四日目 2/2
やはり人間外見は重要だ、と史浩は思いを強くする。
なぜなら目の前に座る端正な顔立ちの青年は、穏やかでない目をしているにも関わらず不審人物にはまるきり見えず、それどころかアイドルと言っても通ずるだけの華を備えており、深夜、気だるい空気の流れるファミレスという舞台で頼まれたコーラ、茶色に染められ天に向かっている髪とすりきれた黒いパーカーという付属物は威圧感を煽らず親しみやすさを増させ、しきりに貧乏ゆすりをし、まくり上げた袖から出た左腕をさすっている様子からは年齢を越えた愛嬌さえ感じさせるからだ。例えその青年、高橋啓介が高橋涼介の言う通りにこちらを呼び出してきた上で、席に着いてから挨拶以外に一言も発さないといういささか礼に欠ける態度であっても、許せてしまうほどであった。
これが自分なら犯罪者予備軍として冷たい目を向けられているかもしれない、と世間の無情さを想像しながら史浩は、高橋啓介を責めるでも急かすでもないのんびりとした調子で、「どうしたんだよ」とようやく聞いた。
啓介は頼りないような、それでいて醒めた目を史浩に向け、アニキから、と言った。
「何か、聞いてねえか」
「何かって?」
「聞いてねえならいいけどよ」
「何の話だよ」
「ケンカしたんだよ」
「誰が」
「俺とアニキが」
組んだ両腕をテーブルに乗せた史浩は、つまらなそうに頬杖をついて窓に顔をやっている啓介を見ながら、言い合ったってことだな、と思い、へえ、と驚きに隠しながら納得の息を吐いた。
「久しぶりだよなあ、お前らがケンカだなんて」
「なあ史浩、妙義の中里って覚えてるか」
史浩の感想を見事に無視し、啓介は前置きのなく切り出してきた。その余裕のなさに史浩は嫌な予感を覚えながらも、覚えてるも何も、と平穏な世間話を試みた。
「この前涼介の写真を撮りに、わざわざこっちに来たって言うじゃ」
「俺に負けたヤツだよ」
親の仇のように窓を睨みながら、啓介は不自然に落ち着いた声で史浩の言をさえぎり、窓に威嚇するように言った。
「何年も走ってるホームで、俺に負けたヤツだ」
啓介はそして、何かに耐えるように強く歯を噛み締めた。そこには悪意があった。史浩は啓介の顎から力が抜けたのを見て取ってから、再び責めるでも急かすでもない調子で、どうしたんだよ、と言った。啓介は頬に支えていた手を首の後ろに回し、ゆっくりと史浩を見てきた。
「俺はな史浩、あいつが死のうが生きようがどうだっていいんだよ」
啓介の目は揺るぎなかった。その真剣さと裏腹な話の唐突さと過激さに、史浩は苦笑をする他なかった。
「いくら何でも、そこまで言っちゃあ中里が可哀想だろ」
「そうじゃねえよ。そういうことじゃねえ、分かるだろ、史浩なら」
啓介は史浩が分かることを微塵も疑っていなように強調した。史浩は少しだけ間を置いて、まあな、と言った。どうだっていい、という言い方は物騒であるが、啓介にとって中里は単なる知人の一人に過ぎないし、史浩にしても同じだった。知人の死でも心は痛む。だが見知らぬ他人の死でも心は痛む。そしてその二つはよく似ている。その程度の話ということだ。ならば理解はできた。
「でもアニキは分かってねえ」
史浩は啓介を見た。啓介は変わらず確然とした目で史浩を見詰めていた。史浩は慎重に言った。
「あいつが分かってないってことは、ないだろう」
「それでアニキは怒ったんだ」
啓介の端的すぎる答えを、史浩は頭の中でつなげていった。それで涼介は怒った。啓介が『あいつが死のうが生きようがどうだっていい』と言い、それで涼介が怒った。
