考察もどき

中里毅

おおよそ

 妙義ナイトキッズのメンバーで、リーダー格・妙義山最速と認識されていた男。愛車は日産スカイラインBNR32Vスペック2。以前はS13に乗ってドリフトを決めていたが、何を機としてかR32に乗り換える。(1)
 実体験を踏まえた『ドリフトを卒業した走り屋がグリップで走るのが速い』という信念も持ち、その理論の正しさを秋名山でのハチロクとのバトルで証明しようとした節があった。
 S13に乗っていた頃から走り屋としては有名で、GT−Rに乗り換えてからは高橋兄弟と並ぶほどに名が知られおり、彼らと匹敵する実力を持つと言われていた。すなわち中里と高橋兄弟をもって群馬県内の二台勢力であった。(2)

 登場するのは1・2・3・4・5・7・8巻。その中で高橋啓介に勝った直後のハチロクに秋名で負け(3巻)、ハチロク対FCを庄司慎吾とともに観戦し(5巻)、ホームである妙義山で高橋啓介に破れ(7巻)、岩城清次に敗れて(8巻)、以後原作単行本中には出てこない。

 初登場である1巻では、ふっくらとした顔つきに短い黒髪太い眉四角い目、力の入ったセリフなどから田舎の一途な童顔兄ちゃん風だったが、原作単行本の8巻にもなれば厳つさがババンと出るようになっていた。
 語尾に「ぜ」をつけることが多く、古風な言い回しをしたかと思えば若者的な素朴さ優しさ丁寧さを出したり、かと思えば粗暴だったりで多彩な口調を持つが、セリフには一貫した独特さがある。また走り屋がまとうオーラについて語った第一人者でもある。
 登場シーンは大概が気合に満ちており、涼介にお前じゃ下りでハチロクには勝てないなどと言われて熱するだけのプライドや、拓海とバリバリ友人で自分も速いんだぜという樹のウソも頭から信じるほどの純粋さ、啓介に対し喧嘩腰に話してかかる意地の強さなどを持つ、熱血漢であった。

(1)アニメとCDドラマによれば、S13に乗っていた時分、R32乗り島村栄吉に妙義山にて敗れたためである。
(2)ただし池谷が3巻にて「高橋涼介以外にもウデのいい走り屋はまだゴロゴロいるよ、群馬はレベルが高いからさ」だとか慎吾が8巻にて「群馬エリアにはまだまだ速い奴がいくらでもいるんだ!!」と言っていたりもするので、よく分からん。

経過

 1巻の最後で妙義ナイトキッズというチームの存在とGT−Rの強み、ロータリーへの敵対心を露わにしながらの登場をし、それによる高橋兄弟との縁を感じさせた。また通っていくハチロクの後ろ姿によって実力を見て取り、単なる脇役ではないことをアピールした。

 2巻では高橋啓介に勝った秋名のハチロクに興味を持ち仕留めることを心に決める。のちにハチロクに会えはしないかと走っていた秋名山で偶然高橋涼介の後ろにつき、涼介8割ドライブについていって頂上にて初対面。そこで「ロータリーなんざGT−Rの敵じゃねえってことを思い知らせてやる」として秋名のハチロクに勝つことを涼介に宣言する。
 バトルの申し込みに拓海の働くガソリンスタンドへ行くが不在、樹をスピードスターズのメンバーと見なし伝言を頼む。高橋涼介の存在を意識しながらグリップ走行の絶対性を知らしめんとし、結局ハチロクに負ける。

 その後は同じくハチロクに負けたチームメイトの庄司慎吾とハチロク対FC観戦に訪れている。それは5巻であるが、その前の4巻では、兄の勝利への信頼とハチロクへの期待とこだわりとでむしゃくしゃしている高橋啓介が秋名山で走らせていたFDの後ろに途中からつき、頂上まで煽っていった。頂上では高橋啓介とおそらく初対面、慎吾を引き合いに出してハチロクについて会話をした。5巻ではハチロクの勝利を見た直後、FRに懐かしさと羨望を持っているように描かれている。

 7巻では妙義山にてレッドサンズとの交流戦行い、高橋啓介のFDにヒルクライムで敗れる。その時受けたショックを引きずり、8巻では群馬に侵攻してきたエンペラーのエボ4使い、岩城清次に妙義山のヒルクライムで敗れる。そしてそれ以降原作単行本中からは姿を消す。

