誕生日 1/2
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 どうしても、とすがられては、構ってくれないという理由で浮気を重ねた挙句に別れ話の最中包丁を向けてきた女の妹でも、無視するほどの執着心を須藤京一は持たなかった。また、個人的な安息を奪わせるほどの同情心も持たなかったため、昼食の時間を利用して、安い定食屋で落ち合った。
 一生のお願い、と囁く女の甘ったるい声、みっしりと化粧で埋まった顔、冬だというのに谷間まで露わになっている胸は、京一に軽い情欲をもたらしたが、その頼みを受けたのは、健気を装う女にほだされたためではなかった。
 ――最近清ちゃん、何かつれないんだよねえ。
 残業を終えて家に戻ると、今日の終わりも遠くはなかった。学生時代のアルバイトとして土方の経験もあるが、頭脳労働の現在でも就労条件は似たようなものだった。今のご時世、趣味につぎ込める金が入ってくるだけ良いのかもしれない。スーツから私服に着替え、流し台の下に放置していた桐箱を取る。サーキットで知り合った年かさの男に貰った酒だった。近頃は家に招く人間もおらず、日本酒の味も分からぬ女性に薦める気もなかったので、後で保管しようと思って、忘れていた。
 ――今日もさあ、誕生日だから由香が祝ってあげるって言ったのに、先約あるっていうし。
 上着は取らず、履き古したジーンズのポケットに財布と携帯電話と諸々の鍵をねじ込み、あとは桐箱だけを手に持って京一は自宅から出た。ガレージのランサーエボリューション3に乗り込んで、遠慮なく発進する。隣近所に間隔のある田舎の利便性は、こういうところだ。残り五分で連絡を入れれば丁度良いだろう、と常の正確無比な運転を行いながら思う。
 ――だからさ、京一さん、ちょっと調べてくんない?
 行動に移したのは、個人的興味が先に立ったためだった。まだ十代の、豊満な肉体の割にあどけない顔を持ったその女は、こともあろうに京一のチームに属する走り屋である、お世辞にも美形とも頭脳明晰とも言えぬ、岩城清次に焦がれていた。かつて恋人と名乗らせていた女の妹は、偶然――私生活をともにすることはあまりないから、まったくそれは偶然だった――デパートのレストランで食事を取っていた京一を見つけ、職場が近いからという理由のみでそこで一緒に腹を満たしていた清次を一目見て、惚れたという。紹介してくれとねだられた時は、その女の美的感覚を疑いながらも、言われるままにしてやった。清次にせよ、当時は恋人がいないはずだった。岩城清次という男は甘い見通ししか立てられぬ頭を持っていたが、それでいて女に浮つくところはなかったためと、互いの生活について逐一情報を交換することもなかったために、女性関係の推量はしにくかったが、その女にねだられる数日前に本人が、キレイサッパリフラれちまった、とけろりとした顔で、朝食はパンだったというような軽さで言っていた。だから京一は、一週間もせず二人はセックスを済ませるだろうと想定していた。
 だが、それから三ヶ月経った今も、二人は友人でしかなく、そして女の言うところでは、二ヶ月ほど前から様子が変わったらしい。それまでならば、夜に遊びに誘えば大抵は二時間でも付き合ってくれたが、ある日を境に断られる回数が増していった。それでも会えばいつも通りで、彼女ができたのかと尋ねても、いや全然、と普通の顔をして答えるだけだという。だが、ここ一ヶ月は会えもせず、尋ねもできない。
 青く塗られた爪をいじりながらのその女の言葉を聞いてすぐ、近頃のあの男の生活リズムの変化について、京一は思い出した。峠に暇さえあれば来る、というスタンスが、限定して集中するようになっていた。走りの質も技術も劣化などせず、まだまだ伸びしろがあることを思わせ、峠でも別段時間に追われている様子はなかったが、いつまでもだらだらと居座るようなことはなくなった。
