「えーと、じゃあ決とってきまーす」
「うぃーっす」
「まずは、あー、カリスマ性。これはどっちだ」
「あー……微妙なとこだな」
「え? 毅さん鉄板じゃね? 俺らのカリスマだろ?」
「けどカリスマっつーのは高橋涼介みてえなありえなさを言うんじゃねえか。そう考えると毅さんは庶民感強すぎだぜ。近所のお兄さん感というか」
「あの人もある意味ありえねーって感じあんだろ。生きててくれてありがとうっつーか、人惹きつけるもんは一応持ってんじゃねえかな」
「そりゃ庄司もそうじゃねえか。限定的に」
「あー、限定的にな」
「どんな限定だよ」
「危ない方面だろ。頭使って人陥れる感じの。そういう場所だとありえねえくらい強いという、これすなわち限定的だ」
「なるほど……」
「これは引き分けでいいんじゃねえの? 条件つけねーとはっきり分けらんねえだろ」
「そうだよな。駄目なら後で考えっか」
「んじゃ次か? えーと、リーダシップ」
「これは中里だろ」
「だな。まあ慎吾の奴も頭良いから、指導力ねえわけじゃねえけどなあ」
「あいつの場合人を育てるってことしねえだろ」
「あれだな、最初から敵は作らねえっつーか、自分の不利になることは絶対しねえっつーか」
「でもあいつ、毅の奴は庇ってねえか?」
「そりゃ敵じゃねーからじゃねーの。仲間だし」
「……あいつと仲間って言葉ほど、似合わないもんもないなあ」
「……だなあ」
「こりゃ中里で異論はねえな」
「ん」
「じゃ、次ー、恐ろしさ。威圧感か?」
「これはどう考えても慎吾だろ」
「でもよ、毅さんもマジギレしたらこわそーじゃね?」
「いや、あれマジギレできねえタイプだよ。単発でキレるから」
「庄司の場合は普段キレてるみてえでキレてねえところあるからなあ」
「あいつマジギレしたら、目的果たすのに完全手段選ばねーだろ」
「マジギレしなくてもそうだもんな」
「けどマジギレしたら犯罪もお構いナシになっちまうところがなー。俺らナイトキッズのガンだぜありゃ」
「つっても捕まらねえこと考えるくらいのアタマ残してっからいいんじゃね?」
「そういうことでもないけど、そういうことでもあるか」
「ま、俺は毅さんよりあいつの方がこえーや、毅さんになら怒られても別にいいし」
「俺も」
「俺は毅に怒られたくはねえけど、やっぱ慎吾か」
「異論なーし」
「つーぎーは、ドラテク」
「ハイ引き分け」
「早っ」
「ま、ドライビングのテクニックってだけ取り上げるなら、同じ車に乗せねえと判断つかねえだろ」
「そういうのって車の選び方とかキメ方とかからテクニックのうちじゃねーの?」
「それ含めても、今どっちがダウンヒル速いのか決まってねえし、ヒルクライムじゃシビック乗っててドラテク次第でRに勝てるなんてこたねえし、微妙じゃん」
「微妙だな」
「っつーかここで俺らが決められんなら、あいつらあんな張り合ってねえよな」
「もっとうちのチームも平穏無事だろうなー」
「じゃあまあ、これも保留で。次、車の知識」
「知らねえよそんなこと」
「投げるなよ。こりゃでも、毅じゃねえの? 実地可能なあたり」
「慎吾も自分でやってるみてえだけど」
「他の車が不調な時だろ、真価が問われんのは」
「不調な時は新井田に頼むだろ」
「あー、そういや二人の真価なんて知らねーな」
「テストすりゃ分かんじゃね? 名称とか役割とか」
「んな面倒なことを誰がやるか。保留だ保留」
「これ保留にすると、次の情報収集力をどうするかってことになるけど」
「そりゃ慎吾だろ」
「慎吾だな」
「えー、慎吾そんなに情報知ってっかあ?」
「っつーか案外あいつ顔広いし」
「地味に色んな奴のネタ握ってんだよな。弱みっつーの? 話聞くのウマイんだよあれで、しかもあの顔で女拾えてっし」
「それ今世紀最大のミステリーだよな、慎吾だぜ。あの慎吾が何で女をとっかえひっかえできんだよ。あいつ包茎だろ?」
「いや包茎かどうかは知らねえけど。やっぱ話し上手で聞き上手なんじゃねえの。んでがっついてないという」