バトルについて

 第一戦は3巻、秋名山の下りで対ハチロク(藤原拓海)である。中里は先行しながらも序盤のストレートで手を抜き、コーナー勝負に持ち込んで完膚なきまでにハチロクを破ろうとしたが、結局コーナーで差を詰められ、5連ヘアピンでインをブロックし溝落しを使わせないようにするまではよかったものの、外から攻められカチーンと切れて負ける。その詳細とは、イン側をぎりぎり一台通れないまで開けて最速ラインを取ろうとしたが、アンダーを出したところを縁石に乗り上げながらハチロクが飛び込んで(あるいはハチロクの進入によってアンダーを出したか)同時に並び、抜きにかかった立ち上がりでタイヤがもたずスピン、ガードレールにぶつかって回って止まる、というものである。
 このバトルでは、中里毅というドライバーはGT−Rという車の特性を生かした走りをこなしたと描かれている。また中里がバトルに勝利するのではなくFRに対して優位性を持ちたいという欲求を持っており、適確な運転技術を殺すほどの感情的な性質を持っていることが窺える。

 第二戦は7巻、妙義山の上りで対FD(高橋涼介)である。この時点での中里の扱いは拓海の感じ方やギャラリーの声や啓介や涼介の描かれ方から、既に高橋啓介よりも下で、レッドサンズとナイトキッズ交流戦としてのこのバトルでは、並んだまま最終コーナーを抜けたのちの下り坂でタイヤがもたずにFDに僅差で負けることとなる。
 啓介の実力が中里よりも勝っている面としては、タイヤを労わるドライビングができること、涼介のアドバイスを得て独学では身につけられない広い視野を持ったことなどが描かれていたと思われる。
 これによって中里が啓介よりも下であると決定されるが、バトルの中に中里側に不利な条件がないわけではない。まずナイトキッズのダウンヒル最速を自負してやまない慎吾の欠場、これは中里に一人で上りと下りを決めなければならないというプレッシャーをもたらしたのではなかろうか。また原作中でもバトル中盤からの降雨では先行していた中里により多くのプレッシャーがかかったと考えられ、技術の差があったとはいえ万全の状況でのバトルだったとも言い切れないだろう。

 第三戦、最終戦は8巻、妙義山の上りで対エボ4(岩城清次)である。これは地元で啓介に負けたことによって自らのドライビングに迷いを持ってしまった中里が、ペースを崩し岩城清次に追いつけぬうちに単独クラッシュという敗北で終わった(ツボにハマれば速いがプレッシャーに弱くキレやすい、という作者による的確な性質説明が最終登場のここにてなされるというのも皮肉である)。ここでも慎吾はバトルに出ていないため、右手の怪我が治っていないと考えられ、やはり中里は一人でチームを支えなければならない状況にあったのだと推測される。

中里毅が果たした役割

 中里毅というキャラは作中、見事に使われている。まったく無駄なく登場し、退場していく。地球に優しい中里毅である。

 初登場では拓海・涼介・啓介の力を読者に分かりやすく比較する存在であり、2巻では涼介がハチロクに対して抱くこだわりを浮かび上がらせ、樹の勝手や祐一さんの挑発はあったものの拓海が初めて自らの意思でバトルのためのバトルをする相手となった(啓介の時はガソリン満タンがかかっていたためだしね)。
 対ハチロク戦では中里自身も直接批評しているが、啓介を介してもFD戦では明らかにならなかった拓海の技術を読者に説明させるような走りをしており、GT−Rがハチロクに負けるシチュエーション作りとしての、元FR乗りのためのFRへの執着と情熱的でキレやすいなどのキャラ設定はわざとらしくなく、最後ではGT−Rが負けたのではなく自分が負けたとして、車自体を貶める結果も出さないという、物語に一点の不足も残さずに登場と退場を行った。
 3巻ではハチロク戦以降直接出ることはないが、中里の敗北をきっかけとして慎吾が登場する。4巻では啓介がハチロク対FD戦を前にして抱いていた微妙な感情をそれとなく引き出しており、5巻ではハチロクとFCのバトルを慎吾とともに観戦し、読者にバトルの流れと最終的なポイントを見事に解説している。バトル後はFRを誉める役割まで担っている。
 7巻では高橋啓介の成長の尺度となり、8巻では群馬エリアにやって来た新たな敵たる清次の力を引き立たせ、そのやり口を第一に味わうコマとなった。つまり最後の最後まで物語の説明に噛んだのである。

 多くは速さの基準として、またBNR32の特性を表す象徴として、そして拓海や啓介といった主役格から慎吾と清次といった脇役までの性質や能力を遠回しにあるいは直接的に説明・解説する道具として活躍した。
 そうでありながら、最後まで「らしさ」を失わなかったところこそ、中里毅という人物の真髄かもしれないなあなんて思っちゃったりなんかしたりするのである。