あいつとはつまり、
「中里か」
「あいつを、アニキは何か、あいつが何か引っかかってるのかもしれねえ。そうでもなけりゃいくらこっちのヤツが話流しちまったからってわざわざあっち行くかよ。行かねえよ普通。謝るんなら電話で済む、っつーか、そもそもあっちが考えナシでやったことなんだから自業自得なんだよ、アニキが謝る必要なんてねえ、アニキがあいつに謝る必要なんてねえ、あいつが何やったか知んねえけど、どうせ何か変なことやったんだろうけど、アニキが関わる必要なんてねえんだ、アニキが」
「ちょっと待て」
啓介はそれまでの落ち着きを捨て去るがごとくまくし立てた。その話の内容を認めていた史浩であったが、わいた疑問につい右手を前に伸ばしていた。啓介は息を吸い込んでから、何、と短く聞いてきた。
「あっちに行った?」
「あ?」
「涼介がつまり、中里に会いに、中里に謝りにわざわざ自分で行ったってことか?」
啓介は驚いたように目を見開いた。史浩は頭の中心が冷えていくのを感じた。確信を秘めた声で啓介が、「知らねえのか」と言った。
「いつのことなんだ」
「三日、じゃねえ、ええと四日前」
「ああそうか、それじゃあ最近あいつとは話をしてないからな。俺が知らなくても当然だよ」
史浩は会話を滞らせぬために嘘を選択した。啓介は眉を動かしたものの、そうだな、と頷いた。その先に言葉はなかった。
不自然にならぬ長さの沈黙を作らねばならなかった。史浩はともかく考えた。昼間涼介は何も言わなかった。車やチームに関することでは事前事後問わずの報告が互いに必須であり、涼介が規則を違えることはない。ならば向こうに行ったことは涼介の個人的なことか。涼介はいつからかは知れないが車もチームも挟まない関係を中里と築いていた。とするならば昼間の感傷も中里が及んだゆえで、啓介に対しても怒りを隠せなかったということか。嘘は下手だと涼介は言った。辻褄は合うだろう。
しかし史浩はその考えを捨てた。推測に過ぎなかったし、核たる問題ではない。
今唯一明らかなことは、不用意に動けばまた妙な噂が立つかもしれない現状で、己の知名度を知らぬわけもない涼介が行動し、史浩に報告することではないと完結させたということだ。それを涼介は問題視していないのだ。
プロジェクトの完遂に誰よりも執心しているのがあの男だった。そこへ至る道に小石が落ちていることすら許しはしない。小さなつまずきすら許しはしない。その男が問題視していないのならば、障害は何もないということだろう。自分たちが心配することではない。必要になればあちらからコンタクトを取ってくるだろうから、それまで口を出すことでもない。何も問題はない。
史浩はそう判断し、それらを啓介に説明しようとしてその顔を見て、出しかけた言葉を喉で止めた。啓介は、孤独の崖に立っているような心細そうな表情をしていた。
ああ違った、と史浩は思った。
こいつは分かっている。
求められているのは合理的な対処法の提示ではない。ふん詰まった感情を処理するための手助けだ。
こいつは涼介じゃあないんだ、と思った。
史浩はこれ以上長くなれば声を奪われるというタイミングで、「それで啓介」と沈黙を破った。
「お前は、どうしたいんだ」
啓介は下唇に右の人差し指を当てながら、今までで最も頼りのない目をして史浩を見てきた。
「アニキが、に」
「涼介、に?」
「知りたいんだ」
「何を」
「何が、あったかって」