 二ヶ月前といえば、いろは坂でカート上がりの小僧である小柏カイに負けた頃だったが、それを機に清次が生活の調子を変えていた記憶も京一にはない。その前から、予兆はあったように思える。予兆――たまさか、峠に来ても、何か思いふけっていた。それは短時間で、声をかければすぐに現実へと戻ってきたため、特に気にはしていなかった。なぜならその頃は、群馬で清次が二度の敗北を刻んだ後だったからだ。そのためだろう、と思っていた。そして、この単純明瞭な男なら、敗北の傷も簡単に癒えるだろうと。
 だが、小柏カイにまで負けてから随分経ち、粗方の走り屋に冬眠の時期が訪れた今でもなお、たまに会った折には思いふけることがあるのだから、別の予想はたやすく立てられたはずだった。それでも、嘘を吐き通せるほどの器用さを持たないあの男は、女はいないと言い張っているのだ。それまで女がいると思わしき時期であっても、一切峠でも京一の前でも自慢も耽溺もしなかった、あの男が。

 岩城清次は女の知り合いの願いは断っても、自分の要請は断らないという確信が、京一にはあった。出会ったのは二年前、あの男が初めていろは坂に来た時だ。腕は悪くなかった。磨けばより光るだろうと思われた。だから向こうからすり寄ってきても京一は無下にもせず、あの厭わしき高橋涼介に一年前に負けて以後、綿密に作り上げたチームにおいても、最も信頼できる位置に引き上げた。それは、粗野な振る舞いがほとんどであるあの男にそれ相応の才能があったためだが、それでも京一の力の庇護に預かりたいだとか、権力を笠に着たいだとかという下卑た動機を一つも見せず、ただ京一の技術を認めていることに、京一自身が気安さを覚えたためである。それからは、性に合わない命令を下す時以外はただでさえ従順だったものが、こちらの意向を最大限優先するようになった。
 その自宅まで残り五分という道程まで来て、車を路肩に停止させて携帯電話からその番号を呼び出しても、そのため京一は相手が出ないことなどないと、確信していた。実際四回のコールののち、清次は出た。
『きょ、京一か?』
「ああ。今、大丈夫か」
『え、うん、まあ、大丈夫っちゃあ大丈夫……何か用か?』
 慌てたような、少し息を切らせたまだるっこしい声が聞こえてくる。もしや、最中だったのだろうか。そう邪推した自分をすぐに滑稽に思いながら、京一は言葉を継いだ。
「お前、今日誕生日だろう」
『え? あ、ああ。何だ、覚えてたのか』
 実のところは女に言われるまで忘れていたが、ああ、と京一は肯定して、続けた。
「丁度用事があって、お前の家のすぐ近くまで来ている。酒も手に入れた。お前にやろうと思ってな」
『おっ、へえ、お前から何か貰えるなんて思ってなかったぜ、京一……ああ、でもちょっと……用事があってな。一緒に飲むとかはできねえけど……』
 歯切れの悪い口調だけで十分事情は察せられるので、構わねえよ、俺もそんなに暇じゃない、と京一は返し、後五分で行く、と告げた。
『は!? 五ッ、五分?』
 電話口で、あの男がとんでもない驚愕の表情を浮かべているのが容易に想像できた。一人頬を上げながら、ああ、と京一は白々しく言った。
「近くまで来てると言っただろ」
『え、あ、そうか、五分か、五分、五分な……ああ、うん、分かった。待ってるぜ』
「すぐに行く」
『いや別にすぐじゃ――あー、いや、うん、よろしく頼む』
「じゃあな」
 そうして向こうの声は聞かずに通話を切った。雑音は聞こえなかったが、清次の息は少しばかり乱れていた。だが、いくらこちらからの電話といえど、セックスの真っ最中に出るだろうか? まさか、あの男でもそこまで馬鹿ではあるまい。どんな女と一緒にいるかは分からないが、情事の途中で放られては、愛想も尽かすだろう。今頃は後始末に慌てているかもしれない。ともかく、『先約』が何なのかを暴くことが、京一の目的だった。
 アパートの前に車を停め、桐箱を手に取り降りて、一階のその部屋のドアチャイムを押す。部屋数は多く広いが、年数が経ちすぎているのと市街地から離れているのとで、借り手は少ないらしい。また家賃が安いために訳ありの人間が多く、そのためいつの間にか人がいなくなっては入りを繰り返しているのだと、以前に手料理をご馳走になった際に言っていた。女を引っ張り込むにはいいだろうな、と言うと、でも街から遠いしなあ、と真面目な顔で返されたものだ。
