誤解の招き方 7/7
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 春といえば裸である。
 異論は認める。世間様的には、春といえば桜とか花見とか団子とか新生活とか道端に落ちてる軍手とかだろう。
 けれども俺たちにとっては、春といえば裸だ。正確には半裸だ。いくら俺たちでも下半身丸出しでうろつくほど犯罪者ではない。大事なところはキープしつつ、冬の間着込まなければならなかった衣類を脱ぎ捨て峠の空気を素肌で味わう面々がそこらに転がっているのが、我らがナイトキッズにとっての春なわけである。ちなみにメンバーは余すところなくオスなので、露出されてもまったく一切ひとっつも嬉しくはない。むしろ悲しい。切ない。目に悪い。それは月に向かって吠えたくもなるものだ。人類の半分くらいは女のはずなのに、なぜここには女体が一個も存在しないのか! ファック!
 いや失礼、つい取り乱してしまった。メスが見当たらないことくらいでめげていては、走り屋なんぞやってはいられない。メディアに悪の権化扱いされたり環境保護主義者に存在価値を否定されたり女の子にダサイと思われたりしようが、俺たちは車が好きで走りが好きで、山が好きだから、チームを作って夜な夜な峠で裸になったりするのである。何か違うと思ったそこのあなた。それは暗黙の了解というやつだ。
 我らがナイトキッズのホームは妙義山。ここで俺たちは、酒の代わりに缶コーヒーやらお茶やら飲んではクダを巻いたり取っ組み合ったり変質者を退場させたりみんなの走りを眺めたり、コーナーに高速で突っ込んで滑って回ってみたりする。
 しかし我らがリーダー毅さんは、基本言いっぱなしやりっぱなしな俺たちと違って真面目な走り屋だ。日々32のGT−Rを精力的にぶっ飛ばし、妙義山上り下りのコースレコード更新に励んでいる。命がちっとも惜しくなさそうな走りをするくせ、生活感丸出しで当たり前に明日を迎えられる、強気で頑固で優しくてどっか抜けてて女にモテない、俺たちにとってはたった一人オンリーワンの飛びきり最高な走り屋、それが妙義ナイトキッズのGT−R使い、中里毅さんだ。
 そんな真面目な毅さんは、春になっても裸にならない。他の奴が一緒に素肌で春の息吹を感じましょうと誘い、毅さんが俺を巻き込むなと断る流れは、我らがナイトキッズの春の恒例行事である。
 ちなみにチームには一人、限定的に真面目な走り屋がいる。自称妙義最速ダウンヒラーこと凶悪ドライバー庄司慎吾。EG−6乗ってるこいつは自分で言うだけあって下りが滅法速く、俺たちじゃあとてもついていけないが、いかんせん性格が見事にねじくれてるんで、ついていけなくてもまあいいや。とは俺一人が思うだけではなく、皆の総意である。例外はない。だって怖いんだもの、慎吾。
 そんな触ると危険な慎吾が、毅さんに裸になりましょうとすがる奴を後ろから無言で蹴り倒すのも、我らがナイトキッズの毎春恒例行事だ。去年の夏頃は毅さんを一方的に毛嫌いして険悪な雰囲気作りまくってたくせに、今じゃちゃっかり相棒的二番手位置に居座ってるあたり慎吾は都合の良い野郎だが、毅さんの純潔を警護しているのだから文句は言わないでおいてやろう。何か違うと思ったそこのあなた。それも暗黙の了解というやつだ。
 さて、裸にならない毅さんはいつものことなのだが。今年はいつもじゃないことが起こっている。我らがナイトキッズの存亡がかかりそうなくらい重大なようで実際そんなことで存亡云々ってなるほど立派な組織じゃないから別にどうにもならないがちょっと俺たちじゃ手に余るよなあ、ということである。

 ここ群馬には、プロの世界にも名が轟くほど偉大な走り屋がいる。既に引退しているが、影響力はいまだに衰えない。その男、高橋涼介。マツダRX−7FC3Sを乗りこなす白い彗星、関東制覇を掲げて結成された赤城レッドサンズの創始者、峠を歩けば女の子の黄色い歓声が乱れ飛ぶ、いわゆるかなりのイケメンである。どっからどう見てもイケメンである。イケメンの基準がこの人になったら世の大抵のイケメンもどきは駆逐されるに違いないクオリティのイケメンである。俺たちはそういう女が騒ぐ人種を敵視してやまないが、そこは我らがナイトキッズ、群馬のカリスマ様に喧嘩を吹っかけるほど無鉄砲な集団でもない。命は大事だ。
 そんなカリスマ様をなぜ取り上げるかといえば。そのお方が、最近妙義山によく現れるからである。それはもう、何でやねん! と本場の人にシメられそうなツッコミを入れたくなるくらい、よく現れる。だがその目的は明らかだ。明らかに、毅さんなのだ。

 いわゆる諸事情を含めた話は、去年の冬前にさかのぼる。ある日栃木の走り屋チーム、エンペラーの白いエボ4乗り岩城清次という岩な人が、ここに一週間通い詰めるという俺たちでもやらねえし頭が可哀想なことになったんだな的行動を取ってくださった。
 その秋、毅さんは岩城さんに、ここの上りで負けている。途中リタイアって完走すらできなかった最悪パターン。あの時のエンペラー御一行が失せた後の毅さんの落ち込みっぷりといったら、誰も冗談言えなくなるほどだった。事故って全治三ヵ月食らおうが彼女と別れようが離婚しようがクビになろうが必ず冗談ぶちかまされる、常時無礼講モード我らがナイトキッズの一人も声かけることできなくなるほど、毅さんはズタズタに傷ついていたのである。その痛手を食らった記憶も古くはなってなかっただろう毅さん、去年の冬前、岩城さんの通い詰めを思い悩んでいたようで、一週間目に高橋涼介さんに助けを求めに行った。というか、エンペラーのリーダーである須藤京一に岩城さん引き取りをお願いするため連絡を取りたいが連絡先知らないから、高橋涼介さんに聞きに行ったのである。
 須藤さんはエボ3のドライバーで、その昔カリスマ様に自分のホームであるいろは坂でギッタンギッタンにノされたらしい。察するに余りあるシチュエーションだ。というわけで、須藤さんはその復讐に『群馬全域制覇=カリスマ失墜』の方程式を成立させようとしたらしく、去年の秋、岩城さんをその先鋒として妙義山に送り込んできた。雑魚は二番手に任せるって合理的判断。ご自分は最後カリスマ様と赤城決戦とシャレ込んで再びノされていたが、まあつまりは指揮官である須藤さんの命令ならば隊員である岩城さんも聞くだろうし、因縁があるだけにカリスマ様なら須藤さんの連絡先を知ってるだろうという拡大解釈によって、毅さんはカリスマ様のもとへ足を運んだわけだ。
 実際、毅さんの赤城訪問の直後に須藤さんは岩城さんを迎えに来て、岩城さんはいなくなって、毅さんの心労は取り除かれた。めでたしめでたし。
 で、終わっていれば今、こんなことにはなっていない。当然話はまだ続く。その後のことだ。何と須藤さんが一人でまたいらっしゃって、秋刀魚を食べた。その日は偶然秋刀魚パーティが開かれていたのである。俺もつまみ食いをしたが、脂の乗った焼き立ての秋刀魚の何と美味たることか。ピリリと辛い大根おろしとしっとりとした身の塩焼き秋刀魚が口の中で一体化するあの瞬間、もうたまらない。ああ、秋刀魚食いてえなあ。伊達さん、また持って来てくれねえかなあ。
 話に戻ろう。
 その日、毅さんも須藤さんもうまそうに秋刀魚を召し上がって、秋刀魚についてやチームについてや走りについて等々話した末に、上まで一緒に走っていった。そして須藤さんは一人で帰り、その後に下りてきた慎吾の機嫌はすこぶる悪く、俺たちの中では『須藤京一が慎吾に喧嘩を売った』という認識が共有された。藪蛇好きな奴でもちょっかい出さずに逃げ出すほど慎吾の機嫌を悪化させるのは毅さん絡みが鉄板という事実と、須藤さんが毅さんと秋刀魚を食っているうちに良い感じになっていたという現象に基づいて、我らがナイトキッズは須藤さんが毅さんを巡って慎吾に喧嘩を売ったのだと推測したのである。のちにそれを慎吾に直接言った奴が人間不信の大海原に叩き落とされたことから、俺たちの正しさは証明された。あいつは図星を指されると容赦がねえ。ホント怖い。
 そこで終わって、いても今こんなことにはなっていない。須藤さんが帰り、その三日後。岩城さんがやって来たのだが、一週間通い詰めを悩みの種にしていた毅さんも俺たちも何だかんだ岩城さんには馴染んでいたので、それに関して特に大きなリアクションは取らなかった。もちろん岩城さんが我らがナイトキッズと毅さんをズタズタにしてくださったのは消しようのない事実だ。しかし毅さんは自分が受けたバトルで負けたからといって相手をグチグチ非難するような器の小さい人ではない。バトルはバトル、ドライバーはドライバー。それが毅さんの流儀=ナイトキッズの流儀なのである。
 問題は、その後だ。岩城さんが相変わらず暇ですねとかあんたも女いねえんだな同情するよとか言ううちのメンバーにお前らこそ相変わらず頭が沸いてやがるなと返してから、毅さんと慎吾と話し始めて十分ほど。妙義山に燃費激悪ロータリーサウンドを響かせて現れたるは白いFC、群馬の至宝、イケメンカリスマドライバー、高橋涼介だった。