声までもが頼りなかった。それを知るのは無理だと現実を突きつけるにはあまりに絶望的な啓介の顔だった。このまま放っておいては精神的成長の糧になるとも思えぬ悩みで、足りない頭を一杯にするに違いない。それで走りに影響が出ては一大事だし、何よりも、見ていて痛々しい。ここで悩みを解消、すなわちその疑問を解消できるよう手を加えてやらないわけにはいかなかった。
しかし無理だよなあ、と思ってしまう。涼介に聞いてたとしても何があったか答えはしないだろう。無駄足は踏まない男だから、もし答えるならば昼に会った時におのずから報告しているはずだ。あの時涼介は、もう何も喋るつもりはないということを示したのだ。口は割らない。シャットアウト。涼介は無理だ。涼介は。
あ、とそこで史浩は思い出した。
これは、相手がいることだ。事態把握の窓口はその相手分、残っているのである。
「そりゃあ俺は、分からないからなあ」
史浩はさりげなく呟きながらポケットから携帯電話を取り出した。だろうけど、と啓介は不満げに唇を尖らせた。
「でもよ、俺が聞いたって答えてくれねえんだよ。俺には関係ねえことだって」
「あいつは意思が固いからな」
「石頭なんだよ、あれで」
「そんなこと言っていいのかあ?」
「ケンカしたことなんて水に流したって顔してよ、全然いつも通りじゃねえのに、それ言うとどうせ怒るんだぜ。これが頑固じゃなくて何なんだよ」
啓介のその言葉と苦々しそうな顔から、嘘が下手、短気で繊細、という涼介の言葉を思い出し、「お前だって似たようなもんだろお」とつい言ったところで、残っていた窓口が液晶に表示された。ためらわずに通話を選択し携帯を耳に当てると、啓介はようやく史浩の動作に疑問を投げかけた。
「さっきから、何やってんだ」
「知りたいことはな、布団の中でウンウンうなってても手に入らないもんだぜ」
「布団じゃねえじゃんここ」
「例えさ」
「だから、どうせアニキは言わねえよ」
「もう一人いるじゃないか」
啓介が、あ、と口を開けたと同時に通話が成立し、はい、と不明瞭な声が耳を打った。
「あ、中里さん?」
確認すると、一拍置いて、ええ、と低い声が聞こえた。啓介は両手をテーブルについて半端に腰を上げ、何か言いたげに口を震えさせているものの、何も言いはしなかった。さっさと済ませちまおうと史浩が名乗る前に、相手が言葉を継いできた。
『そちらは確か、レッドサンズの外報部長』
「はい。その節はどうも、ご無沙汰です」
『こちらこそ。……何の用だい』
特徴的な掠れを持つ声は暗鬱と響いた。覇気に満ちていた交流戦冒頭での中里毅の姿を思い起こし、電話だとまた違った風に聞こえるのかな、と考えながら、史浩は「今お時間よろしいですか」と聞いた。
『まあ、別に構わないが』
中里は構うような歯切れの悪さをもって答えたが、それは気にしないことにして、史浩は本題を切り出した。
「うちの高橋涼介について、ちょっとお伺いしたいんですけどね」
何だ、とゴキブリを噛まざるを得ない状況に追い込まれたような声がした。それも気にしないことにして、史浩は話を続けた。
「近頃様子がおかしいんですよ」
『あいつがおかしいのはいつものことじゃねえのかよ』
間もなく当然のごとく言われ、史浩は虚を突かれた。確かに涼介は独特の気質を持っており、それは一般におかしいと呼べるだけのシロモノであるが、よほど涼介に注意しない限りは数多くのきらびやかな記号によって隠される気質であった。
なぜ中里はそれを当然としているのか?
