別次元



「何か他にネタねーのお前ら。つまんねえよ」
「あのよ、俺ら走り屋、車がすべて。他に何のネタが必要ある?」
「あー、俺この前赤城山行ったぜ」
「お前そこで出すなよ、俺が折角決めたのに」
「それお前の車並みに決まってねえよ」
「シャラップ! ガッデム! ラフォーレ!」
「お前何しに赤城山行ったのよ。観光? 今宵限りの見物か?」
「いや、松上に誘われてよー。ギャラリーの女ナンパするって」
「ヤれたの?」
「何もしねえで帰ってきた」
「何だよお前、ナイトキッズの人間ならレッドサンズのガキども見て股間濡らしてるような雌豚は全員犯すべきだろ」
「妄想だけはご立派だよな、お前」
「そう、何かなー、レッドサンズ見てキャーキャー言ってる女の子たち見てたら、冷めちまってなー。うちのチームとどこが違うんだよって」
「高橋兄弟がいるかいねえかじゃね?」
「そこなんだよ。あれ高橋兄弟以外どーにもなんねーような奴ばっかだぜえ。それでキャーキャー言ってる奴らって、結局何も見てねえんじゃねえ的な?」
「よく松上がそれで下がったな」
「いや、あいつは女の子たち見ながらオナニーして木にぶっかけてた」
「うわ、環境破壊」
「何もしてなくねーじゃん、それ」
「俺は何もしてねえよ、あいつだよ。何か、すげえエロイことさせてたっつってたぜ。妄想で」
「それ聞いてみてえな」
「あいつでも、極端だからなー。ツボはまんねえと微妙だろ」
「っつーかレッドサンズでキャーキャー言う女ってマジでいんの? あいつらやっぱ俺らと大して変わんねーじゃん。むしろ高橋信者多くてキモイじゃん」
「いや、あそこ高橋兄弟って看板は強えだろ。だから、そいつらの看板しょってる奴らは、下っ端でも下手な真似できねえって感じの、何か信頼感あんじゃねえの」
「うわー、俺、いくらキャーキャー言われてもレッドサンズにゃ入りたくねえな。ギャラリー引っかけたら怒られそうだし」
「お前なら大丈夫だろ。まず引っかけらんねえから」
「ははは!」
「笑うなコラ! 縛るぞ!」
「っつーことは何、うちのチームが人気ねえのはトップのお二人さんの看板がアレだから?」
「っつーかトップ完全に決まってねえじゃん。象徴的なもんがねえっつーか。まとまりねえし。そりゃ応援もしにくいって」
「でもあれよー、前に夏川目当てに来てた奴らいただろ。あれどうなったの?」
「ありゃお前、松上どもがあいつの熟女好きバラしちまったから。最低ライン四十って」
「うわ、何、何で折角の俺らのファンを減らすようなマネするわけ?」
「俺らのファンじゃねーからじゃね?」
「ま、俺らのファンはよほど走りを分かってる奴じゃねえといねえだろうしな」
「お前ほどの自信を持てないぜ、俺は」
「でも毅さんの名前は知られてっだろ。一人くらいマニアックなファンはいるんじゃねえの?」
「いやー、毅さんもなー、負けたり負けたり負けたりフラれたりしてっからなー」
「その辺に、こう、何かくすぐられるものを持つような人も世の中にはいないとも言えないんじゃないかね」
「走りだけ見りゃいくら負けてるったって、あの人評価高いだろうしな」
「っつーかうちのチームの奴って大体毅さんのファンじゃね?」
「あー……そういえば、応援してる奴は多いよな」
「そりゃ一応頭張ってる人だし、応援しとかねえとチームのメンツがあれじゃん」
「でも慎吾のファンはいねえだろ」
「あいつのファンはなー、マゾじゃねえとなれねえって。応援とかする奴いたらよー、わざわざそいつらの前に行って、皮肉言うんだぜえ」
「あー、あったな。何だっけあれ。『お前ら満足させるために俺は走ってんじゃねえんだよ。うるせえから騒ぐな暇人ども』、とかだっけ?」