 その方がFCから出てきた瞬間といったら、さすが一時代を築き上げた、というかまだ築き続けてますか系な走り屋、もうオーラが半端なかった。やばかった。やばいしか言葉が出てこないくらいやばかった。やべえよホント。何かキラキラしてた。全体的に。光ってた。無意味に。それは俺たち全員ざわめいてしまうものである。何が起こるか注視してしまうものである。
 そんなカリスマ様は、うちで毅さんと話して、焼き芋を食べて、毅さんを抱きしめて、帰って行った。うん。さつまいもは良いとしよう。大地さんのさつまいもは俺もおいしくいただいた。蒸かし芋も大学芋もいいが、あの皮はパリパリ実はホクホクねっとりしっとり甘み最高の焼き芋はやはり格が違う。うまいものを食べるのは実に良いことである。それはまったく問題ない。
 さつまいもを食べた後、カリスマ様は毅さんを抱きしめて、お帰りあそばせた。そこが問題だった。俺もその時の様子は見ていたのだが、毅さんに抱きついた彗星様、何かもう、超笑顔。超幸福感発しまくりで、離れて見てても毅さんにメロメロなのが丸分かりだった。誇張はない。毅さんの身に起こる現象を誰か一人は必ず画像に収めている我らがナイトキッズは当然ながらその証拠も保全しているが、あんなうっとりした笑顔で抱きつくなんて、メロメロな人間以外はありえねえ。ありえねえ。
 というわけで、俺たちは『毅さんが高橋涼介を悩殺した』という判断を下した。誰も否定サイドに立つ奴はいなかった。もちろん俺もだ。あれは悩殺だ、間違いない。我らが毅さんが、群馬のカリスマ高橋涼介を悩殺。何と素晴らしいことだろう。毅さんの魅力が高橋涼介を捉えたのだ。ナイトキッズ万歳、毅さん万歳である。めでたしめでたし。
 で終わっていれば以下略、である。
 去年の話は更に続く。その翌日だ。妙義山には須藤さんが現れた。カリスマ様の後に栃木の皇帝である。しかもその皇帝様は、毅さんと至近距離で話しながら、肩を抱いていた。俺たちでも毅さんの肩を抱いて話すなんてことはそんなにない。ないこともないが、いつもというわけではない。だというのに須藤さん、会って三回目で毅さんの肩を抱いた。それを言うならカリスマ様も会って何回目かに違いないのに抱きついているわけで、何かもう、毅さん万歳っていうか悩殺力高すぎてやべえというファンタスティック毅さん論調と、全方位的にフェロモン出してんじゃね? ちょっとやばくね? というデンジャー毅さん論調が俺たちの中で生まれたのである。ちなみに毅さんが幸せなら何でもいいじゃんというハッピー毅さん論調もあるが、それは我らがナイトキッズ結成時から続いているものなので、敢えては取り上げない。
 その後、チームが冬眠期間に入るまで、カリスマ様と須藤さんは妙義山に一回ずついらっしゃった。岩城さんは二回来た。三人とも来る日は違ったが、皆々様必ず毅さんと話して帰っていった。その楽しそうなことといったら、女体が存在しない妙義山に季節外れの桜が咲きまくっている幻覚が見えたほどである。割とマジで。

 そして、現在。春である。今日も今日とて我らがナイトキッズの一部メンバーは裸である。正確には半裸である。いつものことだ。そして、いつもではないことが起こっている。
 ここまできたら、結論を言っても理解は得られるだろう。
 今、毅さんはモテている。
 我らがナイトキッズの基本理念はドントヘイト毅さん=ウィーラヴ毅さんだから、俺たちに毅さんがモテるのはいつものことだ。それは変化がない。進歩がないとは言ってはいけない。敢えて進歩せず、進化と深化を図る我々なのである。
 繰り返しになるが、毅さんは俺たちにモテている。それはいつもだ。変わりがない。それで何がいつもではないのかといえば。毅さんがモテているのが、三人のよその野郎の走り屋に、ということである。
 まず一人目のよその野郎の走り屋は、栃木のエンペラーの岩城清次。顔の悪い奴は性格も悪いという方程式を慎吾と同レベルで成立させている存在感のこの人は、妙義山をまあまあ面白いコースだと評していて来る度に何回かエボ4走らせてラリー疑似観戦をさせてくれるが、大抵は俺たちとダベっている。そして普通にくだらねえ話を交わした後、毅さんが近くにいたら至近距離から下ネタぶっ放して猛烈にうろたえさせて真っ赤に燃やして爆笑を誘い、ご本人も全開で笑って、帰って行く。その楽しそうなことといったら、春の妙義山にラフレシアが咲き乱れている幻覚が見えるほどである。一方近くに毅さんがいない時の岩城さんはテンションメーター下がりがち、紅葉がよくお似合いである。後は散りゆくさだめである。
 以上から、岩城さんは毅さんに絡むのを楽しみに妙義山に来ているので、毅さん目当てである。ゆえに毅さんは岩城さんにモテている。確定である。異論は認めない。今日もこの後きっと毅さん、さっきまで他の奴らと風俗話で盛り上がってた岩城さんにこっそり下ネタを飛ばされることだろう。それにしても栃木には顔面レベルは生物兵器並だがテクニックもプレイ数もドツボにハマるほど最高な嬢が揃っている店があるらしい。栃木パねえ。俺も一回行ってみてえ。
 それはさておき。
 二人目のよその野郎の走り屋は、同じく栃木のエンペラーの須藤京一。どこの現場で家建ててんですかと聞きたくなる風情のこの人は、ふらっとやって来る。だが俺たちは知っている。須藤さんは毅さんに連絡をした上で、ここに来る。この前今年初来訪の須藤さんに、ぶっちゃけ毅さんのスケジュール確認して来てたりするんですかとその時の話の流れを無視しまくった質問をした奴がいた。須藤さんはそいつに拳という名の熱い返事は叩き込まず、その場にいる俺たち全員に対して、無駄足踏むのは好きじゃないんだ、という穏便かつ大胆な毅さん狙い宣言をなさったのである。ゆえに毅さんは須藤さんにもモテている。異論は認めない。
 俺たちは知っている。須藤さんは、事前に毅さんがいることを確認した上でこっちに来ているのだ。そして毅さんとゆったり話し合って、ゆったり走り合って帰っていく。その二人のかもし出す空気といったら平和な熟年夫婦のようなまったりさで、慎吾がいちいちぶち壊そうとするほどである。須藤さんは運転下手な奴に意見聞かれても気休めは言わない公平で冷静で下ネタ嫌いな堅物の割に、ちょくちょく慎吾並の毒を全然顔色変えずに吐いちまう地味にキツめな人なのだが、毅さんと話している時は、ごっつごつなのにやっわらかい笑顔なんて見せちゃったりする。急に腹抱えて笑い出しちゃったりもする。俺たちと話している時と明らかに別人である。ここから須藤さんも毅さんに悩殺されたという推測が成り立つが、我らがナイトキッズは毅さんが須藤京一を悩殺したよ派とと見せかけて須藤京一が毅さんを悩殺しようとしているよ派に分かれているため、毅さんが須藤さんにモテていることと同等の確定には至っていない。

 そして、本日。いつもではない象徴であるエンペラーサイドのお二人が、我らがナイトキッズの一部裸が舞い飛ぶ妙義山に、初めて一緒に訪れている。これには毅さんも驚いていたが、須藤さんは休暇中に仕事の関係者のご接待をしていたところ偶然岩城さんと合流したそうだ。道理でデニムシャツにチノパンとラフってる岩城さんと違い、須藤さんはピッチリダークなジャケットスタイルである。でも頭にはタオル。タオル。なぜタオル。須藤さんが頑なに頭にタオルを巻き続ける理由はいまだに俺たちの間では謎である。慎吾が頑なに毅さんラヴであることを認めない理由と同等のミステリーである。幾分ホラーだ。
 そんなプチミステリアスな須藤さんは観光好きな人間と出歩くのは負担が大きいと愚痴り、毅さんはパワーが違うよなと苦笑する。この二人、相変わらず安定しきったカップルのようである。それはパーカー戦士慎吾の奴も、休みくらい休める時に休んどきゃいいんじゃねえの、という健康への思いやりに見せかけた退場促しコメントも残してしまうわけだ。
「配慮してくれるのはありがたいが、今日中に口直ししとかねえと、後味が悪すぎてな」
 須藤さんは顔色変えずに噛んでみてからこれ何か変なもの入ってませんかねと思うレベルの異物を発言に混入させて、慎吾は棒読みの相槌打ちつつ愛想良すぎて怖い笑顔を浮かべ、毅さんは後味の悪い接待を想像するように宙を睨み、他の奴が「そんなまずいもの食べたんすか?」と須藤さんに頭の悪い質問をして慎吾に叩かれ、岩城さんはそんな慎吾を妙な顔つきで見て、俺たちは笑っている。笑うしかない。慎吾と須藤さんの話は巧妙な駆け引きのオンパレードである。俺たちは頭の悪い質問はできても、中身にはついていけないのである。その繰り返される駆け引きのザ・起源毅さんは、ついていけないというか、駆け引きがあること自体に気付いていないはずだ。