興味はわいたが、本筋ではなかった。尋ねたとしても警戒心を引き起こすだけだろう。それも気にしないことにして、いやまあそうとも言えるかなあ、と史浩は言葉を濁した。
「けどそこじゃなくて、他の部分で少し、ズレみたいなものがあってね」
『それと俺に何の関係がある』
「それが、えーと、三日、じゃない、四日前? そちらに行った以来でしてね。何かあったんなら、教えてもらえないかなと」
中里は黙した。呼吸音だけがざらついた感覚で耳に響いてきた。何があったのかを思い出しているのかもしれなかった。十秒ほどしてから、いやあ、と間を埋めるような調子の外れた声がした。
『大したことはねえよ。そんな、あれの様子がおかしくなるようなこと、俺には思いつかっ』
あ、と思いついたように中里は言った。はい? と聞くと、いや、とだけ返され、またしばらく呼吸音だけが響いた。何かはあったのだ、と史浩は確信した。悪い、と中里が混濁した声で言った。
『個人的にちょっと、今、あいつに確かめたいことがあるんだが』
「今?」
『後でかけ直すよ、ばっくれやしねえから待っててくれ』
何事かと聞き返す間もなく通話は切られた。史浩は今ってあいつ時間あるのか、と首を傾げつつ、携帯を開いたままテーブルに置き、冷たい水を飲んで一息吐いた。啓介は既に席に腰を下ろしており、ストローをがしがしと噛みながら会話に興味などなかったというように窓の外を睨んでいた。まったく今更な、それを放っておくにはあまりに庇護欲をそそられる幼い取り繕いだった。
「中里はかけ直してくるってさ。何だか個人的にあいつに確かめたいことがあるとかな」
知りたいだろうと思い説明したものの、やはり啓介は興味なさげに、ふうん、と鼻を鳴らすだけだった。だが耳が立っていることは丸分かりだ。短気で繊細、と心の中で繰り返し、史浩は話を続けた。
「多分中里は何か知ってるよ。でもまあ個人的なことみたいだしな、俺らが心配する必要もないと思うぜ」
不意に啓介は急激に史浩を向いてきた。その顔は何かの衝動を抑えるかのように強張っており、目は刃物のように鋭く、短気、という言葉が頭を駆けて史浩は身を固くしたが、無論啓介の手などは飛んでこず、代わりに考えもよらない言葉がそろりと飛んできた。
「クスリとか」
空気を取り去ったかのような沈黙が襲ってきた。
薬。
史浩は浮かべていた笑顔を何とか保った。
「それは、ないんじゃないか」
「そういうやり取りがあるから、言えねえって、考えられなくもねえだろ」
「あいつがやるとしても、もっと足がつかない方法を選ぶだろうさ」
「気付いてほしかった」
とか、と曖昧にするためか小さく啓介は付け足した。史浩はそれ以上断固と否定できなかった。昼の涼介の尋常ではない顔色の悪さ、そのくせ生き生きとしている目は、一蹴できぬ説得力を持っていた。中里にしてもナイトキッズのリーダーでありあのチームは無法者が多いから、闇の繋がりがあってもおかしくはない。
いや待て、と史浩は悪い方向へ暴走しかけた思考にストップをかけた。それは涼介に対しても中里に対しても失礼な考えだ。涼介はそこまで意志は弱くないし、中里も薬物に手を回すほど不義理だとは思えない。二人を信じるべきだ。そう冷静に考えようとすると、でもやろうと思えばやれないわけでもないだろうし、と実施能力についての分析をしようとしてしまい、どっちつかずで史浩は混乱した。
そのさなか、絶妙なタイミングで携帯が着信を知らせた。啓介を見ると、不安げな面持ちで頷いた。史浩は恐る恐る携帯を手にした。
「はい」
『中里だ。終わったよ、すまなかったな途中で』
疲れたような声だった。史浩は考えを悟られぬよう、いえいえ、となるべく陽気な声を出したが、中里は戸惑ったように黙った。首筋がざわついた。やめてくれよ。切に願いながら、あの、と様子を窺うと、ああいや、と困ったような声が慎重に言葉を出してきた。
『その、これはな、ハッキリ言ってくだらねえ話だ。くだらなすぎて酒の肴にもなりゃしねえ、笑い話にもできねえような、そういうくだらねえ話なんだ。だからあんたらが心配するようなことじゃない。ちょっとしたお遊びだよ、そう、何だ、実験だ実験、できるかどうかっつー話で、あいつはできたみてえだが、いやそうじゃねえ。とにかくあいつにあったことってのは大したことじゃない。安心してくれ』