「そうそう。あと他にもあったじゃん、えーと、何か、人生がどーたらっての」
「ああ、あれだ。『他人のやることでいちいち興奮したがるなんて、よほど貧困な人生送ってんだな』、ってやつ」
「お、お前あいつのマネうまいじゃん。練習したのかよ」
「いや、別に。まあダチだし。あいつしょっちゅうそういうこと言ってるしな」
「持てはやされんの好きそうで、何かたまにキレるよなあいつ、変なところで」
「要するに、俺らの人気の低さの元凶は慎吾だ! あいつを縛ればオール解決だ!」
「そんな簡単にいくもんじゃねえだろ。あいつ縛っても、俺らなおのこと変態だと思われるのがオチだぜ」
「っつーかさ、チームに人気って必要なのか? いる奴楽しけりゃそれでいいんじゃねえの?」
「話の核心にようやく辿りついた感じがあるな、おい」
「人気ねえと、かばってもらえねーじゃん、事件起きた時とか。サポーターは大事だぜ。走り屋ってのは特に暴走族と混同視されがちだからな」
「まあやってるこた大して変わりねーよな、暴走してっし」
「俺らは純粋に走りを楽しんでんじゃねえか、あんな不届き者と一緒にするな」
「いやー、一般市民から見りゃあよー、交通ルール守んねえ奴らは何でも一緒だと思うぜえ」
「だったらよ、人気ねえ方が取りざたされなくていいんじゃね? こういうことは目立っちまったら終わりだろ」
「あのよ、チーム組んでて目立たねえって、それムナシクねえか」
「俺は別に。お前らと走ってんので楽しいし。ってか他面倒だし」
「俺も。むしろギャーギャー言われっ方がうぜえよな」
「お前ら揃って揃って向上心ってもんが欠けてるな! 毅さんを見習えよ! あの人常に目立ってんだろ! 本人あんなに目立つつもりはねえんだろうけど!」
「うん、いや、もうあの人目立ってっから俺別にいいかなーって。あの人見てんので十分っつーか」
「毅さんの目立ち方はなあ、毅さんしかできねえよなー。だから毅さんより有名になる気はしねえ。うちの奴らって大体そうじゃねえの?」
「まあ、毅さんと張り合うほど功名心溢れるのったら、慎吾以外いねえよな」
「みんな分かってんだろ」
「何を」
「ゴホン、あー、つまりだな、中里毅と競い合うには、彼と同次元まで上がるか下がるかしなければならないということをだよ」
「何、お前微妙にかっけーな、それ」
「俺は完璧に分かんねえ、それ」
「それはあれだ。人気を獲得したければ、余計なことは考えずにまず走れという神のお達しだ」
「カッコイイ走りをすれば、自然と人気がついてくると」
「そんな簡単にいくもんじゃねえだろ、いくら神さんのお言葉だからって」
「でも、無駄にくっちゃべってるよか建設的なんじゃね」
「あー、俺もナンパしてー」
「ったくよー、夏川の熟女好きと百パーマゾヒストがバレなけりゃ、絶対今頃この辺女の子で溢れかえってんぜ」
「アホか、あんな変態野郎のこと考えてまたぐらびしょ濡れにするような売女なんざ、頼まれても俺は御免だ!」
「安心しろ、誰もお前には頼まねえよ」
「カッコイイ走りかー。何だかんだ言っても、まあ、毅さんはやってくれてんだな」
「慎吾もな。あいつの隣乗ったらやっぱ、シビれるもんはある」
「人気、自然についてきてんのかあ?」
「それ、人為的に壊してんじゃねえの?」
「あー、ナンパしてー」
「俺セックスしてえ。セックス」
「俺はおっぱい揉めればそれでいいな」
「まあ、お前ら見てたら永遠に俺らは人気者にはならねえんだってこと、理解できるよ」
「お前もな」
(終)

2008/04/08
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