 今、毅さんはモテている。そして、毅さんにその自覚はない。これが我らがナイトキッズにはちょっと手の余り気味な事態を招いている最大の原因である。自覚のない毅さんは、誰が来るのも拒みはしない。だから今日、岩城さんと須藤さんが妙義山に揃っている。毅さんと我らがナイトキッズのステッカーといくらかのプライドをここでズタズタにしただけはある岩城さん、カリスマ様のお城でカリスマ様とタメ張る走りを終盤まで見せた須藤さん、この二人が揃っていることの走り屋的な意味でのレベルの高さではない、ある意味のレベルの高さに気付いていないのは、毅さんだけだろう。

 ところで、もう一人。明らかに毅さんを目的としてここに来るお方がいるのを、覚えているだろうか。
 毅さんには自覚がない。毅さんは誰も拒まない。だから、ここにはよその走り屋が来る。
 そして、今日、来た。現れた。俺たち誰もがその時期と種類を予想していた走り屋バッティング、それがついに、発生したのだ。凶悪ドライバーに爆弾岩さんに皇帝様が揃っているこの初めてシチュエーションで、妙義山に燃費激悪ロータリーサウンドを響かせて現れたるは、白いFC、群馬のカリスマ、赤城レッドサンズのリーサルウェポン、半端ないオーラ、やばい存在感。そのお方、高橋涼介。

 春になり、カリスマ様は新しいチームを結成した。赤城レッドサンズをベースにした少数精鋭県外遠征特化チーム、プロジェクトD。名称の意味は知らない。聞いてもカリスマ様はキラキラな微笑みを浮かべるだけで、教えてはくれないのだ。
 そう、俺たちの中にはそれを高橋涼介さんに直接尋ねた奴がいる。ナイトキッズの恥だとか群馬県民の恥だとか裏金反対だとかブーイングされながらも、高橋涼介さんにサイン貰ったり写真撮らせてもらったりした奴もかなりいる。我らがナイトキッズは走り屋界隈では暴走族崩れだのヤのつく方々の下っ端だのと不人気方向に有名だ。カリスマ様が来てもカリスマ様目当ての女は一人も来ないほどの引かれっぷりである。だが実態はミーハーだらけ、光るものに弱い、毅さんラヴという、大体平和なものだ。俺たちは走り屋やってる一般人なだけで、裏社会と密接なわけでは決してない。中には肩や背中や足に色入れ完了済みの奴や歯並びがどう見てもシンナー常用後の奴もいるが、皆ステッカーの押し売りはしないし、ドラッグ等とは無縁である。チームとしては綺麗である。個人の素性は洗ってはいけない。プライバシー尊重、人権尊重である。
 カリスマ様はそんな俺たちの実情をよく分かってくださっているらしい。サインねだる奴にもパーフェクトスマイルで応えるし、言葉遣いがイッちまってる奴の話でも無視はしない。紳士だ。僻む方が敗者になりそうなくらいのジェントルマンだ。本来イケメンカリスマ金持ち野郎など俺たちの敵に過ぎないが、高橋涼介さんに限っては別である。有名すぎて攻撃するのはハイリスクという以上に、スマートに接してもらいまくりで、悪評も思い浮かばないのだ。
 カリスマ様は、お忙しい。医学生でありながらプロジェクトDの指揮も執っている。それなのに、妙義山によく現れる。一回の滞在時間は十分もいかないが、よく現れる。今年は既に四回来ている。四回。週一ペースである。岩城さんや須藤さんだってまだ一回しか来ていない。マンスリーエンペラーに比べてのウィークリー高橋涼介である。カリスマ様が毅さんに言っていることによれば、「県外へ出るからこそ地元をおろそかにはできない」らしく、毅さんはそれについて「さすがによく考えてるぜ」と感嘆していたが、俺たちからするとカリスマ様、それは立派な建前で本音はどう見ても毅さん狙いですありがとうございます。とは毅さんに言ったら失礼だと睨まれたり怒鳴られたりするので、我らがナイトキッズの大多数のメンバーは、毅さんがいる時だけ来て毅さんばかりと話をするどう見ても毅さん目当ての高橋涼介さんに、その帰り際サインや写真をねだるだけである。
 さて。毅さんがモテているよその野郎の走り屋は三人いる。一人は岩城さん、一人は須藤さん。もう一人は言うまでもないだろうが、確認しておこう。今、各自フリーダム行動中の俺たちの全員どよめかせて、須藤さんの顔色を後味の悪さが復活したように変えさせて、慎吾の愛想良すぎて不気味な笑顔を硬直させて、岩城さんにそれを嫌そうに眺めさせて、毅さんを驚かせたそのお方。引退済みの走り屋だが、誰も元走り屋とは口にできない強烈なオーラをいまだ保ち続ける男。プロジェクトDの、高橋涼介である。

 ライトなアイビールックの高橋涼介さんは、いつものようにFCを俺たちの車に並べて丁寧に停め、いつものようにパーフェクトスマイルを俺たちに振りまきつつ、足は一直線に毅さんの方へ、である。いつもではないこの人も、岩城さんに須藤さんと同様、既に我らがナイトキッズのホーム妙義山に馴染んでいる。もう何がいつもじゃないんだか分かんなくなりそうなほどだ。けれども今日は確実に、いつもではない。
「こんばんは」
「こんばんは」
 うっすら笑顔になった高橋さんがまず挨拶を交わしたのは、毅さんではなくポーカーフェイスに戻した須藤さんだった。たった二言。なのに怖い。マジ怖い。どちら様もガワが峠の走り屋とは無縁なフォーマル系だから余計に怖い。怖すぎて空気が冷たい。マジ冷たい。こんばんはと言い合うだけで周囲の人間の体感温度を零下に叩き落とせる関係をおっ立てているとは、さすがカリスマ様と皇帝様である。
「よお、高橋」
「ああ」
 一方毅さんとカリスマ様の挨拶は、メントール分とハニカミ分が良い具合にステアされた、季節を真冬から春に戻してくれる肌に優しいものだ。これなら我らがナイトキッズの半裸グループも凍え死にせずに済む。ウェルカム陽春!
「お忙しいのに熱心だねえ、相変わらず」
 そこに春から夏をスルーして、秋まで進めようとする嫌みな人間が一人。だが皇帝様とカリスマ様の主に毅さんを巡る熱いバトルに介入できるライフセイバーなど、チーム内ではこの触ると危険な庄司慎吾だけである。したがって我々の立場としては後は任せた慎吾君、砕けなかった骨くらいは拾ってやる、というギャラリー一徹だ。高度な戦術が交わされるゲームは外野から眺めていてこそ見所が分かるし、何より安全なのである。何はなくとも命は大事なのである。
「土台が盤石であるからこそ、安心して高みを目指せるんだよ」
 カリスマ様は慎吾の嫌みにも説得力のあるバリトンボイスで美しい建前を返し、季節を通常営業に押し戻す。俺たちは笑うしかない。高橋さん、須藤さん、ついでに岩城さん。慎吾の嫌みを苦にもしない、どころか慎吾以上の嫌みを返せる貴重なお方が今、ここに三人揃っているという現実。やばい。ホントやばい。やばすぎて楽しい。傍で見ているだけでアドレナリンが全試合フル出場だ。我らがナイトキッズのメンバーの大半は各自写真をバシバシ撮ったりヒソヒソするのも忘れて「うわー正面衝突してるよ」「パネェマジパネェ」「やっぱランクが違いますね高橋涼介は」「何のランクだよ」「ランクル?」と普通に聞こえる話をしていたりと、テンションダダ上がりである。次に誰がどう出るか興味津々一意専心、高名ドライバーズの一挙手一投足をガン見である。
 最初に動いたのは、慎吾の不気味な愛想笑いを抹殺した直後、カリスマ様だった。毅さんになぜか糖分百パーセントの微笑みを見せてから、その余韻を欠片も残さないクールさで、須藤さんを向く。
「その節はアドバイスをありがとう、京一。参考になった」
 どの節なのか俺たちにはサッパリだが、さすがカリスマ様との因縁保持者須藤さん、ツーカーである。即行で他人を見下す人間特有の高慢チキな笑みを、なぜか人のいない方に向け、その余韻を高橋さんと同じ速度で欠片も残さず、悟りを開いたお坊様のような顔になった。
「空々しいことを言わなくてもいい。今日の俺は機嫌が良いんだ」
 そのお顔だけを見れば、そのお言葉も説得力バリバリだ。だが先ほどの高橋さんと須藤さんの極寒こんばんは交換を見ている俺たちは、いやどこが機嫌イイんですか、と内心ツッコまずにはいられない。それをウッカリ口に出して他の奴らに光の速さでシバかれるメンバーが現れるのも致し方ない、須藤さんの変わりっぷりである。しかし高橋さんの域にまで達すると、そんな野暮なツッコミはしないのである。
「嘘じゃない。俺は誰の意見も拝聴する。参考にもな。だだ、それをどう活用するかは俺が決めることだ。他人に指示をされるいわれもない」
 カリスマ様のクールフェイスは歪まないが、須藤さんの悟りは中断されたようだ。ごっつごつな顔にあるにしては太すぎず細すぎずという眉毛と唇が、陸で昇天寸前になっている魚みたいにぴくりと動いて、いややっぱ機嫌悪いでしょ、と俺たちの間にはツッコミ突風が吹いた。
「誰が指示をしたって?」
「お前が望むなら、あの時俺が聞いた言葉を一語一句違わず再生してやってもいいぜ」