「よお、悪いなわざわざ」
 ドアを開いたその男は、下には黒いジャージを履いていたが、上半身は裸だった。すべて後ろでくくられている黒々とした長髪はいくらかほつれており、顔や体に汗が浮いている上、むっとした匂いが漂ってくる。まさかな、と思いながら、ついでだ、と京一は箱を手渡し、それと、と当然のように土間に上がりながら言った。
「ビデオを返してくれないか」
「ビデオ?」
「前に貸しただろう。俺の走っていた」
 少し考えてから、ああ、と頷いた清次が、え、と遅く驚いた。
「今か?」
「急に必要になってな」
 だが、疑う風もなく、分かった、すぐ持ってくる、と回れ右をした。京一はそっと靴を脱ぎ、その後を追った。物音を立てぬようにダイニングキッチンを抜けて、ドアを開いたままの奥の洋室に入る。広い部屋を求めて引っ越したのは、寝相の悪さをカバーするために買ったダブルベッドを置くスペースが欲しかったからだと、いつか聞いたことがある。それでも夜、壁際で眠っていたはずが、朝起きると床に落ちる寸前だったことがままあると。
 入って右側、壁にぴったりくっつけられたそのベッドの上に人間がいるということは、京一も予想をしていないわけではなかった。だが、まったく予期していなかったことは、そこに仰向けに、顔を腕で覆って寝ているのが、どう見ても同性だったということだ。骨格も、筋肉のつき方も、毛の生え方も、平坦な胸も、そして何より高々と突き出している股間の一物は、男であることを象徴していた。京一は久々に頭が真っ白になるような衝撃を受け、体を少し動かしており、そのため、みし、と足元の床板が鳴っていた。そこで、ベッドの上の男が、顔から腕を除け、その男でしかない顔をこちらに向け、数秒固まったのち、妙な声を上げ、一気にうつ伏せになった。
「よし、あった……」
 奥に置いてあるテレビ台の下を探っていた清次が、振り向いてきたのはその直後だった。うわッ、とのけぞった清次はビデオテープを落としかけていたが、すんでで保護した。京一はベッドに視線をやってから、目を見張ったまま焦った様子で近づいてくる清次を見た。
「な、な、何でお前……」
「由香の奴が、近頃お前がつれないと言っていてな」
「あ? 何、床? 奴?」
「女がいるんじゃねえかだの何だのと」
「床がどうしたって……あ? ああ、由香か! え、あいつが何だって?」
 ビデオテープを胸の前で両手で掴んだまま、清次は信じがたいように京一を見てくる。京一は鼻から小さく息を吐いた。
「お前が近頃まったく誘いに乗ってこないから、女でもできたんじゃねえかと疑っててな。しかしなるほど、確かに『女』はできてねえ」
 ベッドの上の男の硬く締まっていそうな尻を眺めながら京一が言うと、え、いやその、まあそうだな、と清次は具合が悪そうに目を泳がせた。可能性としては、十分にありえた話だった。だが、思いつかなかった。現状を突飛だと受け止めた自分が未熟に思え、京一はついに深くため息を吐いた。
「お前にそういう趣味があるとはな。知らなかった」
「……そういう趣味っつーかそういうケイコウというかそういう感じというかまあ、なきにしもあらずっつーところだったというか……悪い」
「何謝ってんだ、お前の嗜好は俺とは関係ねえだろ。事情も分かった。取り込み中に悪かったな、あとは二人で楽しんでくれ」
 正直なところ、いかにも野郎同士の情事の後というこの空気にいつまでも浸っていたくもなく、京一が手早く言うと、あ、おいビデオ、と清次は差し出してきた。ああ、とそれに手を伸ばしながら、京一はちらりとベッドに目をやった。うつ伏せの男は、微動だにしない――いや、小さくその体が震えているようにも見えた。釈然としないばかりだったため、京一はビデオテープを受け取ってから、清次の耳に口を寄せた。
「お前、男の何がいいんだ」
「あ? ああ、可愛いぜ」
 声を潜めた京一に対し、清次はいつもの調子で平然とそう言った。
 可愛い?