中里毅のその後

 対FD戦の敗北で思いきりの良さを失い清次inエボ4とのバトルにて敗れてしまった中里のその後は、原作単行本中では描かれていない。
 エボ4とのバトルでは清次の速さを強調する役割となっているが、その清次は京一にドラテクは一流だが頭が悪いと言われた挙句に秋名でハチロクに負け、赤城では高橋啓介に負け、いろは坂でも小柏カイに負けており、敗戦のショックを引きずっていたとはいえその後にそうして負け続けている清次に負けた中里は、群馬エリアを飛び出した上にR34までが出た原作の現状とパワーバランスとを考えれば、今後仮に登場することがあっても、それはエピローグ的にだろうと考えられる。

 ただし番外編があったり、アニメなどでは扱いがよく、原作では登場のないシーンまでもちょろっと顔を出していたりもしており、あるいはそれで打ち止めということかもしれない。

 最後に中里の力を考えるならば、レッドサンズとナイトキッズの交流戦にて、啓介はあくまで独学のドライビングに限界があると思っているのであって、中里の走り屋としての技術に限界があると思っている様子はない(敵ではないと思ってはいたようだが)。作者によって公道のGT−R使いとしてはほぼ完成の域にあると明示されてもいたため、中里には実力そのものはそれなりにあるものだと考えてよいだろう。妙義山のヒルクライムで清次に負けた原因は己の積み重ねてきたドライビングに対する迷いであるから、それを吹っ切って元通りの思い切りの良さと客観的視点を取り入れていけば、完全な計画と設備を用意するプロジェクトDにはそうそう敵わないだろうが、イイ線はいけるのではないかと思われる。

おわりに

 で、まあ何かと言えばつまり、中里さんってえのは可愛いなあってことです。

庄司慎吾

おおよそ

 妙義ナイトキッズ下り最速を自称する男。その速さは中里やナイトキッズメンバーも認めるところであり、池谷も突っ込みの鋭さでは拓海に引けを取らない、むしろ拓海以上ではと驚いていた。愛車はホンダシビックEG−6。左足ブレーキやサイドを引いてのドリフト、右手をステアリングにガムテープで固定した上で行うバトルなど、FFの特性を生かした走りを得意とするが、ホンダがFRを出したら買い換えると言っていたりもし、ホンダ(のエンジン)に惚れ込んでいるような発言も残している。

 登場は3・4・5・7・8巻であるが、バトルはハチロクとのガムテープデスマッチ、たった一回である(3〜4巻)。他はFC対ハチロク戦でギャラリーとして中里と解説をしたり(5巻)、R32対FD戦での中里の勝利を信じたり(7巻)、中里を負かした群馬侵攻第一波エンペラー岩城清次に対してちょっと噛み付いたりするくらいであった(8巻)。

 頬までかかる染めた前髪と張り出した頬骨、二重顎に突き出た唇、吊りあがり気味の一重など、美形とは決していえないがどことなく愛嬌のある個性的な顔立ちで、人を小ばかにした笑いが似合う。ただし5巻以降はシリアスな場面が多く、ほとんど笑うことはない。また3巻の初登場時に比べると、8巻の最終登場時の顔はふくらみがちである。

 特筆すべきはその残虐性と人間味が両立している点である。最初の頃はFRを後ろから突っついてスピンやクラッシュをさせても平然と愉悦を感じるようなあくどさを思わせる風であり、拓海とのバトルにおいては勝利を収めることを前提として、ハチロクをスクラップにする目的でガムテープデスマッチを選択するほどの冷酷さを発揮したが、勝てないと悟った最後はダブルクラッシュに持ち込もうとするなど計算的ながらも自滅的で、そして自分の車についた傷を見て涙ぐむ繊細さを見せた。
 またレッドサンズとナイトキッズとの交流戦では、自分が怪我をしたことによってダウンヒルに出られない責任を感じやはり涙ぐんでいたり、懸命に走る中里を思い浮かべて胸を締め付けられていたり、清次に群馬エリアについて吠えたりと、巻を追うごとに人間性が表れるようになり、完全な悪役として描かれることはなかった。
 一度しかバトルをしていないため(しかもそれは変則的である)、その実力の全容は知れないが、右手をガムテープに固定した状態で苦もなく走れるように山のように練習したりと、技術を獲得するためにそれ相応の努力をしていることから、確実に速い走り屋であることは間違いないだろう。

経過

 初登場は3巻、中里が負けたことを喜び、秋名のハチロクに100%勝てるデンジャラスなバトルの実行をファミレスにてナイトキッズのメンバーに宣言する。その後、秋名を走っていた池谷のS13のバンパーを突っついて煽り、煽って押してスピンさせ、スピードスターズであることに目をつける。
 再び秋名山に現れ、ぶつけたことを謝れと言った池谷を「いやらしい言い方」で「走り屋としてのプライドをズタズタ」(by健二)にして挑発し、負けたら地べたに手をついて謝ることを条件として拓海をガムテープデスマッチの壇上へと引きずり出した。
 ハチロクとのバトルでは拓海の技術と己の体面に恐怖と焦りを感じ、余裕を奪われ最後にダブルクラッシュに持ち込もうとしたが、ハチロクにかわされシングルクラッシュに終わった。
 右手を痛め、傷ついたシビックを見ながら涙ぐんでいたところ、拓海の無事を考えながら追ってきた池谷たちに見つけられ、優しさをかけられて、しょんぼりとしながらも「すまん、恩に切るぜ」と言う。それが4巻である。

