転換
「俺よ、毅さんのこと尊敬してはいるんだけどよ。何つーかこう、なあ。盲目的にはなれねえっつーの? そういうのねえ?」
「……あ?」
「はあ?」
「いや、何? 聞いてなかった」
「お前、トモダチ甲斐のねえ奴だよな」
「いや俺お前とトモダチになった覚えねえし。っつーか今月やべえんだよマネーが、遠出しちまったから」
「遠出ってどこまで」
「鳥取砂丘」
「なあ、毅さんって案外馬鹿じゃね?」
「この俺をスルーかよ。ってか案外ってこたねえべ、普通に馬鹿だありゃ」
「てめえ毅さんを馬鹿呼ばわりしてんじゃねえよ!」
「いやお前が先に言ったんじゃん。何逆ギレしてんだアホ」
「何てっちゃん、喧嘩か? 俺も混ぜろ、前からカッサにはチョークスリーパーかけてみたかったんだよ」
「俺を落としてどうしようってんですか先輩」
「あー? 全裸にして市役所前にでも転がしとくか?」
「元カノの家の前にでも転がしとけよ、こんな奴」
「てめえは俺の毅さんを侮辱した挙句、俺の心の傷に塩を塗り込むマネまでするか!」
「いや毅さんはお前のじゃねーべ。んでだからお前が先に馬鹿っつったんじゃん、毅さんのこと」
「まあ毅は馬鹿だよな」
「え、そこ認めんすか先輩」
「っつーか車馬鹿? あの歳でカリカリチューンのGT−R養ってて、微妙に人生設計立ててるあたり頭おかしいよ」
「頭おかしいって、お前も辛口だなおい」
「走り屋にとっちゃ褒め言葉だろ、狂ってるってのは」
「いやー、俺狂いたくねえなー」
「お前ごときじゃ狂えねえから安心しろよ。っつか毅さんもありゃそんなひどくなくね? マジいってる奴はひでえ借金まみれだぜ、んで資金調達しに方々出稼ぎ行くんだから」
「あー、うちのチームでも約二名そんな奴いるよなー」
「いるっけか?」
「慎吾がよ、栖原と真理にだけは金は貸すなって。ゼッテー返ってこないから」
「あいつが言うと嫌な説得力あんなァ」
「まあ仲良いしな。けど栖原はともかく真理って何かあったっけ?」
「んあ、あいつ親の会社倒産しただろ、二年前くらい。あれ? 三年前か?」
「あー……俺が金欠で死にかけてた頃だから、二年半前だな」
「それと金返さねえのと何の関係あんのよ」
「自営業で潰れちゃ借金残んべよ。しかもあいつ元からケチだし。まあでもあいつは公言してっからいいんじゃね? 返さねえから金貸してって」
「それ考えたら栖原の方がタチわりいわな、そのうち返すっつって返さねえんだもの」
「でもあいつ嘘吐きまくりだから、逆に分かりやすいっしょ」
「慎吾もよくあんな奴と仲良くできんな」
「ウマ合うんじゃねえの? あいつも嘘吐きだし」
「あ? あれ遠回しなこと言いまくるけど、嘘は吐かねえだろ。自分から弱点作らねえっつーか」
「毅さんのこと嫌いだ嫌いだ言ってんじゃん、俺は何であんないい奴嫌ってたんだー、って悟ってたクセに。わけ分かんねえ」
「俺にはそんな記憶がねえから何とも言えねえけど、わけ分かんねえな」
「言ってんじゃん」
「今更ほじくり返してやんなよ、あいつはあいつなりに青春なんだよ」
「あいつが青春なら俺は思春期だよ」
「俺は小学生だな。あークソ、女風呂に自由に入れたあの頃に戻りたい!」
「俺も最大のモテ期が小学生だったなあ……っていうかお前らそれ、慎吾以下ってことになんぞ」
「俺あいつ以上にもあいつ以下にもなりたくねえ」
「っつーかそもそもあいつと比較されたくなくね?」
「それ否定したい奴もいねえだろうな。っつーかカッサちゃん、いい加減俺君にチョークスリーパー決めていい?」
「や、俺これから走るんで」
「後ずさりながら言うんじゃねえって」
「この話もわけ分かんねえ」
(終)
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