 俺たちには須藤さんが高橋さんにどんなことを言ったのかはやはりサッパリだが、お二人は分かりきっているらしい。カリスマ様の顔は至ってクール、須藤さんの顔は至って怖い。どうしても怖い。図星指されてブチギレる慎吾とは違う怖さがある。慎吾がラジカル不良ならば須藤さんはクラシカル番長、慎吾が放蕩息子ならば須藤さんは頑固親父だ。異論は認める。だが須藤さんクラスにまで達すると、いつまでもキレキレではいない。ため息一つで悟りを開き、カリスマ様との高次元でヘンチクリンな会話に臨む。
「お前は自分が神か何かとでも思っているのか」
「神も味方につけられない人間に、命は預けられないだろう?」
 高橋さんと須藤さんは目を合わせて一ミクロンも逸らさない。幻猛吹雪の中、二人の世界だ。いくらか氷が周りに漏れ出しているので、また寒い。我らがナイトキッズの半裸隊が再びの凍死危機である。そろそろこの空気を変えてもらいたいという俺たちの切実な願いが通じたのか、毅さんが出張る前に、高橋さんと須藤さんは二人同時に観念したような納得したようなため息吐いて、冷気の発生を終わらせた。
「お前の理屈も多少理解はできるようになったが、いまだに共感はできん」
「構わないさ。俺も同じようなもんだ」
「そうか。意見が合って嬉しいぜ、涼介」
「そうだな、京一」
 この上なく白々しい、心に一片の温もりも与えない融和のお言葉である。慎吾と毅さんの速さを争ういがみ合いでもほのぼのできる俺たちが、まったく安らげない高橋さんと須藤さんとのやり取りである。王様やべえ。マジやべえ。
 しかしひとまず会話は無事終了、須藤さんは来た時よりも疲労感を漂わせている肩をすくめ、高橋さんはクールフェイスを適度にフレンドリーな毅さん専用スマイルに変えて、無論見るのは毅さんだ。見られた毅さん、カリスマ様の特注笑顔に慣れてない風にギクッとしつつ、それでも引かずに同程度のフレンドリーさを心がけているらしい笑みを作る。顔の二分の一が明らかに硬直しているあたり、とても健気な努力が窺える。それもカリスマ様のためなのだから、カリスマ様の笑顔もグレードアップするというものである。それにもまだ慣れない風に今度はビクッとした毅さん、言葉でカリスマ様のスマイル攻撃を打破することを選んだようだ。
「そうだ、藤原は元気か?」
 藤原といえば藤原拓海、去年一大センセーションを巻き起こした秋名のハチロク、プロジェクトDの二傑ドライバーの一人である。ちなみにもう一人の二傑ドライバーはカリスマ様の弟、去年の秋ここで行われた我らがナイトキッズとレッドサンズの交流戦にて、毅さんを走りでも言葉でもグッサリ破ったFDドライバー、高橋啓介だ。カリスマ様との話ならそっちの名前出す方が流れ的には自然かもしれないが、毅さんにとってはまずもってプロジェクトD=藤原拓海らしい。今まで俺たちが耳をそばだてたカリスマ様と毅さんとの会話の中で、藤原拓海の名前が十回出る間、高橋啓介の名は一回しか出ていない。おそらく毅さん的気にかかる走り屋ランキングのトップが藤原拓海なのと、我らがナイトキッズ内にはレッドサンズのスパイと認定したくなるほどの高橋啓介通が普通にいるのとで、敢えてその様子をカリスマ様に聞くまでもないという判断なのだろう。だが藤原拓海通までは俺たちの中にいないから、その様子を聞くならば、プロジェクトDの総統が最適なのである。
「相変わらず精力的にやってくれているよ。あれだけの高いポテンシャルを持ちながら謙虚なままで、少しも驕ることがない。もう少しエゴイスティックでも良いとは思うが、まああれくらいがあいつの素なんだろう。そのままで可愛がられるタイプだな」
 総統様は大人の余裕で応え、そうか、と毅さんは我がことのように嬉しそうにちょっぴり頬を赤らめる。敢えて言おう。秋名のハチロクさんは可愛がられるタイプかもしれないが、こういう風に他人事で一喜一憂してしまう毅さんは、かわいい。激烈に。本気で。カリスマ様も通な方で、メロメロオーラ出しまくりである。これぞ悩殺である。マーベラス!
 話に戻ろう。
「俺とやった時よりも、随分成長してるんだろうな」
 毅さんの声は深くなり、目は遠くなった。毅さんが見ているのは俺たちの物悲しさ漂う半裸ではなく、去年の夏の記憶のはずだ。夜、秋名山、プレミアつくほど型遅れなハチロクが32のGT−Rに勝ったダウンヒルバトル。その負けたRのドライバーこそ、他ならぬ我らがナイトキッズの毅さんである。それを振り返る毅さんは、良い顔になる。完敗バトルの悔しさも寂しさもでかい満足で包み込む、大人の男の顔である。写真映りが実に良い顔である。毅さんブロマイドの完成形だ。
「お前は見に来ないのか」
 慎吾でもアッサリはいじらないそれを、何とカリスマ様、たった一言、一瞬にしてぶち壊した。躊躇ねえ。容赦ねえ。
「あ?」
「来ると言うなら席くらいは用意するが」
「何?」
 写真映りが残念な顔で毅さん、耳が悪くなったようにカリスマ様に聞き返す。カリスマ様は何か言おうとして、急に口を閉じ、わざわざ高い腰を少し折って毅さんの顔を下から窺った。
「中里?」
 手一個分は間を空けているが二個分よりは確実に近いところから高橋さんの顔を食らった毅さんは、足を引きかけるも踏み止まった。健気である。それから顔の半分以上が凝り固まってる努力満載の笑顔を作り、インターバルを取るように俺たちを見て、ガッチガチな動きで高橋さんを見直した。
「ああ、いや。まあ、そうだな。最後くらいは見に行くつもりでいるぜ」
 諸々が引きつりまくりの毅さんをひとしきり見上げた高橋さんは、折った腰をキチッと伸ばし、今度はクールな顔で見下ろした。毅さんは歪みまくった笑いは放棄して、高橋さんを吊り上げた目で見上げ返す。なぜか突然一触即発の雰囲気である。我らが毅さんとDの総統様に限って拳と拳で熱く語り合うことはないだろうが、二人の間に毅さんと慎吾が怒鳴り合う直前の緊迫感に似たものが生まれただけに、俺たちもついとばっちりを食らわないための防御態勢を取ってしまった。
「どうした」
 けれども須藤さんのピリピリムードと無関係な渋い声が、場の雰囲気をゆったりムードへ一変させた。須藤さんはヒビの入った岩石並に顔をしかめきっている岩城さんを見ていて、岩城さんが見ているのは左方向である。
「あれってよ」
 岩城さんがそっちを指さしたその途端、大歓声。拍手と指笛と野太い咆哮が重なる中、相撲やってんのか、と見たままの疑問を、岩城さんが発した。

 前方およそ十メートル、アスファルトの上にはブルーシート、そこに牽引用か何かのロープで輪が作られて、中では二人の半裸男ががっちり組み合っている。
「ああ、相撲だな」
 毅さんが答えた通り、それは相撲だった。ブルーシートとロープで見立てられた転ぶと大分打撲多分骨折というデンジャラスな光輝く土俵の上、我らがナイトキッズの半裸グループはトーナメントまっただ中である。第二回ナイトキッズ相撲王者決定戦のトーナメント表は道夫のエリシオンにべったり貼り付けられていて、俺たちは視力の良い奴に参加者の名を読み上げさせると、カリスマ様たちのことを気にしながらも、誰が二代目王者となるか熱心に予想した。身を滅ぼさない程度のギャンブルは心の栄養だ。もちろんそれは例えである。我々は違法賭博にふけるような犯罪集団ではない。予想を外したメンバーがみんなに食事を奢る権利を得るだけなのだ。
「あの面子なら英樹じゃねえか。加減もしねえ」
 予想には加わらないが、いつでも意見を言ってくれるのが毅さんである。一方予想には加わったり加わらなかったりだが、いつでも毅さんにチクリと刺を入れるのが慎吾である。お前も負けたしな、と前回大会を持ち出された毅さんは、気分悪そうに顎を撫でた。
「まともに当たっちまうと敵わねえよ、あいつには。土台体が違いやがる」
「お前、やったことあんのか?」
 岩城さん、喋る猫とでも出くわしたように毅さんを上から下まで一通り眺める。毅さん、居心地悪そうに目をパチパチさせながら、岩城さんを見返す。ネタがネタだけに困りきってるのに自力で対応しようとするあたりとか、実にいじらしい。
「まあ、一応はな」
「相撲だぜ。山で相撲。車関係ねえだろ。やってどうなる」
 いじらしい毅さん相手でも、ツッコミの手を緩めないのがタフガイ岩城さんである。こういう場合我らがナイトキッズでは、サンキュータフガイ派とくたばれタフガイ派がシェアを争う。いじらしい毅さんを見せてくれてサンキューという感謝と、毅さんをいじめてくれてどうもくたばりやがれクソ野郎という憤怒のせめぎ合いである。
「いや、どうなるというか、何というか……」
「はあ?」