「そっか、あいつって女とシケ込むよかFR潰す方愉しんでそうだもんな」
「……何で俺、あいつとトモダチなんだろ……」
「深く考えるな。しかし毅の奴に情報収集力はねえのか?」
「何でそんな情報、ってモン引き入れてることはあるな。中古車入ったとかパーツが揃ってるとか、うまいラーメン屋があるとかいいカミソリ見つけたとか」
「しかもそれがジャストミートってあたり、すげえよあの人」
「でもそれって情報収集力とは何か違うような気ィすんぜ」
「うん」
「まあそうだなあ。こん中で性病かかってる奴は誰かとか、借金ある奴は誰かとか、前歴ある奴は誰かとか、よその峠で評判悪い奴は誰かとか速い奴は誰かとか、そういうの知ってそうなのは、慎吾だよな」
「……俺、あいつとトモダチやってていいのかな……」
「気にするな。じゃあこりゃ慎吾ってことで」
「オーケーオーケー。あと何個?」
「四個。はい、次カッコ良さ」
「そりゃ毅さんだ。異論は認めねえ」
「まあ、顔的にはそうだよな。慎吾はちょっとバランス悪いぜ、あれは」
「でもファッションセンスは庄司じゃねえの? 自分の見せ方っつーか、セルフプロデュース力っつーか。中里はなあ、努力を放棄してる面が否めないところだ」
「努力を放棄していてもあの姿を保てているのが、毅さんの毅さんたる素晴らしさなんだよ。俺の毅さん!」
「いやお前のじゃねえだろ。お前どうした」
「慎吾となんか比べるまでもねえだろうが。慎吾だぞ? 毅さんがロバート・デ・ニーロとしたら、慎吾なんか裸の大将だ! タクシードライバーと放浪画家のどっちが優れてると思うんだ!」
「でもモテるったら毅よか慎吾になっちまうんじゃねえの。毅ってストレートすぎて顔くどいし。っつーかストレートに見えねえくどさあるし」
「だな。それに女ってのはよほど高ランクに顔がねえ限りは扱われ方で判断するようなハイエナどもだ」
「お前らよくこれをスルーできるな。俺はロバート・デ・ニーロと裸の大将ってちっともかすってるように思えねえ例えがどこから出たのか気になって仕様がないぜ」
「こいつ自身それ分かってねえだろうから、気にしたってそれこそ仕様ないぜ、それは。それよりカッコよさだよ。結局どっちにすりゃいいんだ?」
「まあ、毅さんでいいんじゃねえの。女のモテ度は別にしても、引き分けにするにゃあちょっと、慎吾にゃ真っ当なカッコ良さはねーからな。存在そのものが醸し出せるものが」
「お前いいコト言うな。それでこそナイトキッズだ」
「お前は毅さん褒められりゃ何でもいいんだろ」
「そりゃ俺の毅さんだからよ」
「マジっぽいからこえーんだよな、こいつは」
「気にするな。で、外交的手段」
「はい、慎吾」
「いや中里だ。慎吾は危険度が高すぎる」
「危険度高い相手にはあいつ当てりゃ、相殺してくれんだろ。毅はあれでキレやすいからな。喧嘩売られたら怒りのまま買っちまう。慎吾の場合は怒らないで買うからまだやりようもある」
「いや、あいつ趣味で買うから余計にやりようねえと思うぜ。だって楽しんでんだもん。だったらキレてる方がいいよ。毅さん単発的だし、止め方あるし」
「それもそうだな」
「物分り良すぎだなお前」
「それが持ち味だ」
「まあ交渉術は庄司の方がうまいだろうが、平和的解決を望めるのは中里だろ。庄司はありゃ駄目だ。目的は任せらんねえ。駒としちゃ役立つんだけどな」
「なあ、あいつってそんな悪い奴か? 俺はそれほど極悪人とは思わねえんだけど」
「FR乗りわざと煽ってガムテープデスマッチやったり、遅い奴のケツいちいち突っついたりしなけりゃ、俺もあいつはそんなに悪い奴だとは思わないぜ」
「人の気にしてること指摘してきて怒らせて相手がボロ出したところをまた狙ってくって手口で話進めなけりゃ、俺もそんな悪い奴じゃねえと思う」
「人の煙草一本ずつくすねてかなけりゃ、俺もそんな悪い奴じゃないと思うな」
「あ、でも借りは絶対返すってあたりはしっかりしてるよな。貸しも絶対忘れねえけど」
「うん分かった、あいつのことはもうどーでもいいや。次何?」