 京一がなしたのは同性愛の何を良しとするのかという問いであり、しかしそうとは受け取らなかったらしい清次が出してきたその急角度の答えを、京一がどうとも処理しかねていると、どうした、と不思議そうに清次は言った。
「……可愛い?」
「ああ」
 迷わず頷かれ、それがか、と京一はついベッドへと顎をしゃくっていたが、ああ、とやはり清次は迷わず頷くのだった。
「うちのチームの奴らいるじゃねえか、そいつらよりも肝も据わってるし、強いだろうな。ああ、結構速いんだぜ、GT−Rに乗ってる、32だ」
 走りに話を振られるとは思わず、瞬時に現れた走り屋としての自分が、ほう、と勝手に頷いていた。それも、「走りに関しちゃ馬鹿にできねえ」、と清次が続けるまでは良かったが、「真面目でよ、明日だって障りあったらいけねえってわざわざ前から休み取っといてくれたし、ああでも好きって言われ慣れてねえんだな、すぐに赤くなる」、とまでくると、再びこの男の友人としての自分に戻り、京一は適切な反応をしかね、無表情のまま相槌を打った。
「……そうか」
「体もいいんだよ。たまんねえ。お前も一度やったら分かるぜ、京一」
 得意げにそう言われたところで、興味はまったく持てず、そうか、と京一は同じ相槌を繰り返した。これが女ならば無条件に認められる話だが、相手は男だった。その清次の男への、精神、あるいは肉体に対する執着がどういった感情、欲望から生まれているのか、京一には理解ができなかった。そうしてじわじわと事態の衝撃に押されて黙した京一を、あ、そうだ、と清次は指差すようにした。
「なあ、やってみねえか」
「何?」
「お前が来るっつーから五分で急いで出すだけ出しちまって、俺満足させてやってねえんだよ。誕生日だからサービスしてもらってたんだけど、さすがにもうこっちの足腰がきつくてな。勃たねえわけじゃねえんだが」
 京一はじっと清次を見た。清次はいつも通りの顔だった。峠で見る通りの、洒落っ気も何もない、野暮ったく、人に睨みを利かせるために作られたような厳つい顔。それに、自分の選択を間違いとする世界などどこにもないというような、無駄な自信が乗っている。いつも通りだった。だが、先の言葉は、京一が知る清次が何の躊躇もなく吐くような言葉ではなかった。そこまでの馬鹿ではないと、先ほど思ったばかりだった。
「……お前、本気でそれを言ってるのか?」
「ん? ああ。駄目かな、京一がしてくれりゃ俺としても丁度良いんだけどよ、うまいだろ。それにバイブ使うのも何かよ、勿体ねえっつーか」
 この男についての自分の認識を少し見直さなければならないのかもしれない、と京一は浅く考えながら、想像もしたくない行為については、生憎、と断ろうとした。俺にはお前みてえな感覚はねえ。だが、京一が口を開き声を出そうと息を吸ったと同時に、
「いい加減にしろよ、てめえ」
 と、ベッドの上のうつ伏せの男が起き上がり、こちらを――おそらくは清次を――睨みながら、叫ぶように言った。低く掠れた、さらりとしているようで、奇妙に耳に残る声だった。え、と清次が振り向くと、男は顔をしかめながら、ぎこちない動きでベッドの端に引っかかっていた下着を履いた。
「あ、おい、待て待て」