 口ごもる毅さんに凄みかけた岩城さんを、清次、とナイスタイミングで厳しく呼んで戒めたるは威厳ありすぎ須藤さん。おかげで岩城さんは毅さんイジリのセーフティゾーンを越えず、ライフセイバー慎吾と我らがナイトキッズの一部懲りない面々が岩城さんに回し蹴りをかますこともなく、安全第一の俺たちはつつがなく、夜食を奢る権利を巡っての相撲観戦である。それ以上は疑問を出さずの岩城さんも、岩城さんと毅さんの様子にチェックを入れながらの須藤さんも、全体的に興味深そうな高橋さんも、予想はしないが半裸野郎のガチンコ相撲をじっとご覧になっていた。これだけの走り屋が我らがナイトキッズの相撲王者決定戦のギャラリーになるとは、去年からは考えられない事態だが、そんなやばい現実に手出しなんぞできもしない俺たちは、思い出話に花を咲かせるだけだ。
 第一回大会は去年の秋に行われた。王者は史郎さん。素人が格闘家に挑むのは無謀でしかないことを史郎さんはそのムチムチな肉体とガチンコな精神で教えてくれて、年に一回群馬どころか日本に来るか来ないかという奴まで集まった、毅さんを励ます会という名目の第一回ナイトキッズ相撲王者決定戦は、終了直後から同窓会状態が長々続き、毅さんは名目通りに励ましという名のからかいを受けまくり、三日は酒が抜けなかったという。だがそれは、過去チームに半年もいなかった元走り屋にすら毅さんが依然として慕われていたからこそである。フォーエヴァー毅さんである。
 そんなことを脱線しまくりながら俺たちが喋くっている間にトーナメントは順調に消化され、決勝戦は準決勝の盛り上がりに比べると、呆気なく終わった。
「っしゃあ!」
 ブルーシートの上、両手を突き上げているのは英樹である。毅さんと大方の手堅い予想通り、オッズの一番低い英樹が第二回ナイトキッズ相撲王者となった。英樹は強者への歓声と塩試合へのブーイングに手を振り応えながら、こっちを向く。そして、歩いてくる。テカっていて蒸気が立ち上っているオスの半裸は、やはり断然目に悪いものである。
「どうも、二代目王者っす」
 くしゃくしゃ笑顔の汗だく坊主な英樹が、ギャラリーに入っていたよその走り屋様御一行に会釈してから、毅さんに自信満々で胸を張った。相変わらず目の前に立たれると目を合わせたくなくなるくらい、ガタイが良い奴だ。これでも史郎さんより低いから百八十五センチくらいのはずだが、史郎さんに劣らずムチムチなので、何かでかい。カリスマ様の首とかが骨と皮かというほど細く見え、毅さんの体は普通の人より小さく見える。だが毅さんは、ようやく家の駐車場に停める時にミラをぶつけなくなった、今の最大の目標が縦列駐車という英樹ごときには引いたりせず、英樹と似たような、それよりはくしゃくしゃっていない笑顔を返すのだ。
「良かったな。まあお前なら順当だろう」
「いやーモリシ相手はやっぱきついっすわ、足滑ってなけりゃ準決負けてました」
「運も実力のうちじゃねえか」
「っすかね。で、毅さん。リマッチなら受けますけど、どうします」
 英樹はカッチリ顔にシワどか盛りでニヤリと笑って毅さんを挑発した。前回大会で主賓格の毅さんを初戦敗退に追い込んだのは、誰であろうこの空気を読まない英樹である。毅さんは言われたこと飲み込めないみたくしばらくキョトンとしてから、慌てて周りを見回した。みんなの視線は毅さんというパラボラに集中だ。カリスマ様、須藤さん、岩城さん、慎吾、俺たち。それをしっかり受け止めた上で落ち着きを取り戻した毅さんは、英樹をもう一度見てがっちり目を噛み合わせると、やはり似たような笑顔になって、握り拳を胸まで上げた。
「望むところだ」
「よっしゃ」
 毅さんの拳に拳合わせた英樹が、スキップしながら土俵もどきに戻る。それを毅さんは見送らなかった。英樹が背を向けてすぐに、着ていた黒いトレーナーを脱いだからだ。
「小野寺、持っててくれ」
 斜め後ろにいて名指しされた俺は、毅さんが脱いだトレーナーを、呆然としながら受け取った。予想もできない驚愕の大事件、伝説達成の現場を完全目撃である。今まで誰にどれだけ誘われても脱がなかった毅さんが、ついに半裸になったのである。ワオ!
 こういうケースでの反応速度が尋常ではない我らがナイトキッズ、数秒後には『【速報】毅さん、脱ぐ(0年ぶり1回目)【そして伝説へ】』的な毅さん半裸画像添付メールが全メンバーに届いていることだろう。ちなみに前回大会は今回と似たような気温ながら参加者全員衣類着用の上だったが、それは単に脱ぎたがりがいなかったというだけで、つまりは思わず脱ぎ出したくなる春最高、ウェルカム陽春だ。半裸のオスも捨てたものではないのである。
「そういうわけだ。俺はちょっと相撲やるけどよ、まあ、気にするな」
 上半身裸になった毅さんが、お客人に少し遠慮がちな、でも今から勝負するのが楽しみでたまらねえって感じの挑発的な笑顔を一つ。そして、英樹の後を追うように土俵に向かった。それを近くで見ようとする奴らが土俵の周りに集まっていく。場所取りは情け無用の早いもの勝ちだが、後から岩城さんに須藤さんに高橋さんについでに慎吾が来ると、そこは礼儀を知っている俺たちだ。自然なエチケットとしてお客様に前を空けて差し上げた。カリスマ様の生写真を至近距離で撮ろうとかエンペラー様の生リアクションを見ようとか氷点下の空気を感じようとかは、あくまでついでの動機である。
「分かんねえ奴だぜ、マジでやるとは。コケたら痛ェだろ、こんなもん」
 峠での下ネタ乱舞やAV鑑賞にノッてくる岩城さんも、相撲にはまだ引きまくりだ。おたくの方が分かんねえよ、という思いが俺たちの心を駆けていったとかいかなかったとかである。
「安全とは言いがたいな。下に毛布でも敷いてりゃまた別だろうが」
 その隣には、どんな時も正論放てる須藤さん。そうか毛布という手があったのか、という思いが俺たちの心を駆けていったとかいかなかったとかである。
「一つ、聞かせてほしいんだが」
 その更にお隣、後ろの俺たちを振り向いて、紳士な高橋さん。質問はお断りだ、とはとても返せないキラキラオーラの前に、はい何でもどうぞ、と俺たちは屈するまでである。
「さっき言っていただろう。去年の九月、第一回ナイトキッズ相撲王者決定戦。その名目の『毅さんを励ます会』というのは、どういうものだったんだ」
 それはさっき、俺たちですら俺たちの声が聞こえないようなどでかい野次と歓声が乱れ飛んでいたトーナメント中に交わした思い出話にて、一回こっきり出ただけの言葉だった。さすが群馬のカリスマ、とんでもない耳の良さだ。聖徳太子か! という思いが、俺たちの心を駆けていったとか、いったのである。そして俺たちは、とりあえず慎吾を見た。性格は見事にねじくれてるが、状況説明能力は我らがナイトキッズでも随一な奴である。本人は否定するが、毅さんへの愛も随一な奴である。こいつを飛び越えて毅さんについて言及すると、俺たちの生命が危機に晒されかねない、触ると危険な奴である。毅さんが岩城さんに説明しなかった『毅さんを励ます会』が話題になっては、とりあえずは見ておかないと、どんな難癖つけられるか分かったものではないのである。
「何で揃いも揃って俺を見てやがる」
 俺たちの無言の防衛に気付いた慎吾は、振り向いてくるなりえげつない睨みを利かせたが、チーム内の一部懲りてる面々とは違い、カリスマ様には通用しなかった。ジェントルマンなクールフェイスは揺らがないのだ。
「この中で中里にまつわることを一番理解していると、信頼されてるんだろう」
 それで慎吾のプライドをくすぐってしまうのだから、やはり高橋涼介、ランクが違う。へそ曲がり魔人な慎吾も嫌みを言うタイミングを奪われたらしく、俺たちを八つ当たりで睨むだけ睨んでおいて、土俵もどきに顔を戻した。毅さんと英樹は本物の相撲さながらに、腰を落として向かい合ってから立ち上がって脇まで行ったり、対決ムードを盛り上げている。それを見ながら慎吾はかったるそうにため息漏らすと、カリスマ様に俺たち随一の状況説明能力を発揮した。
「あんたの弟殿に負けて、そこのエボ4にも負けて、どうしようもなくなってたくせに抜け抜けと気色悪ィ作り笑い見せやがったあいつの顔面筋、叩き直してやろうって会だよ。相撲は単に、その時の千秋楽だか何だか見に行けなかった奴が趣味押し通してねじ込んだだけで、意味なんざねえっつーの。あってたまるか。まあけど、それであいつも……」
 最後、慎吾の声は珍しく落ち着いて、そのまま消えた。言葉を止めて隣のカリスマ様をとても嫌そうに見上げた慎吾、髪を振ってでかいため息という態度の悪さだ。これでは我らがナイトキッズ全員のマナーが疑われてしまいそうだが、そんな慎吾にも高橋さんは怒りもせず笑いもせず、ただ話の打ち切り許さないように視線はキープ、これぞキングの風格である。慎吾は関東最速ストリートキング殿をまた見ると、聞こえよがしに舌打ちして、話をまとめた。
「所詮名目は名目ってことだ。騒げそうな匂い嗅ぎつける暇人は今も昔も大勢いたって、あいつを本気でどうにかしてやろうなんて考える暇人は、うちには一人もいねえからな」
