法則
「やっぱGT−Rっつったら毅さんだよなあ」
「何お前、俺のコロナちゃんディスってんの?」
「え?」
「え?」
「それ言ったらヴィヴィオのRAはお前っしょ」
「何お前、どっからわいた」
「いやさっきからいたんですけど」
「え?」
「そういうんじゃねえんだよなあ。やっぱさあ、ここで32のGT−Rが、毅さんなわけよ。毅さんは32で、32は毅さんなの。たまんねえよな」
「何言ってんのこいつ」
「あー、秋名のハチロクみたいな?」
「そういうんでもねえんだよなあ。妙義の32のGT−Rが、毅さんってことよ。毅さん以外にいねえのよ。毅さん以外にいても、毅さんしかいねえの」
「んー、じゃさ、赤城のFCったら高橋涼介?」
「そうそう、それそれ」
「あー、そっちかよ」
「そういう人と一緒にいられるって、やっぱすげえよ。うん」
「何お前、急に改まってんだよ。死ぬの?」
「いや死なんけど。たださあ、やっぱGT−Rっつったら毅さんなんだよなあ」
「まあ、そうだよな」
「でもお前もGT−Rっしょ」
「っつかドライバーの格の違いだろ、そこは」
「あれ、慎吾ってもう運転できんの?」
「慎吾? 庄司?」
「あー、リハビリ終わったってよ」
「ふうん」
「庄司かあ。結局ひと月で復帰って、早かったな」
「その間にバトル二つ終わってるけどな」
「毅さんもなあ、二回負けちまったよなあ。でも、俺はすげえと思うわけよ、やっぱ」
「庄司とはちょっと、違うしな」
「あいつも速いけどな。でもあいつ、バトル出れなかった時点で、差ァついちまったよ、毅さんと」
「ネームバリュー的な?」
「GT−Rは毅さんだよなあ」
「お前何回それ言うんだよ」
「まあ、勝たなきゃ速いも何もないしな」
「負けてても、毅さんはGT−Rだよ」
「それ分かったって、庄司だよ、庄司」
「慎吾?」
「バトルに出れなきゃ、速いも何もねえってことだろ。俺もそう思う。だから、あいつはバトルに出なきゃいけなかったんだよ」
「あー、あいつが出れないのに、俺らも出れないしなあ」
「まあ、それもあるけどな」
「え?」
「自覚が足りなかったんでしょ、庄司は。俺は同情できないね」
「あれ、お前慎吾嫌いだっけ」
「嫌いじゃねえよ、トヨタよりは」
「何お前俺のコロナちゃんディスってんの?」
「はい?」
「ん、何で出なきゃいけんかったの、あいつ」
「あ? バトル?」
「バトル」
「ネームバリュー的な?」
「それもあるけどな。俺はあいつ速いと思うし、俺じゃちょっと敵わねえとこいってると思うし、お前らもまあ、そんな感じだろ」
「まあ」
「そんな感じだな」
「でも、それで終わってたら、あいつは毅さんに、追っつけねえよ。まあ、自分で分かってんだろうけど」
「自覚が足りない」
「そ」
「でもダウンヒル、互角だろ?」
「お前、自分の言ったこと忘れてんの?」
「え?」
「R32は毅さんだろ。でもEG−6は、慎吾じゃねえ」
「……ん?」
「車自体のネームバリュー、差っ引いてもそうっしょ。怪我なんてしなけりゃな。同情できねえけど」
「同情できるほど、速くなりてえよ」
「言われてみりゃ、確かに、慎吾は違うな」
「お前、話遅いんだよ」
「え?」
「まあ、あんなすげえ人、童貞だ何だってからかえるうちのチームって、いいよな」
「何お前まで改まってんだよ。死ぬの?」
「いや死なねえけど」
「あれ、童貞って毅さん?」
「多分。必死になって否定するあたりな」
「GT−Rといえば毅さん、童貞といえば毅さん、これ妙義の法則」
「それ、イコール?」
「イコールだと、GT−Rまで童貞になっちまうだろ」
「GT−Rは毅さんだな」
「それ分かったって」
「まあ、庄司にも頑張ってほしいね」
「EG−6、っつったら慎吾か」
「でも俺、あいつはそれ、ならねえと思うなあ」
「あ?」
「何で」
「毅さん、なってるから」
「はあ?」
「ん?」
「毅さんがもう、なってるわけよ。GT−Rが毅さんだから。あいつはそれ、ならねえんじゃねえかな」
「……あー、そっちか」
「……案外自覚、足りてんのかな」
「やっぱ、GT−Rっつったら毅さんだよなあ」
「で、慎吾っつったら毅さんか」
「俺、庄司のこと、少し同情できるような気がしてきた」
「何で?」
「何となく」
「俺はEG−6になら同情できる気がする」
「何で?」
「何となく」
「分からんなあ」
「ここのGT−Rは毅さんだろ。それでいいんだよ」
「そういううちのチームって、いいよな」
「うん、それは分かる」
「でも俺のコロナちゃんディスったお前らは許さねえ」
「え?」
(終)
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