盛り方



「いいですか、溝家さん。女体盛りのできる安い居酒屋なんて存在しません。というか女体盛りのできる居酒屋が現代日本に存在するのかどうかも俺には分かりません。考え直してください」
「お前さあ、普通に考えて女体盛りこそセレブな男のやることだろ。ということはセレブはやってるんだよ。セレブを探せばそこに女体盛りが存在するんだよ。お前もワカメ酒飲み干したいだろ?」
「いや別に」
「後輩甲斐ねえ奴だな、お前」
「父さん、そんな夢も希望も持たないシラケた感じにお前を育てた覚えはないぞ!」
「育てられた覚えがありません」
「よし、殴るぞ」
「待て待て。竜太ァ、誰か女体盛りやってくれるようなダチいねえの?」
「あー、十万くらい出せばやってくれるような子なら」
「マジで?」
「金に困ってるみたいなんで。俺も一万でヤらないか聞かれたんですけどね。一万は高いでしょ」
「え、俺普通にいけるけど」
「何よ、援助交際?」
「そうなるんですかね。まあその子質はいいんで、したけりゃ紹介しますよ」
「よろしく!」
「女体盛りはいいの?」
「え、女体盛りやんの? いいねえ、日本の原風景だねえ」
「むしろ外国人が考える日本ってこんな変態国家だよねって感じじゃねえの」
「どうします? 十万出します?」
「俺としては十万払うくらいなら毅に盛る方がまだマシだ」
「ごめんちょっと言ってる意味が分からないんだけど」
「売女に金を払うなら毅の裸を見る方がまだ有意義だろう」
「ああ、性病移されるくらいなら集団食中毒発生の方がまだいいかもな」
「検査はしてるらしいですけどね。じゃあ十万払って毅さんに盛ってもらうんですか?」
「いやお前も何普通にそれやろうとしてんの」
「え?」
「大体魚介類に申し訳ないよな。貴重な体をそんな形で侮辱するなんて」
「んじゃ折衷案ってことで、毅さんを裸にしよう」
「そうだな。それを床の間に飾って花でも刺しておけば場も華やぐだろう。花だけに」
「絶対殴られるよなあ」
「轢かれるんじゃねえかなあ、慎吾に」
「この話知られた段階で山に埋められるんじゃないですかね」
「お前他人事だねー。俺ら一蓮托生よ?」
「俺は慎吾と仲良いんで」
「うわ、こいつ裏切りやがった。後輩甲斐がねえにもほどがある」
「あれ、っつーか竜ちゃん慎吾と仲良かったっけ?」
「まあ普通に。一万の子も元はあいつの知り合いですよ。街で引っかけたとか引っかけられたとか」
「え、慎吾援交してんの?」
「その言い方だとあいつが稼いでるみてえじゃねえか、気持ち悪い」
「いや、あいつはそういうのやりませんね」
「そりゃ慎吾が野郎相手に援交してたら驚きだよ」
「じゃねえべ、女の子と金を払ってまでセックスしねえってこったろ」
「インポ?」
「一足飛びだよなあ、お前」
「そういうプライド持つってことは童貞なんだろ。操は好きな奴に捧げたいんだよ。ケナゲだよな慎ちゃんも。いっそのことあいつを盛ってやろうか。 そしてワカメ酒だ!」
「いやー、やっぱ毅さんの裸の方が心が和むって」
「和むんですか」
「でも俺、慎吾は童貞じゃねえと思うよ。色々知ってるから苦労してるタイプでしょ、あれは」
「苦労してんのかよ、あの顔で」
「お前の顔くらいは苦労してんじゃねえの?」
「よし、殴る」
「それじゃあいつも通り、初多さんの店でいいですね」
「俺のセレブな夢はどこへ!」
「諦めてください溝家さん。その代わり毅さんに裸になってもらえるよう交渉はしますから。溝家さんが是が非でもしてほしがっているという旨を強調して」
「竜ちゃん、君、慎吾に俺殺させたいだろ」
「まさか。友達が殺人犯になるところなんて見たくないですよ。だから半殺しで止めろと言っておきます」
「分かった、分かりました、ごめんなさい。無茶な夢を見た俺が悪うございました。だから慎吾にも毅にも何も言うな、言ったら俺はお前と崖下までドライブする」
「なら俺はそれを撮影してネットで公開してやるよ」
「いいねえ、つつましやかな変態性、風情があるねえ」
「あってたまるか!」
「たまりませんね」
(終)


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