 それ以上は一言も喋らないと決めたような慎吾を見下ろした高橋さんは、満足げにうなずいて、毅さんに目を戻した。岩城さんは相変わらず引き気味でぶつぶつ言っていて、須藤さんはまだ土俵もどきの安全性を気にしていて、慎吾はイライラオーラを背中から漂わせまくりである。そんな慎吾に対して、お前がいるだろ、という思いが俺たちの心を等しく駆け抜けたが、もちろん誰も口にはしなかった。これも暗黙の了解というやつだ。

 上半身がラの状態で英樹と比べると、毅さんは細い。腹筋それなりに割れてるのに細い。そして白い。というか英樹が黒い。そのせいで。毅さん、やばいくらいにか弱いね。である。毅さんだって一度負けた相手とやるからには対策を考えていないわけがないはずだが、空気を読まない英樹が加減をするわけもないはずで、実際この体格差を目の当たりにすると、怪我せず終わってくださいと祈らずにはいられない。
 土俵もどきまでの距離は二歩半くらい、騒げそうな匂いは何でも嗅ぎつける俺たちやらそれ以外やらのギャラリーが固唾を呑んで見守る中、行司役が合わせに入った。中央対面、腰を落としてシートに手をつく英樹と毅さんの顔は真剣そのもの、どう見てもガチである。色んなアイドリング音がビートみたいに響くだけ、声出す奴は一人もいない。決勝戦より静かなのにボルテージは上がりまくり、土俵を中心にした半径およそ十メートル内には、真夏のような暑苦しさが充満していた。
 見合う二人は行司役なんてお構いなしにアイコンタクト、毅さんがついていた右手を上げて、もう一度ついたと同時に、二人は動いた。これぞまさしく正面衝突、骨と骨がぶつかる鈍い音がリアルに聞こえて、俺たちは何はなくとも叫んでいた。毅さんは一発では吹っ飛ばされず、英樹と組み合う形で踏みとどまる。多分この後毅さんが投げられる光景を予想しなかった奴はいないだろう。俺も肘とか膝とか関節から落ちませんようにと背中から落ちていく毅さんを想像していたものである。だから、二人が組み合ったまま、突然英樹が右膝から落ちた時、何が起こったのかすぐに理解した奴もいなかったはずだ。だが、まがいものの土俵で、参加者はまわしなしマゲもなし土足着用という半裸なだけの男といえど、相撲は相撲である。土俵から出たら負けだし、土俵に膝をついても負けだ。つまり、シートに右膝をついた英樹の負けだった。
 困惑のざわめきが漂う中、しまったって顔してる英樹に、元の濃さが気にならないくらいのスカッと爽やかフェイスな毅さんが、手を差し出す。英樹がそれを取り、スカッと笑いながら立ち上がる。途端、ざわめきは歓声に元通り、ナイトキッズ二代目相撲王者を堂々破った我らがリーダー毅さんへの拍手喝采の誕生である。万歳三唱である。特に意味はない。
「膝、大丈夫か」
 腰に手を当てて悔しそうに顔をくしゃくしゃってる英樹に、毅さんかけた声が辛うじて聞こえるくらい、土俵もどき周りはまだざわついていた。心配そうな毅さんを見返した英樹、全然、と笑ってシワの多さを見せつける。
「しっかし無双くるとは思ってませんでしたよ。考えてたんすか」
「まともにいってもお前に勝てねえことは分かってるからな。技の一つだ、許せよ」
「許すも何も、勝負っすから。組んで油断した俺のミス。ま、今度は俺からリマッチってことで」
 ニヤリと拳を突き出した英樹に、ニヤリと毅さんが突き出し返す。再度拍手喝采、万歳三唱。そこまでいくと我らがナイトキッズも相撲大会の余興を味わい終えて、シートもロープもトーナメント表も即時撤収、後は夜食を奢る権利の確認会だけである。俺も後で奢ってもらおう。
「何だ、見てたのか。好きにしててくれて良かったってのに」
 慎吾以下よその走り屋様御一行と俺たちの元へと戻ってきた毅さんは、相撲に集中していたのかギャラリー確認もしてなかったようで、驚いていた。声は嗄れがち、そのお顔もお体も赤くなってて汗だらけだ。一回だけでも本気の相撲は疲れるらしい。相手が英樹じゃ油断もできなかったんだろう。それにつけても疲れている半裸の毅さんは肌とか息遣いとか超色っぽい。春万歳、相撲最高!
 それはともかく。
「十分好きにしてたさ。なかなか見応えもあった。怪我はないか」
 トップで須藤さん、威風堂々さをかなり和らげた、甘さ控えめながらも思いやり満点のお出迎えである。一つもねえよ、と毅さんはそれをほんのり嬉しそうに受け止める。相変わらずのアットホームな夫婦っぷりだ。岩城さんはそんな須藤さんと毅さんは当然のようにスルーして、リスクマネジメントはどうかと思うけどな、とまだ引き加減、一方まったり空気をぶち壊す五秒前の慎吾、漂うオーラは絶対零度である。こいつの横を通って毅さんにトレーナーをお返しするのは至難の業だ。下手したら俺が凍死してしまう。
「待て」
 しかし慎吾の横にいながら毅さんへとアプローチできる見かけによらない剛の者が、高橋涼介様だ。その手にあるのは白いポケットチーフ。俺たちの一人でも持って来ていたら奇跡のような、清潔感たっぷりなやつ。カリスマ様はそのポケットチーフで、ギョッとした毅さんの顔を押さえていく。
「おい」
「服を着る前に、汗は拭いておいた方が良い。時間が経つと冷えるからな」
「別にいいって、このくらい」
「風邪は引きたくないだろう」
「まあ、そりゃ」
 身じろぐ毅さんをカリスマ様はうまく取り成して、顔から首から胸から背中から、汗を次々拭き取っていく。医者を目指すならこのくらいの世話お茶の子さいさい、というだけではない甲斐甲斐しさ溢れる高橋さん相手で落ち着かなさそうな毅さんも、機嫌が悪いという感じではなく、一時一触即発の雰囲気が嘘のようなリラックスムードである。
「何だ、何か言えよ」
 だがしかし、それを誰も何も言えずにただただウォッチングなので、毅さんは注目されて恥ずかしくなったのかキレかかり、それでも高橋さんはマイペースに毅さんの半裸を丁寧に拭く。岩城さんあたりが『過保護だな』とか言い出しそうな不思議空間である。岩城さんより先に何か言う方が、毅さんをこれ以上キレさせることはないだろうが、そのポケチ、オクかけたら一万円越え余裕です。なんて言ってもキレさせちまうことは目に見えているので、他の誰より一番に、俺は当たり障りのないことを聞いてみた。
「さっきのあれ、何やったんですか?」
「あれ?」
「内無双だろう」
 首を傾げた毅さんに、さっきのあれの意味を説明する前に、答えは別の方から降ってきた。
「上手を相手の膝の内側に当てて、それを押さえながら、逆から捻る。一度食らってみると分かりやすいと思うぜ」
 身振り手振りを交えて的確に解説してくれたのは、頭の回転マジ激早、須藤さんだ。さっきのあれ、で余興で毅さんが英樹に膝をつかせた技のことだと分かってしまうのだから、それは慎吾と余裕で渡り合えるしカリスマ様にも冷気を食らわせられるというものである。しかし内無双とやらを食らってみるのは遠慮したい。膝は大事だ。
「知ってんのか」
 カリスマ様に腕を拭かれながらの毅さんが目を瞬く。須藤さんはそんなお二人のリラクゼーション空間を脳内デリートしてそうな微妙な間を置いてから、少しだけだ、と張ってるショルダーを上げた。
「詳しくはねえよ。それにしても、うまく決めたもんだな。無駄がなかった」
「一か八かのタイミングさ、二度はない。次の手考えておかねえとなあ」
「八艘飛びでもやったらどうだ」
「詳しいじゃねえか」
「技は知ってる。それだけだ。年に何回も見やしねえ」
 須藤さんと毅さんのまったり空気が復活し、慎吾の冷気も復活し、カリスマ様は毅さんの裸を拭き終えた。その毅さんの汗が染み込んだある意味プレミアもののポケットチーフを胸ポケットにさし直した高橋さんが、パーフェクトスマイルでこっちを見た。抵抗力などゲージリセット、ついついこれもある意味プレミアものの毅さん着用済みトレーナーを献上せざるを得ないだけの、もはやキラースマイルである。直接毅さんにお渡しできないのは寂しいが仕方ない。群馬のカリスマ様にたった一人反乱とシャレ込むのは、どう考えても無礼で無謀だ。どうやったって命は大事なのである。
「中里」
 カリスマ様が俺から受け取った毅さんにトレーナーを渡して、ああ悪いな、と毅さんは自然な笑顔でそれを受け取る。そして毅さんがそれを被る前、カリスマ様は毅さんの右肩に手を置いた。
「打っただろ。帰ってからでいいが、冷やしておけ」
 毅さんはトレーナーの中に両腕突っ込んだまま一時停止して、いや、と目と口だけを細かく動かした。
「このくらい、どうってことはねえよ。骨も無事だ」
「帰ってからでいいと言ったのは、俺の最大限の譲歩だ。分かるな」
 毅さんの肩を押さえながらの高橋さんには、この場この時治療をおっ始めないという以上の譲歩はどこにも存在しなさそうで、毅さんの顔は、不調見抜かれたスポーツ選手のようにばつが悪そうだ。