 慌てた清次がこれまた端に引っかかっていた、男のらしきジーンズとセーターを取り上げる。あ、と気づいた男がそれに手を伸ばし、上半身と下半身の動きのバランスが取れなかったのか、ベッドに沈み込んだ。この野郎、と憤怒の形相で清次を見上げる男と、筋肉がみっしりとついている清次の背中しか京一からは見えなかった。清次は男の服を床に放り投げ、なあ、と男と同じベッドに乗った。
「そのままじゃお前だってきついだろ。大丈夫だって、京一のテクに今までどれだけの女が鳴いてきたことか」
 そんな話を俺はこいつにしてただろうか、と怪訝に思い顔をしかめた京一に、更に疑念を抱かせる発言を、清次を睨み続けている男がした。
「ざけんじゃねえッ、きつかろうが何だろうが、エンペラーの須藤にそんなことをさせるくらいなら一人でマスかいてた方が何百倍もマシだコラァ!」
「えっ、一人でやる方が好きだったのかお前、それは今まで気づかなかっ……」
「比較の問題だバカ野郎!」
 怒鳴った男に圧されたのか、身を引いた清次が不意に京一を見上げてきた。京一は眉間にしわを寄せたまま、正座になって息を切らしている男を顎で示し、おい、と清次に尋ねた。
「そいつは、俺のことを知ってるのか」
 ああ、と清次は素朴に頷いた。
「群馬の走り屋なんだよ、そいつ。ほら、前の遠征の時に俺が最初に叩いた峠で、やたら遅いGT−Rがいたって話したじゃねえか、そのドライバーでな」
 確かに遠征のごく序盤、ヒルクライムで極度に遅いR32スカイラインがいたという報告を受けた記憶が京一にはあった。それ以降は話題にも出なかったその32のドライバーがこの男で、清次はそれを縁としてこの男と知り合ったのだろう。ならば自分の素性が知られていることもおかしくはない。京一が納得すると、俯いていたその男が顔を上げ、清次、と呼んだ。あ?、と清次は不思議そうに男を向いた。
「何だ」
「お前……やたら遅いってのはねえだろ、やたらって」
「え、いやだって今は別にしても、お前あの時はどこの初心者かってくらいにまで遅かったじゃねえか、いつの間にか自爆してやがるし」
「それは否定はしねえが、しかしお前」
「お前があの時あんだけ遅かったから、俺にしたって楽々勝って京一に言えたってのがあるし――」
「だからって! 遅い遅いと連呼をするなと言ってんだ、俺は!」
「ああ分かった、分かったからとりあえず落ち着けって、な」
 憤懣やる方ない様子で怒鳴り、清次に制された男が、京一をちらと見上げ、クソ、と舌打ちした。その時京一は初めて男を直視し、その顔に女性的な要素が一つもないことを見て取った。短く硬そうな黒髪、骨ばった輪郭、削げた頬、太い眉、眼光鋭い大ぶりの目、がっちりとした鼻、手入れのされていないような厚い唇、どれもが男くささを強調している顔だ。これを可愛いと言ってのける清次の感覚について、京一はやはり理解しかねたが、しかし怒りと羞恥に赤く染まり、自尊心が削られているような様子については、同情などではなく、うなじを撫でられるような異様な感触を得ており、引き伸ばされていく己のこだわりを自覚しながらも、京一は改めて清次に尋ねていた。
「そいつとお前が、何でそんなことになってんだ」
「あ? ああ、俺が惚れたんだ」
 振り仰いできた清次の答えは簡潔この上なく、京一はそれ以上の追究をすることの意義を失った。



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