「えーと、あと二つが優しさと愛しさになるわけだが」
「誰だよ、そんな投げやりっぽい項目作ったの」
「言いだしっぺお前だぞ」
「え、マジ?」
「今さっきの話から考えるに、これは毅以外はありえねえな」
「いや、でも毅さんの優しさと愛しさは非情だぜ。あの人は本当に他人のことを考えてるわけじゃねえんだ。だから俺らはいつもまるで大海原に漂う空のペットボトルのごとく寄る辺のない旅を余儀なくされるんだ!」
「うん、それはお前だけだな」
「あー……しかし確かに中里ってのは、本当に相手の気持ち考えてるかってと、微妙なところのある奴だな」
「相手の気持ち考えてるかどうかだけなら、慎吾の方に分があんだろうな。あいつは計画的だからよ」
「あいつって結局感受性強すぎっからあんなフテブテシイんじゃね?」
「お、俺また発見したぜ」
「何」
「あいつに似合わない言葉。仲間、優しさ、感受性」
「……持ってなくはないんだろうけど、ホント似合わねえよなー。何でだろ」
「何かよ、あいつも毅さんいなけりゃそうでもねえんじゃねえかって気ィすんぜ、何となく」
「あの人にも感受性は似合わねえと思うけど」
「いや、そういうことじゃねえだろ。何となくな。つまり、慎吾は毅に反発してるってことだろ?」
「そうなのか?」
「いや俺に聞かれても」
「人間意地を張ると過剰になっちまうもんだ。やりすぎちまう。あいつもそうなんじゃねえの」
「庄司が中里に意地張ってんのは目新しいことでもねえだろ」
「あれだ、要するに認められてえんだよ。でもま、慎吾の奴ァありゃ、プライド高いんだな。だから意地を張って、悪人を演じてる。これは新説だろ。何せ慎吾が元々悪人だって事実を除いているから成立しねえ」
「しねえのかよ。何だそりゃ」
「っつーかあいつが毅さんに意地張るとかきめえから置いとこうぜ。優しさと愛しさだよ、問題は」
「置いとくな。ここでこれが出てくるんだよ。毅に限っちゃ、慎吾はそれに関して誰にも引けは取らねえってな。うーわ、キモイ! ははは!」
「自分で言って自分で笑うなっての。キモイけど」
「え、あいつってそんなに毅さんに優しさと愛しさを費やしてんのか?」
「だったらおもしれーなって話」
「っつーかどうでもいいな、その話は」
「でもあいつはチームの中じゃ一番多分、中里のこと分かりたがってるだろ。心配もしてる。蹴落としたがってもいるけどな。伊達にガムテープデスマッチを復活させちゃいねえ奴だよ」
「それ、毅さん的にはどうなの?」
「さあなー。まあ、ちょっとは分かってんじゃね? いくらあの人が鈍感一直線っつってもよ」
「けど慎吾ほどには優しさも愛しさもねえだろうな。ある意味博愛主義者だぜ、毅さんは。平等なんだ。どんな奴にでも優しさと愛しさをくれる。だから残酷なんだな。ああ毅さん、何で毅さんは毅さんなんだ!」
「こいつ、こんな奴だっけ?」
「大体はそうだ。気にするな」
「じゃ、これも中里ってことで」
「どうなった?」
「えーと、集計結果でーす。中里五点、庄司二点、引き分け三点。内訳要る?」
「いや別に。見りゃ分かるし」
「おお、これぞ我が毅さんの圧倒的勝利! 万歳!」
「なあ、こいつ一回シメ落としても大丈夫?」
「ほっとけ。害はねえし」
「まあなー、慎吾もそんな実力ねえわけじゃないと思うけどなー」
「この項目自体無理矢理ひねり出したところあっからな。正しくはないかもしれねえ」
「でもよ、何となくよ、毅さんがいる限り、あいつはねえ気がするぜ、俺は」
「いなくなったらアリってことか?」
「俺がんなこと分かるわけねえだろ、失礼なこと聞く奴だな」
「どこが失礼なんだ」
「いや俺に聞かれても」
「ま、やっぱナイトキッズのリーダーは、毅さんっつーことで」
「そうだな」
「うんうん」
「でもこれ慎吾に見られたら、アナル引き裂くくらいはされるだろうな、誰か」
「はい解散!」
(終)

2008/03/26
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