 英樹と毅さんが当たった時には、背中がぞくっとするくらいの音がした。パチッと肉がぶつかって、ゴツッと骨がぶつかる音だ。体のどこも打ってない方がおかしい音だ。ただ毅さんの半裸は全部赤くなってるしライトも粗方撤収されてるしで、見てるだけじゃどこを打ったのかは分からない。須藤さんでも気付かなかったそれを指摘したカリスマ様は、毅さんの汗をポケットチーフで拭きつつ、体の状態まで確認していたに違いない。背中がぞくっとするくらいの計画性である。冷や汗出ちゃう。
「分かったよ。ちゃんと冷やす。帰ったらな」
 強い絆で結ばれたコーチと選手のような見詰め合い末、渋々だがうなずいた毅さんを、カリスマ様はあと何秒かじっと見て、ありがとう、と毅さんの肩から手を外した。いや別に、と妙にもぞもぞしながら毅さんがトレーナーを被る。
「それで、最後にならなければ、お前は見には来ないということか」
 やはりカリスマ様に躊躇なし、容赦なし。今度は毅さん、トレーナーを半分被った状態で動きを止めた。半分出ている腹筋がチラリズムである。それなりに割れてるけれども肉がきちんとついていて柔らかそうでセクシーだ。とても目に良い。もう少し見ていたかったが、毅さんは一気にトレーナーから手と頭を出して、裾を適当に直しながらカリスマ様を見上げた。目はつり上がり気味だが、眉毛はそうでもない。カリスマ様もクリスタルな顔だが、クールではない。プロD観戦をするかしないかの話だけで一触即発寸前までいった時とは違い、譲り合いの精神が平和を呼んでいる。ただ、緊迫感に似た空気は足元あたりで出番を待っていた。
「そろそろ遠慮ってもんを覚えたらどうですかね、高橋さん」
 それをすくい上げたるは一人真冬の真っ最中、慎吾である。凍りすぎてか口調も優しい慎吾に、遠慮、と高橋さんがクールフェイスを向けて、慎吾はそれをせせら笑うという暴挙に出た挙句、あんただけじゃねえ、と須藤さんと岩城さんを見た。
「そこの二人もだ。分かるだろ。分からねえ方がおかしいぜ、こんな考えあけすけな奴のこと」
 そしてチンピラフェイスでシニカルフェイズの慎吾、毅さんに顎をしゃくる。何、と毅さん、体を揺らしてビックリする。もう一つ敢えて言っておこう。こういうリアクションを素でやってしまう毅さんも、かわいい。猛烈に。真剣と書いてマジで。一見ハードで猛者ってるが童顔要素も欠かしていない毅さんだからこそ、可愛さ引き立つこのナチュラル仕草である。天は二物を与えるのである。サンキュー宇宙である。
 しかし慎吾がこうもフテっていると、恐ろしくってゆっくりじっくり毅さんに悩殺されてもいられない。話に戻ろう。ビックリした毅さんが、ギョロリと慎吾を睨んだところからだ。
「お前、俺のこと言ってんのか」
「お前以外にそんな馬鹿がどこにいる、お前がこいつら帰る度に遠い顔してんのを俺はッ」
 早口慎吾が言葉を切って、いきなり冷笑ぴたりとやめた。口半開きで眉だけ不審に動かして、じっと毅さんを見る。その顔が最悪に歪むのもいきなりで、赤くなるのもいきなりで、見えなくなるのもいきなりだった。頭を振ってムラありまくりの前髪ばらつかせながら、慎吾は俺たちに斜めに立つ。
「俺? 俺じゃねえ。何でここで俺の話になる、ありえねえ、畜生が」
 地団駄踏んで下品な言葉を吐くようなブチギレ慎吾には、五メートル以上近づくべからず。これが海千山千の古狸もいる我らがナイトキッズ共通の経験的法則である。ただしこれを無視して慎吾に近づける走り屋がたった一人、ここに。ルール知らずの宇宙人もいる俺たちみんながリーダーと認めるその人は、言うまでもない。毅さんだ。
「慎吾」
「うるせえな、何でもねえよ。クソ、間違えた。だからお前の話になんざ関わりたくねえってのに」
 さすがキレ中慎吾、自分から話題に入っておいてこの八つ当たりである。だが毅さんは決して退かない。一度やると決めたらテコでも動かないのは慎吾も毅さんも同じなのだ。だから二人はぶつかるし、いがみ合うし、信じ合う。
「慎吾」
「うるせえっつって――」
 そして俺たちは、珍しいどころではないものを、見た。
 斜めに立ってる慎吾に一層近づいた毅さんが、その前に回り込んで両手を広げるやいなや、抱きついた。毅さんが、慎吾に、抱きついたのだ。毅さんと慎吾がそこまで密着することなど、我らがナイトキッズの歴史上初めてである。バトルに勝ってもハイタッチなし、無礼講飲み会で隣になっても肩も抱かない二人がこうも情熱的な抱擁をするとは、ちょっとした快挙である。正確には毅さんの一方的な抱擁だが、抱擁は抱擁である。抱き締めである。その締めっぷりといったらベアハッグに移行しそうな勢いで、ギュッという効果音がどこかから聞こえたほどである。
「毅」
「悪ィな」
 もちろん慎吾の声は慎吾から、毅さんの声は毅さんから聞こえた。体も心も締めつけられているような声だ。それが聞こえてすぐ、毅さんの抱き締めは骨折りベアハッグではなく緩々クリンチに移行し、軽い自由を取り戻した慎吾、支配を嫌う若者並の早さでそれを行使、毅さんの腕を振り払いざま、一気に突き飛ばした。
 後ろへ倒れかけた毅さんを誰より先に当然のように受け止めたのは、右腕だけで岩城さんだ。面倒臭そうな顔をしておきながらさすがタフガイ、俺たち以上の反応速度である。毅さんと岩城さんは短く見合って、岩城さんは毅さんが自力で立てることを確認してから面倒臭そうなまま右腕下ろし顔は慎吾へ、毅さんは岩城さんに小さく会釈して顔は慎吾へ、俺たちは何はなくとも顔を慎吾へ、である。
「勝手に! C級青春熱血映画に巻き込むんじゃねえよ、この野郎!」
 興奮しすぎて頭の血管一つくらい切れてそうな慎吾が、毅さんに指突きつけて、どでかく叫んだ。気迫は十分だが半分涙目なあたりが残念だ。カワイソーという思いが俺たちの心を駆けていきかけて、半分血眼慎吾にガッツリ睨まれて、コワイヨーという思いに変わったとかである。
「ああもう、クソうぜえ! 自己中どもがふざけやがって、どいつもこいつもよォ!」
 両手振り回して再び叫んだ慎吾は直後に回れ右、おい、と呼び止める毅さんも顧みず自己中押し出し、向こうに停めてるEG−6へと大股で歩いていった。時間もかからず赤い車体は峠に消え、台風一過、陽春復活である。慎吾の撤退により取り戻された暖かさを俺たちが満喫していると、慎吾の方へと伸ばしていた右手でガリガリ頭を掻いた毅さん、ため息吐いてよその走り屋御一行様を振り向いて、ぴしっと直立、頭を下げた。
「すまん」
「頭を上げろ、中里。お前が謝ることじゃない。庄司の言い分ももっともだ」
 リーダーたる毅さんに謝らせておいて俺たちメンバーがギャラリーに徹していてはナイトキッズの名折れだが、そこは先んじたカリスマ様、毅さんにも俺たちにも爆音立てて上へとランナウェイった慎吾にも非を与えない、迅速見事なフォローをしてくださった。ありがとう赤城の白い彗星、ありがとう高橋涼介様である。毅さんも気まずそうにだが姿勢を崩し頭を上げて、咳払いを一つ。それから高橋さんと須藤さんと岩城さんと俺たちをくまなく見て、覚悟完了の面持ちで口を開いた。
「ここで走りゃあよ」
 毅さんの真っ直ぐな声には、この山そのものみたいな存在感がある。どんな重い空気も軽い空気もひっくるんで、息しやすくリセットできる存在感。いわば峠の浄化装置である。
「ちっぽけな考えもどうしようもねえ気持ちも、何だって、簡単に消えちまうんだ。他の峠じゃこうはならねえ。だからお前らも、わざわざここまで来るんだろう」
 そんな真っ直ぐな声のまま、真っ直ぐな顔に秘密共有するような照れ臭そうで誇らしげな笑み浮かべた毅さんを、否定できる奴なんているはずがない。現に高橋さんも須藤さんも岩城さんも無言である。嫌みも皮肉も駆け引きもお手の物な毅さん目当てのお三方が無言という名の肯定的反応を示してしまうほどの、妙義山の象徴的、毅さんの存在感なのである。毅さんはそれを噛み締めるような甘い笑顔になって、目を閉じて、急に口元引き締めて、目を開けた。そして毅さんが真っ直ぐ見たのは、カリスマ様だった。
「けどな、高橋。俺はもう、失敗するわけにはいかねえんだ。去年と同じ真似をするわけにはいかねえ。自分と違う奴のこと考えすぎて自分のこと見失って、何もできずにチームに、他の奴らに迷惑かけちまうような真似は」
 バトルに出るのはチームで一番速い走り屋、それで敗北やってこようが元から一番なれねえ負け犬なんぞハンカチ咥えて黙っとけ、が我らがナイトキッズの公式ルールである。ゆえに俺たちの一番である毅さんがバトルに出て負けたからって、力になれなかったこと悔しがる奴はいても、誰も迷惑かけられたとは思わない。だが毅さんは、去年高橋啓介にグッサリ負けて岩城さんに最悪パターンで負けて秋名のハチロク戦含めてチームに三連敗運んだことの責任一人で一生背負い続けて、我らがナイトキッズで最速って立場も慎吾に譲る気一切ない、そんなイナセな顔をしていて、それは見惚れちまうほど格好良い。のに、心開きまくりな笑みがつくと、可愛さ満点である。いいね!