懇願じみた中里の口調からは懸命さが伝わってきた。疑う必要はなさそうだった。大したことではない、その通りだろう。だがなら涼介はなぜ何も言わないことにしたのか。なぜ中里すら概略を語らないのか。一体何があったというのか。
「その実験ってのは、一体何なんだろう?」
たまらず史浩は聞いていた。中里はうなった。
『それは俺からはな、言えないことだよ。聞くならあいつに聞いてくれ。まあ多分全部終わった頃にはあんたには言うと思うぜ。言ったところで別にどうにもならねえことだがよ』
これ以上中里を巻き込むこともためらわれ、なるほど、と話を終結させようとしたが、粘着質な不安がまだ胸に残っていたため史浩は、「最後に一つ聞いてもいいかな」と尋ねた。
『何だい』
「その話っていうのは、何というか、健康や犯罪には関わらないのかな」
「……は?」
中里は素っ頓狂な声を上げた。あからさますぎたか、と後悔しながら史浩は、言い訳がましく言った。
「いやその、さすがにそうなると放っておけないんで、色々と」
『……まあ、捕まりゃしねえと思うが……あいつに限っていくら実験体が必要だからって、変な行動は取らねえだろうし。健康、健康には悪いよりはいいかもしれねえぜ。ヘタに溜めとくよりは』
「溜めとく?」
『ああいやこっちの話だ、うん』
中里の言い方には法に触れるような深刻さはなかったが、出てきた言葉は何とも言えぬ怪しさを持っていた。不信感を捨てきれずにいると、啓介の不安そうな気配が肌に突き刺さった。このままではいけない。
「じゃああいつは、大丈夫なんですね」
史浩は逃げを許さぬように、中里に念押しした。一呼吸置いてから、それまでの不安定さを払拭する力強い声で、中里はただ、ああ、と言った。それは史浩すらも安心できるだけの力強い一言だった。史浩は啓介に目をやって、安心感を口元に送り、頷いた。啓介は一つ大きく肩を上下させた。緊張した空気が緩和される。これで、大丈夫だ。
「どうもありがとう、それならいいんです。夜分に失礼しました」
通話を終える準備に史浩が入ると、慌てたように中里が、あと、と続けてきた。
「はい?」
『ちょっと、あいつに送りたいものがあるんだが、住所を教えてもらえないか』
「ああ、構いませんよ」
十年近く付き合ってきた住所を述べる。ペンが紙を撫でる音があり、住所を復唱された。それでいい、と史浩は頷いた。よし、と中里は強固な覚悟が感じられる息を吐いた。史浩は戻った平穏さから、それに興味をそそられた。
「何を送るんですか」
『え?』
中里は戸惑ったように三秒ほど息を止めたのち、文通でも、と言った。
文通?
史浩が驚き問い返すと、いやッ、と中里は早口で言った。
『一つほらそういう手段があるだろ、その、連絡、連絡手段として』
「はあ、まあ、手段としてはありますね、手紙とか」
『そうそう、古き良き交流手段だよ』
ははは、と中里は何かをごまかすような無理矢理さで笑った。史浩は首をひねった。
「文通、やるんですか?」
『やるというかやらなきゃならない状況になったらそりゃあやらなきゃならない、というかまあ、いや、そういうわけでありがとう、失礼した』
挨拶を返す間もなく、通話は刃物で切られたように終わった。
「……ブンチョウ?」
啓介がうろんげに見てきた。史浩は携帯を閉じ、啓介に顔を戻し、「ブンツウだ」と訂正した。啓介は意味を解せぬように顔をしかめた。
「ブンツウって」
「手紙と手紙を交換する、古き良き交流手段」
「あいつが?」
「ああ」
「アニキと?」
こりゃあさすがに嘘だろう。思いながらも、これ以上の深入りは無用だと断じた史浩は、らしいなあ、と頷いて、有無を言わせぬ大きな笑顔を浮かべた。
「……わかんねえ」
と、啓介は眉根を寄せながらも、史浩を見て、参ったように口を横に広げた。
やれることはやった、と史浩は思った。
(続く)
2004/11/04
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