないと思うぜ」
「いっつもチンポ狙われてるかケツ狙われてるかってことっすもんね」
「あいつらが陰部と臀部狙い合ってるって、楽しくねえ想像だよなあ」
「まず吐くな」
「それこそ吐瀉の嵐だな」
「っていうかコース空いてんべ。行くぞ」
「え、俺っすか?」
「聞く前に引っ張られてるもんな」
「えー、話の結論何なんすかー」
「結論か。何なんだ?」
「うーん。まあ、余計な想像はしないに越したことはないと」
「内容がアレだった割に無難な結論だな」
「内容がアレだったからじゃねーの」
「吐瀉の嵐は誰でも嫌だもんな」
「その連鎖だけはしたくねえわ、ホント」
(終)

2008/02/22
トップへ