 5巻では中里とともにFC対ハチロク戦を肝となる位置で眺め、それまで仲が悪いと言われていた割に根本的には仲が良いと思わせる息の合った解説を行う。秋名以外の場所にあいつを引っ張り出してみたい、と言った慎吾の希望は6巻で碓井のシルエイティによって実現されることとなる。
 怪我が治らないため、7巻でのレッドサンズとナイトキッズの交流戦ではバトルはなく、中里に仲間意識を感じて勝利を信じるのみだった。8巻でもバトルには出ず、「群馬エリアにはまだまだ速い奴がいくらでもいるんだ!!」というセリフが最後である。

バトルについて

 慎吾の原作単行本中唯一のバトルが、秋名山の下りでの対ハチロク戦である。FFでなければ100%事故ると言われるFRつぶしのルールでのバトルの序盤、慎吾はアクセルを抜き余裕をこいてハチロクの挙動を見物した。ハチロクは第一コーナーで早速「行き」かけたところを間一髪で切り抜け、事故を誘発するようどんどん煽っても少しの間で安定して走るようになり、愕然としながらも慎吾は目的である解体屋直行を狙って、車体をぶつける。そしてスピンしかけるも奇跡的にハチロクを立て直した拓海はブチキレ、慎吾はその荒唐無稽と完全無欠が並存する走りにぞっとし、溝落としにくるところをぶつけられると勘違いしてビビり、抜かされる。抜かされて負けるとなっちゃあ面子がないので二台で仲良くクラッシュさせようとするが、ハチロクの突っ込みについていけずに一人ぶつかるのだった。
 負けはしたが、勝ちさえすれば何でも良い、という慎吾の信念が貫かれたバトルだっただろう。慎吾とつるんでいたナイトキッズのメンバーの言から考えると、おそらく慎吾はこれまで多くのFR車を妙義山などでスクラップにしたと考えられるが、そこまで極められればいっそ天晴れである。そしてデンジャラス。

 さて、ハチロクとのバトルが慎吾の最初にして最後のバトルとなったわけだが、このバトルによって拓海は「ターンイン直後に大きめのカウンターを当てる」という涼介が欠点と見なしていたクセを克服した。それが実際にハチロク対FC戦においてどれだけの影響をもたらしたかは明確にされていないが、少なくとも涼介をわずかでも脅かしたことは事実であり、慎吾との綱渡り的バトルが拓海の成長を促すとともに、その車への愛着を一層喚起したことは違いなく、池谷を突っついたり中里をバカにしたりしながらも、慎吾は作中重要な役割を果たしていると言える。

おわりに

 庄司慎吾という人物には深いものがある。妙義山のダウンヒルスペシャリストだの何だのと何度となく自分で言ったり人に言われたりしながら、その実力は拓海とのバトル以外で見せられることはないのだが、繰り返してそう言われているためか中里を基準とできるためか堂々とした風貌と態度のためか、どこか説得力がある。
 また登場後期には斜に構えつつも所属意識を持った凶悪って感じはないチームの一員といった様子になり、その過程で登場初期の残酷な振る舞いからのギャップによってかなりの人間性が浮き出てくるのだが、しかしそれでも慎吾という走り屋はFR車を突っついてはとっちらかして楽しんでいたように描かれている。中には慎吾が遊んだためにクラッシュして大怪我を負った走り屋もいるかもしれない。例え慎吾が自分の車がボコボコになったことで泣こうが中里の勝利を中里自身のために一心に願おうが群馬エリアに愛着を持とうが、既に描かれた事実が消えることはなく、それがある限り、右手が完治すればガムテープデスマッチは続けるのか、あるいは中里と和解をして危険行為からは決別するのか、はたまた持ちかけられればやるという程度にしか取らなくなるのか、彼については様々な可能性が考えられる。妄想の宝石箱である。
 だがいずれにせよ、最初に車好きは強調されていたとはいえ、これ以上もないほどのヒールとして描かれた慎吾は、決して無垢な善人にはなりきれない。またそれゆえに慎吾の速さというのは際立ち、そこには強烈な個性が刻まれているのかもしれないのである。

 つまり何かと申しますれば、そんな彼の様々な先々を、妄想せずにはいられないということでして、レッツ妄想!