「だから、お前らを見に行くなら、最後だ。全部が決まるその瞬間だけ、俺は、俺のこと考えずに、お前らを見られると思うからよ」
 強気でキュートに笑う毅さんにカリスマ様が毅さん専用スマイル上位互換版を返したのは、そのインブレザーな背中から立ちのぼるメロメロオーラの濃さからも明らかだった。パーセンテージマジ高え。
「ならその時には、集大成を用意しておかないとな」
「頼むぜ」
「善処しよう」
 ジョークめかしたカリスマ様、握り拳を胸まで上げる。毅さん、それに拳を合わせてまた笑う。
「それじゃあ、中里」
 カッコイイのにカワイイという刺激的なやり取りの後、拳を離したカリスマ様は、両手を軽く広げた。
 俺たちは、その意味が分かる。毅さんも分かっているはずだ。去年の最後からカリスマ様が来る度に、というか帰ろうとする度に行われていることである。我らがナイトキッズにとってはもうカリスマ様到来時の恒例行事となっているし、毅さんもそろそろ慣れても良さそうなのだが、今回は須藤さんと岩城さんもいるせいかいつになく戸惑いまくり、躊躇ありまくりである。しかしやはりカリスマ様に躊躇なし、容赦なし。広げた両手で毅さんを小さく招いて、ようやく毅さんは白旗降参するようにそっと両手を上げて、カリスマ様の体に収まった。恒例行事、お別れのハグである。カリスマ様の肩越しに半分だけ見える毅さんの顔はレッドゾーンにいきかけていて、カリスマ様のメロメロオーラは百パーセントを越えている。毅さんと慎吾のギチギチ抱擁とは違う濃密さがプンプンである。あれをC級青春熱血映画と言い張る慎吾なら、これをC級青春恋愛映画と言い張りそうな初々しいトキメキだらけのハグである。
「じゃあ、また」
 小声で毅さん、それが合図でカリスマ様は毅さんを解放し、俺たちを向いた。見逃す人間いないようにって配慮の間置いて発射されるは、対外専用パーフェクトスマイルだ。
「ごきげんよう」
 キザっぽいのにキザ度ゼロ、そんなエレガントな別れの挨拶を俺たちにくれて、高橋涼介さんはFCへと戻っていかれた。ちなみに帰り際のカリスマ様に握手をお願いする奴らの中に、女体はやはり一個も存在しない。というかこの場に一人もいやしない。ファック。だがメスが見当たらないことでめげていては走り屋なんぞやってはいられないし、こんなやばいくらいに楽しいバッティング、味わうこともできないのだ。
 握手攻勢を短時間で華麗にさばいたカリスマ様のFCが、ロータリーエンジン響かせながら妙義山から去っていき、一つの新たなる伝説は幕を下ろした。毅さんは緊張解けたみたいに深いため息、そんな毅さんに、カリスマ様をペテン師見る目つきで眺めていた岩城さんはモロ嘲笑、一方カリスマ様をインチキ企業の実態探る目つきで眺めていた須藤さんは同情の眼差しである。嘲笑と同情を同時に受けて、誤解をするな、と毅さんは弁解に健気な努力をかけた。
「今のは挨拶だ。挨拶。俺がやってくれと言ったんじゃねえ、あいつの挨拶だ。別れの。別れの挨拶、それだけだ。俺はやれと言ってねえ。でも挨拶だ。挨拶は欠かせねえ。だからやる、それだけだ」
「挨拶なァ、そりゃご立派だ」
 嘲笑抑えきれずの岩城さん、笑うんじゃねえ挨拶だ、と引き続き主張する毅さんに近づいて、左側に回り込む。肩押さえてぴったり横に顔を寄せ、何かぼそぼそ囁くと、毅さんが岩城さんに肘突き出して、岩城さんはヘヴィな体をひらりとかわした。
「てめえ、岩城!」
「ごっきげんよーう」
 真っ赤になって叫んだ毅さんに高笑いを返し、岩城さんは離れていく。我らがナイトキッズ随一のエロネタ分析集団がいる方へだ。またどこの嬢になけなしの財産を分け与えるべきかという議論に加わるのだろう。それにしてもあのウェイトであの素早い身のこなし、英樹とも渡り合えそうなタフガイ岩城さんである。折角だ、第三回ナイトキッズ相撲王者決定戦が開かれる際には特別ゲストとして参加してもらいたい。ダークホースがいれば予想のし甲斐も増すというものだ。もちろん俺たちは違法賭博なんてものとは無縁である。人類固有のボランティア精神をみんなで呼び起こすだけで、俺も夜食を恵んでもらうの忘れないようにしねえと。うん。しかし、それはこのよその走り屋バッティング伝説のエピローグが終わってからでもいいだろう。
「大丈夫か?」
 岩城さんのこと名前呼ぶだけでコントロールしちまえる皇帝様須藤さん、プライベートで常時べったりというわけでもないらしく、離れる岩城さんは軽く見送って、顔赤くしたままパクパク口開け閉めしてる毅さんを覗き込んだ。体調不良への心配半分、何起こったのかって不審半分な感じだ。そんな須藤さんを見返した毅さんの顔は、少し経ってから、いまだかつてないほどの赤面フルスロットルになった。
「あ、ああッ、いや何でもねえ、何でも」
 これで何もないなら全世界の平和が断言できるくらい、何かありまくるという毅さんの様子である。須藤さんから顔を背けるも無視はしきれずちらちら視線を送る度、肌の色がレッドゾーンに振り切れまくりだ。須藤さんは心配一割不審九割な感じながらもそうかとうなずき、毅さんを覗き込むのをやめた。けれども毅さんの顔の赤さは増すばかり、バースト寸前。そしてついに、キャパシティ超えたらしい。
「須藤俺は走ってくるぜ、ゆっくりしてけ、いやゆっくりしなくてもいいが早く帰れって言うわけじゃ、ねえいやだから、好きにしろッ、じゃあな!」
 ピッチは速いがリズムは悪いペースで一気に喋り、毅さんは32へと走っていった。残された須藤さんも俺たちも何も言わずに見送ってしまうほどの、慎吾に負けず劣らずの切実ランナウェイである。グッバイ毅さん、また会いましょう。近いうち。
 32も峠に消えて、放置形にされた須藤さんは、肩ほぐすように首をゴキリと回して吐息を一つ。そして、俺たちを振り向いた。思い出したようなお顔はフレンドリーではないが、シリアスでもない。
「清次はあいつに何を言ったと思う」
 頭の回転マジ激早な須藤さんがそれを分かっていないはずもない。しかしそこは堅実堅物皇帝様、岩城さんの下ネタ回路は我らがナイトキッズのエロ思考とよく似ているので、俺たちの意見も一応参考にしておこうというのだろう。
「そんなの高橋涼介とハグするなら須藤さんともするのが筋だとかついでにキスでもつけとけとか、そういうことじゃないっすかね」
 誰がそれを言うか決める雰囲気になる以前にぺらぺらな奴が答えていたが、俺たち全員同じ考えだから問題はなかった。その程度の話で動揺しまくるのが、我らが毅さんなのである。
「なるほどな」
 意外でもなさそうに納得の相槌打った須藤さん、おもむろに頭のタオルを外し、首回りを拭いた。須藤さんのタオル=汗防止用説が俺たちの心を駆けている間にそのタオルを頭に巻き直した須藤さんが、いつになくトゲのない顔で、再び俺たちを見る。
「俺も一度行くが、ついて来たい奴は?」
 須藤さんが自ら俺たちに走りのネタを振ってくることも、いつにない。珍しい。俺たちも走り屋の端くれとしてそんな貴重な機会には問答無用で乗ってこそだが、相手がエンペラーの須藤京一さんとあっては後ろにつくなどかなり手加減していただけなければ不可能だから、念押しは大切だ。
「こんな格好だ、まともには走らねえよ」
 ブリティッシュなジャケットスタイル見せつけて小さく笑った須藤さんには、やはりいつにない、優しい空気がある。最終的には須藤さんの機嫌は良いということだろう。それを良くしたのは岩城さんの囁きで動揺しまくり紅潮しまくった毅さんに違いない。異論は聞かない。
 さて、これにてエピローグにはピリオド打たれ、本日のよその走り屋バッティング伝説という名の毅さん悩殺伝説は、完全閉幕である。まあ須藤さんについて行ったら行ったで、そこは慎吾と毅さんと須藤さんが同時に存在するかもしれないアンコールもどき現場のはずなのだが。それはそれで、俺たちもやばく楽しむことだろう。ここまできたらプロジェクトDの二傑ドライバーさんとかがいないのが物足りなく、は決してならない。これ以上妙義山が走り屋のパワースポットと化すと俺たちの居場所がなくなってしまうし、ネタ多すぎで月刊ナイトキッズ通信を作るのも一苦労、それより何より、毅さんの身が危険である。暫定力で現状維持が、我らがナイトキッズの取りうるチーム保全の最善策なのだ。

 春である。
 春といえば、裸である。正確には半裸である。俺たちにとっては半裸の野郎がゴロゴロ転がる季節である。いつものことだ。ひどい。目に悪い。心に悪い。ああ、一人でいいから女の子が見てえなあ。碓井のお嬢様でも来てくれねえかなあ。
 それはさておき。
 半裸の野郎が転がる季節、毅さんは半裸にならず、慎吾は毅さんにすがる半裸を蹴り飛ばす。いつものことだ。ほのぼのとする光景である。心に良い。
 やがて半裸は減り、季節は進む。
 それでも俺たちは変わらない。進歩はせず、進化を遂げる。
 そして俺たちの心のふるさと、走りのホーム、妙義山。そこで我らがリーダー毅さんが、よその走り屋にモテモテなのも、いつものことなのである。
(終)


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